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腹ペコ坊主

 今日はリーグにぃと中央広場の外れで板芝居を披露している。

 ここは子供たちも結構遊んでたり、王都の住民の憩いの場となっており、もってこいの場だ。


 台の上に板芝居を設置し、リーグにぃが準備を整える。

 今いる観客は、伯父さんの知り合いや商人ギルドで営業して興味を持ってくれた商人さんたちだけだ。


 ぼくは用意してきていた拍子木をカンカンと叩き、高い澄んだ音を辺りに響かせる。

 聞きなれない音だったのだろう、近くにいた人たちが何だろうとこっちを見た。


「よってらっしゃい、みてらっしゃい、板芝居がはじまるよ~」


 ぼくの声になんだなんだと興味をもった人が近寄ってくる。

 板芝居ってなんだの声に口上を続ける。


「板芝居が何かって? それは観てのお楽しみだよ~ 観るのはタダ、つまり無料! でも、気に入ってくれたなら気持ちだけでもこの置いてある袋に入れてくれてもいいんだよ~」


 いつも背負ってるナップザックは口を広げて地面に置いてあった。

 中にいることが多いガジローくんは袋の横で芸とも言えないしょぼいものだが、ゴロゴロ転がり愛想を振りまいている。


 ある程度人が集まったところで、この国の建国物語をリーグにぃが語り、板に描かれた絵を見せ、場面が変わるとそれに合わせて違う絵に変えるという、まぁ紙芝居もどきを披露して見せた。

 リーグにぃって声でその場の雰囲気を表したり、声色をいくつも変えたりと結構読むのが巧いんだよ。

 ぼく的にはこの建国物語って大して面白くもないと思ってたけど、終わってみると拍手喝采の大好評だった。

 商人の人たちがお金を入れると―俗に言うおひねりだけど―集まってきてくれた一般の観客たちもどんどん小銭を投げ入れてくれる。

 商人さんたち、お金を入れてくれてるけど、これって板芝居を貸す代金とかじゃないからね。それはその時ちゃんと貰うからね。


「皆様、ご観覧ありがとうございました。明日も大体同じ時間にここで板芝居をおこなう予定です。なお、お話は本日とは違うものですので、今日ここにいらした方も楽しめると思います」


 三日間ここで板芝居を披露した。

 初日は商人さん以外十数人の観客に過ぎなかったが、二日目には三十人越え、三日目にはいっ体何人いるんだよ、五十人以上は間違いなくいるけど、後ろの人は見えないだろってくらい集まった。

 なお、初日は建国物語で二日目は狼が出たぞーって嘘をつく話をゴブリンが出たぞーに変えたやつ、三日目は赤頭巾ちゃんで、いずれも好評だった。


 商人さんたちの中にはぼくたちがやったような感じで王都で板芝居をやりたいというものもいたが、回答は保留とした。

 他にもすぐ契約したいとか貸してくれという声もあったが、お店がまだできてないんだよ。

 もうちょっと待ってね。

 それと板芝居を作るのは国の許可制になってるって釘を刺すことをもちろん忘れてはいない。

 ぼくはせこい、独占こそうま味があるってことをしってるんだ。


 三日間の板芝居公演?が終わり、ぼくらの財布は一気に膨らんだ。

 銅貨などの小銭も多かったが、中には小金貨とかもちらほら見られ、合計で金貨2枚近くにもなった。

 分配はリーグにぃが5、ぼくが3、板芝居の借り賃として店に2ということにした。

 リーグにぃは恐縮してたが、学費を稼ぐにはまだまだ足りないだろうと強引に半分を押し付ける。


 ていうか、物珍しいことからのご祝儀相場なんだろうけど、こんなに儲かるなら自分たちで王都で板芝居を見せて廻ればいいんじゃねとか密かに思ってみたりしたとかどうとか。



 三日が終わった翌日もぼくらは中央広場に来ていた。

 だって、三日前に来たのが初めてで、それまでここに来たことなかったんだもん。

 あ、リーグにぃは違うって。


 三日間は終わった後重くて邪魔な板芝居があるからすぐに帰ったし、ここって全然見て回ってないんだよ。

 なんか露天とかもあるし。


 ん?


 どっかで見たことあるような……


 ぼくと同い年くらいかな、でも体は少し大きいような。

 ぽっちゃりとした男の子が指を咥え、もう片方の手はお腹に当てて露天を眺めている。

 ぽそりと聞こえたその言葉『お腹すいた』。


 あー、あの子だ。

 ぼくと一緒に誘拐されかかった子だよ。

 あの時も泣きもせず腹減ったとか確か言ってた。

 でも、ヴァルツォークの領都でのことだったのに、どうして王都に?


 ぼくは自然に声をかけていた。


「やぁ、君って半年くらい前にヴァルツォーク領にいなかった?」

「いた。君誰?」


「ぼくプックル、5歳! こっちは従兄弟のリーグにぃ。半年くらい前にぼくはヴァルツォーク領で誘拐されかかって、その時に君も一緒にいたと思うんだけど、そうだよね」

「うん、誘拐されそうになってお腹が空きすぎて死ぬかと思った」


 あ~、さいでっか。


「君なんて名前? それとどうして王都にいるの?」

「お腹すいた」


 く~、要求してるのか? ぼくに奢れと。

 すぐ近くの露天で売ってるのは串に肉を刺して焼いたものか。

 わかったよ。


「おじさん、それ2本ちょうだい。あ、リーグにぃはどうする?」

「ぼくも1本ちょうだい」


 それぞれが露天のおじさんにお金を払う。

 なぜか主人公が稼いだお金を全部持っていってて、物を買うときは主人公が全部払うなんてことはぼくはしないのだ。

 普通に稼いだお金はリーグにぃと分けてるし、二人で出かけたときの食事や買い物はもちろん自分の分は自分で払ってもらう。


 受け取った肉串を1本齧り、1本をあの子に手渡す。

 すると串を横に持ち、口に咥え一気に引っこ抜く。咥えてない肉が口の横から落ちる間もなく、そちらに喰らいつく。

 おぉ、冗談抜きで凄いわ。

 ぼくは薄っすらと塩味のする、焼きすぎなのか脂が抜けて硬い肉をモグモグと噛みながらその芸を眺めてた。


「あんまし美味しくないね」

「うん」

「なんだってー、おれっちが一生懸命焼いてるこれがまずいってのかよー」


 ぼくがボソッと言った声にリーグにぃが同意し、屋台で売ってたあんちゃんが怒りの声をあげる。


「肉の質が悪い。血抜きが不十分で生臭い。焼き方が悪い。焼きすぎ。味付けが悪い。塩の振り方に偏りがあるし、量が少ない」


 あんまし喋らない腹減った小僧がたくさんの言葉で駄目出しをすると、あんちゃんの顔がみるみる赤くなったと思ったら、急にがっくしと肩の力を落とした。


「はぁ、不味いか」

「美味しくない。奢ってくれるならあっちの店がよかった。さっき眺めてたのはあっちの店だった」


 あー、はいはい、すみませんねー

 なんか投げやりな気分になってくる。




 あんちゃんのなんとも言いようのない哀愁漂う雰囲気にいたたまれなくなり、ぼくらはその場を後にした。


 ていうか、君も来なさい。


 突っ立ったままの男の子をぼくは引っ張って、そこから移動させるのだった。


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