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お店を借りるよ

「こんなに貰っていいのか?」


 目の前に積まれた金貨の袋を見てラパウルが声を漏らす。


 三公五侯と呼ばれる上位貴族への訪問が終わった。

 なお、伯爵も上位貴族と呼ばれるが、最初からあまり増やしすぎても大変だということで、まずは公爵と侯爵から始めることになったのだ。


「八貴族家から合計金貨1600枚をもらったからな。その4割をお主たちの取り分ということで異論はないな」


 ぼくの視線はカイゼル髭をなでつけ弾いてるアルル様と金貨の袋の間をうろうろしてしまう。

 膝の上で握った手は汗でじっとりしてきてるのが分かる。

 金貨640枚かよ、数十年は働かなくてもいいんじゃね。

 いや、これから仕事をすることに対する報酬みたいなもんだから、働かないわけにはいかないか。


「分かっていると思うが、その金は板芝居を貸すための店を出すためのものでもあるのだぞ。国がバックについての商売なのでそれなりの店構えのものでなくてはならん」


 商人の爺ちゃん家の店の隅でやろうかと思ってたけど無理か。





「小さくていいから大通り沿いで空き商店ってないかな」

「いや、あれ先に出した方がいいんじゃないの?」


 商人ギルドにやってきたぼくたちは、受付の若い男性にお店を借りる相談をしていた。

 ぼくの指摘でラパウルが懐から手紙を取り出す。

 上質な紙の封筒には封蝋がしてあり、貴族もしくは高貴な人からのものであることが窺える。

 アルル様に商人ギルドでお店借りたり便宜を図って欲しいから一筆書いてってお願いしたら、サルモさんが……あ、サルモさんは板芝居管理部のナンバー2の人ね。

 そのサルモさんが、王族からの紹介状はやりすぎだから自分が書くよって、男爵家からの紹介状を書いてくれた。それがこれ。

 男性は手紙を受け取ると、少しお待ちくださいと席を後にした。


「遅いねぇ」

「そうだな、男爵じゃ弱かったんじゃねーのか」


 10分くらい経っても受付の人が戻ってこないので、ラパウルが失礼なことを口にする。

 そこからもう10分くらいしてやっと戻ってきた。


「大変お待たせいたしました。ギルド長がお話を伺いたいとのことですので、こちらへどうぞ」


 待たせすぎだよ。

 暇なので膝の上で遊ばせていたガジローくんをナップザックに戻し、カウンターの横にある階段から上へとあがっていく。

 案内されたのは、さすがにアルル様の応接室には負けるが、それでも高そうな調度品とかがある大きめの部屋だった。


「お客様をお連れしました」


 受付の人が目の前の大きなデスクの向こうに座っている人に一礼して部屋を出る。


「はじめまして、王都の商人ギルドの取り纏めをやっているローランドだ」


 50くらいだろうか、恰幅のいい男が席を立ち、部屋の横のソファへと移動し、ぼくらもそちらに促される。


「はじめまして、ラパウルです。お忙しいところお時間をいただきありがとうございます」

「ぼくプックル! 5歳!」


 挨拶を終えて、ソファに腰を落とす。

 両者の間のテーブルには先ほど受付で渡して手紙が開封され置いてある。


「男爵様から国の事業に関連して店舗が必要なので紹介して欲しいと書いてありましたが、詳細をお伺いしてもよろしいでしょうか」



「困ります、今来客中ですので」


 ラパウルが説明しようと口を開こうした時、部屋の外から騒がしい声が聞こえ、ドアが乱暴に開く音にそちらを振り向いてしまった。

 脂ぎった小太りの男が秘書なのか執事っぽい初老の男性を連れて入ってきた。


「ローランド、こいつらはなんだ?」

「失礼ですよ、この方々はルンモ男爵様の紹介状をお持ちになって、ただいまそのお話を聞いているところです」


「はじめまして、ラパウルです」

「プックルです」


 ラパウルが席を立ち挨拶をおこなったので、ぼくもしぶしぶ立ち上がり名前を名乗る。


「ふむ、ぼくはミニステル伯爵家のクレル・ミニステル。この商人ギルドで副ギルド長をやっている。男爵ごときの紹介状とはお笑いだ、お前らとっとと帰れ! それよりローランド、話がある」

「クレル様、もう一度言わせていただきます、失礼ですよ。ただ今こちらの方とお話中ですので、用がおありでしたらその後に願います」


 なんだ、この我侭とっちゃん坊やは。これが副ギルド長だって?

 憤慨してたら、膝の上に置いてたナップザックから頭を出してるガジローくんがぼくのお腹をぺちぺちと叩く。

 なんだって? 引くな、やれってことか?

 そんなわけないか。ただ前足でぼくのお腹をぺちぺちやっただけだな。


「ローランドさん、おれらは空き店舗を紹介してもらいたかっただけだから、これで失礼します」

「そうだ、庶民は帰れ、帰れ」


 いや、帰るけど、わざわざ煽る言葉かけなくてもいいでしょ。


「申し訳ございません、後ほどお話をお聞かせください」

「は~い、それじゃぁねぇ~」


 ぼくらはそのまま部屋を後にして、さっきの受付の人のところに戻ってきた。

 接客中ではなかったみたいでよかった。


「もうお話は終わりましたか?」

「いや~、副ギルド長とかいうのが来て、そいつに追い出されちゃったのよ」


「それは災難でしたね。ここだけの話、好き勝手やって職員みんな困っているんですよ。それで空き店舗でしたっけ」

「それなんだけど、ギルド長さんとお話した後にしない? というわけで、アポイントメントとりたいんだけどいつが空いてるかな」


 ギルド長さんに話を通した後の方がいい物件紹介してくれたり、安くしてくれたりしないかなって、ちょっと期待しているんだ。


「副ギルド長が今一緒にいるんですよね。あの方はあまりここには来ないし、来ても小一時間もしないうちに帰ってしまうので、すぐいなくなると思いますよ。その間に物件のほうを少し紹介しますよ」


 そういうのだったら、しょうがない。


 受付の男性が持ってきた資料を確認しながら空き店舗情報を教えてくれた。

 町の中心を貫く大通り沿いはそもそも人気がありすぎて、廃業の噂が出る頃にはすでに次が決まってるなんてことが普通らしく、今紹介できるものはないらしい。

 それじゃ、しょうがないよね。


「中央の大通りと交差して何本かある大きな通りでいいんじゃないかな」

「そんなとこだろ。ないっていうんだし、アルル様も無理言わないだろ。それに中央大通りって大きな店というか建物ばかりだけど、もっとこじんまりしたのでいいと思うぞ」


 あーだ、こーだ言いつつ、何件か実際に見に行った後、商人ギルドからそれほど離れておらず、中央の大通りに交差する大きな通り沿いにある大きな店。とその隣にある大きな店。に挟まれてなぜか存在する小さな建物に決定した。

 両隣にある大きな店ってのは、周囲の土地を手に入れそこに大きな店を建てただけで、元々はその間にある小さな建物と同じ大きさだったらしく、元々の区画割がおかしかったわけではないらしい。

 大きな店に挟まれて目立ちはしないが、一般のお客さんが来るってわけでもないし、来るのは商人とか常連さんばかりになるはずだから問題ないでしょ。



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