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横槍

「それではこれで契約成立となります。引渡しは1週間後となりますので、準備をお願いします」


 お店の持ち主、商人ギルドの人間、ぼくらの三者でお店の売買契約をおこなった。


 お値段なんと金貨250枚!


 建物の値段が金貨200枚に商人ギルドへの仲介手数料が20パーで40枚。王都内の土地は全て王のもので税金という名の借地料が半年で10枚、しめて金貨250枚!

 税金が年間金貨20枚ってやっていけるんかいな、と思わないでもない。

 でもそこはそれ、アルル様から5年間はそれを免除してもらえるよう話がついてるんでひと安心。


 建物の引渡しが1週間後ってのは、なんでも売約成立後に店を畳んで引越しをするためとからしい。


 ギルド内の個室で契約手続きをおこなった後、ギルド長が呼んでるとのことでその足でギルド長の部屋へと向かう。

 トントンとノックをして、どうぞの声で中へと入る。

 この世界ではノックの回数は特に決まっていないらしいが、大体皆2回とのことだった。

 日本も昭和の終わりごろまではノックは2回って教えてたけど、最近は外国の流儀のトイレは2回、家族や友人など親しい相手には3回、礼儀が必要な場所は4回以上。ただしビジネスの場では省略して3回でもオッケーとかよくわからんルールが蔓延してる。

 でも年配の人なんかは何度も叩くな、2回でいいんだって言い張る人も多い。

 そんなこんなでノックのマナーなんて面倒この上ないが、ここではそんなものなくてよかった。


「先日はすまなかったね。あんなのでも副ギルド長という肩書きをもっていて、なかなかに面倒なのだよ」


 部屋に入るとすぐにソファの方に案内され、この前の副ギルド長が乱入して話ができなかったことを謝られた。


「今日呼ばれたのは先日の続きということでよろしいでしょうか」

「そうなんだ、頼む。商人ギルドは国とは関係のない独立した組織ということではあるが、なかなか権力をもった貴族様の頼みは断りにくかったりするなど色々大変なのだよ。それでも無条件で言うことを聞かずにできるだけ正しい判断を下せるよう努めてはいるのだ」


 それがあの伯爵家のとっちゃん坊やということか。

 能力も高くなさそうだし、権力のごり押しで副ギルド長になったかな。


「王都の副ギルド長は彼の他にもう一人いるんだよ。そちらは商人からギルド員になり、順調に昇進していったので問題ないのだ。この王都では監査の意味もこめて貴族からひとりギルドに出向してくることになっていて、その者にも副ギルド長という肩書きを与えているんだ。前任者は優秀な方だったんだがねぇ」


 ぼくがあの我侭なやつのことを思って顔をしかめたのに気付いたらしく説明してくれたが、彼の表情も少し歪んでいた。


「まぁ、そんな面倒なやつには関わらないに限るな。それで男爵様からの紹介状にはなんて書いてあったんですか?」

「手紙を持ってきたものが国と連携して店をやることになったので、店舗の紹介と支援を頼むとありました。詳細は直接あなた方に聞くようにとのことでした」


「そっか、それじゃぁプックル頼む」


 えー、丸投げかいな


「じゃぁ、説明するね。かくかくしかじかというわけなの」


 絵を見せながら物語を語る、芝居や吟遊詩人みたいな板芝居というものを作ったので、それを娯楽の少ない村なんかに広めていきたい。

 行商人なんかが村を廻って物を売るついでに娯楽も提供すれば喜ばれるのではないかという話をした。

 ここだけの話だけどと、王国の成り立ちや貴族の武勇伝なんかも庶民に広める契約で板芝居の作成はぼくらの独占、もしくは作成は許可制になることも教えた。

 後日ギルドを通じて興味がある人に店を紹介してもらったり、板芝居を勝手に作ることは禁止されてることを周知させて欲しいという希望を伝えるのも忘れない。


「そういうことですか。ここだけの話ですが、国をバックにつけるとはやりますね」

「ふっふっふ、ラパウルよ、お主も悪よのう」

「またプックルはその遊びをやってるのか。なんだっけ? 悪代官ごっこだったかな。いえいえ、プックル様ほどでは、だっけ?」


 馬鹿やってると、部屋の外が騒がしくなった。


「ここにそいつらがいるのか?」

「勝手に入られては困ります」

「いいからそこを退け!」


 部屋の扉がバンっと音をたてて開き、そこから入ってきたのは……またあいつだ。


「ローランド様、申し訳ございません。お止めしたのですが、どうしてもと無理に」


 おろおろした若い女性が頭を下げる。


「ん? 見た顔だが」

「お坊ちゃま、先日ここに来た時ギルド長と話をしていた者です」


「そうか、お前らなのか?」

「えっと、なんのこと?」


「餓鬼が口を挟むな! おい、そこのお前だ!」

「俺のこと? えっとどういうこと? なんでそんなに怒ってんの?」


 ラパウルの立て続けの質問にとっちゃん坊やの顔がみるみる赤くなっていく。

 沸点ひくっ、ていうか煽ってるわけじゃないと思うんだけど……

 ただただ状況がわかんないんだよね。


「あの店だ、あの店をお前が買ったのか?」

「は?」

「このギルドの前の道を少し行って左に曲がった先にある小さなお店のことですよ」


「あぁ、両隣を大きな店に挟まれてるこじんまりとした店のことか。俺らが買い取って、先ほど契約も終わったぞ」

「ぐぬぬぬ~、契約は無効だ! あの店は僕が買い取ることになってるのだ!」


 ぼくら親子は二人揃って視線をギルド長に移した。

 すると目の前の恰幅のいい男は軽く頷き言葉を発する。


「既に正式に契約を交わし、書類にサインも済ませていると聞きます。理由もなくクレル副ギルド長の一存でそれを覆すことはできませんよ」

「何を言っているのだ! 貴族の僕が無効だといったら無効なのだ!」


 一層顔を赤くして喚いてるが、もう駄々っ子のレベルだよ。

 泣く子と地頭には勝てぬというが、聞き分けのない我侭なのって嫌いなんだよな。


「えっと、ぼくらのお店って公爵様や侯爵様の後押しでお店やることになってるんだけど……」

「「えっ?」」


「お坊ちゃま、ここは引き下がったほうがよろしいかと」

「ぐぬぬぬ」


 とっちゃん坊やはわざと足音をドスンドスンたてながら部屋から立ち去った。


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