友達ができたよ
「リーグにぃ食べないの?」
「いや、食べるけど…… 食べるんだけど、あんまし気が進まない」
「まぁ美味しくないしねぇ。ガジローくん食べるかな?」
ナップザックを地面に下ろし、串から抜いた肉を仔狼の口に持っていく。
匂いを嗅いだ後口に入れるが、あんまし美味しそう、いや楽しそうには見えない。
そうだ!
腰に下げた袋からあるものを取り出し、手にした肉串に振り掛ける。
どう変わったか串を口にもっていこうとしたら、横から何かが迫り肉を掻っ攫っていく。
鈍重とまではいかないが、あまり俊敏ではないと思っていた腹減った小僧が大口を開けてぼくの手にしていた串から肉を器用に咥え、奪ったのだ。
「ピリリとした辛味がアクセントになって前よりよくなった。もっとちゃんとした美味しい肉で試したい」
「確かにさっきよりよくなったね。でもそれって護身用に持ってるんじゃないの?」
「うん、泣き風の術に使ってるやつで、唐辛子の粉末だよ」
リーグにぃの串にもかけてあげたら、美味しそうに食べている。
一度唐辛子の粉末をウィンドの魔法に乗せて飛ばせる泣き風の術を見せたことはあるけど、リーグにぃは威力までは知らないんだよね。
目に粉が入ろうものなら水で洗っても余計酷くなるという恐ろしいものなんだ。
水じゃなく、油で洗うというか、目頭とか目の周りを油を染み込ませたティッシュ、いや、この世界ではないか。油を染み込ませた布で目の周りを軽く拭くといいらしいんだけどね。
粉末にしたものを木で作った小さな容器に入れてるけど、取り扱い注意の品だな。
「コンセル」
「ん?」
「名前聞いた。名前コンセル。兄ちゃんが王都の学園に通うことになって、家族で来た」
なるほど、領内の見所のある子供を王都の学園に通わせてるって聞いたけど、その一人がこの子の兄なのか。
でも、家族で来たら領民ではなく、王都民になるんじゃないのかなと、ふと思った。
お兄さんが卒業したら戻るのかな。
「ふ~ん、それで広場で何してたの?」
「匂い嗅いでた。匂いを嗅ぐのはタダ」
この子なんか変わってるよ。
そういや、鰻屋から漂ってくる匂いでご飯を食べるって話を聞いたことあったな。
「匂いを嗅ぎながらパンを食べれば満足度がアップするんじゃないかな。匂いだけだとお腹は膨れないけど、パンを食べながらだとお腹も膨れるしね」
「天才か!?」
今まであんまし感情を出してなかったのに、目を大きく広げ驚きを顔になっている。
「ねぇ、どこ行くの?」
急にスタスタ歩き出したコンセルの背に向け声をかける。
「家に帰る。パンを持ってくる」
はぁ、マイペースな子だなぁ。
「さいでっか。それじゃぁね」
「ばいばい、コンセル君」
新しくできた友達?を呆然と見送り、ぼくらは広場の散策に戻った。
「おい、坊主!」
「な、なにか用ですか?」
2メートル近い背の、ごついがたいのスキンヘッドの男に呼び止められ、リーグにぃが返した言葉は少し震えている。
「あ、昨日来てくれてた」
「おぅ、あの板芝居ってのは今度いつやるんだ? うちの女房と子供に話したら羨ましがられて、今度自分たちも連れてけってうるさくてしょうがねぇ」
確かに昨日見てくれてた人はたくさんいて、その中に他の人たちより頭ひとつ大きく、そして光ってた人がいたよ。
リーグにぃもそのことを思い出したようで、すっかり落ち着いてる。
「ごめんね、まだ決まってないんだ。ぼくの父ちゃんがあの板芝居を作ってて、近いうちに商人さんたちに貸し出そうって話はあるんだけどね」
「うん、でも、行商人に貸し出して近隣の村で見せようってことなんだ」
「そうなのか!? 坊主たちがまたここでやってくれればいいんじゃないのか?」
周りを見ると聞き耳を立てていた人が何人もいたみたいで、大男の言葉にうんうん頷いている姿がいくつか見える。
「プックルくん、いいんじゃないかな。やろうよ」
「う~ん、でも父ちゃんやアルル様に相談してからかな」
勝手にやってもいいかもしれないけど、一応国と繋がりのある商売ってことにしてるからなぁ。
それに商人ギルドとかに届出とかも必要なのかな。
露天や屋台の人とかどうしてるんだろ。
「そっちの事情もあるのかもしれんが、期待してるぜ」
大男は言うだけ言って去っていった。
「プックルくん、あれ」
リーグにぃの指差すほうには、先ほどのコンセル君が立ったままパンを齧ってるのが見えた。
あれっ、もうひとり?
側にもうひとり小太りの男がパンを口にしている。
なんか見たことある気がする。
「夜に警備しに来てくれてる人だよ」
あー、そうだ。見たことあるどころか、知ってる人だわ。
ぼくらが近付いていくと、向こうもこちらに気付いたようだ。
「プックル坊ちゃんに、リーグさん」
「これは画期的」
「こんにちは。もしかしておじさんってコンセル君のお父さん?」
「こんにちは」
「そう。もしかして息子が言ってた天才って坊ちゃんのことですかい?」
「匂いを嗅ぎながらパンを食べるということ言ってるのであればぼくだけど、おじさんが街中でそんなことやってるって知ったら爺ちゃんが怒るんじゃないかな。我が家に雇われてるものが恥ずかしい真似するなって」
「ガイネル様なら言いそうだね」
「あちゃー、恥ずかしいとこ見られてしまったな」
「欠点発見。飲み物が欲しい」
あー、はいはい。
パンだけ食べてりゃ、口の中がパサパサで喉が渇くよな。
確か、あっちで果実水売ってたか。
「昨日臨時収入があったから、飲み物おごりますよ。向こうに果実水売ってたから行きましょう」
ぼくが促すと二人は大人しくついてくる。
二人に果実水を渡して聞いてみた。
「どうしておじさんまであんな恥ずかしい真似してたの?」
「いや~、息子が画期的な方法を教えてもらったとかいうから、つい」
「ついって、もしかしてヴァルツォーク家からの給金って少ないとか?」
「そういうわけではないけど、聞いてくれるかい。おじさんは以前、村に常駐の兵士として働いてたんだけど、その時はうちの息子とかは畑仕事を手伝ったりして芋や果物をもらって食べてたんだけど、王都に来てから息子はそういった間食を手に入れられなくなったのと、今まで手伝いをしてたのにそれが暇になったとかでこの広場で屋台を見てたそうなんだ。おじさんも一緒に匂いでパンを食べてたことについては……内緒ということで頼む」
なんかよくわからんが、コンセル君は王都に来て暇になったということか。
「暇だったらぼくらと遊ぼうよ」
リーグにぃがコンセル君の手を取って声をかける。
年齢に精神が引っ張られるとはいえ、ぼくには言えない言葉だ。
「坊ちゃん達がそういってくれるとはありがたい」
「遊ばない、働く」
もー、この子よくわからんわ。
「ねぇ、君は働くのが好きなの? 食べるものが欲しいから働きたいの?」
「食べるの好き。王都店いっぱいある」
「そうは言っても、ぼくらの歳で王都でできる仕事なんてほとんどないよ……なんかないかなプックルくん」
無茶言わないでよ。




