アルル様とお仕事
商人科の見学が終わり、次は婆ちゃんの孫、つまりぼくの従兄弟たちの授業風景の見学だ。
教室の後ろから授業を受けてるのを見たけど、どれが従兄弟かわからん。
マーカス以外見たことないしな。
黒板に教師が色々書いたりしてるけど、それをノートに書き写すといった勉強方法はとっていないみたい。
皆真剣に話を聞いており、時折何かを書き記す程度だ。
おっ、あれはマーカスか。
前あったときは生意気で口の悪い子供って感じだったけど、真面目に授業受けてる。
他にも数人の授業を見学してぼくらは学校を後にした。
見て思ったけど、皆真面目に勉強してた。
特に貴族ではない平民っぽいのが特にやる気に溢れてる感じだ。
まぁ、自分が住んでるところを治めている領主やなんかの貴族にお金を出してもらって勉強してるんだから、期待にこたえられないとまずいよね。
頑張るわけだわ。
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ぼくらは今日はあるお屋敷に呼ばれて来ている。
あるお屋敷っていうのは王弟のアルル様のところなんだけどね。
「よく来た、ラパウルにプックル」
「アルル様におきましてはご機嫌麗しゅう存じます」
「この前は王様への特許制度の提案ありがとうございました」
「よいよい、前にも言ったがそのような話し方をしておっては面倒でかなわん」
「ありがとうございます。わたしもヴァルツォーク家を飛び出し、平民として暮らし、今ではそちらの方が性に合ってたとつくづく感じております」
「それで今日呼んだ理由だが、板芝居管理部で働く人間の選定がやっと終わり、動き出したことを伝えようと思ってだ。それと小僧の持ってきた特許管理部の方も俺がトップとしてやっていくのは聞いていると思うが、そちらの方がめんどくさそうだぞ」
「息子がご面倒おかけして申し訳ございません」
父ちゃんが頭を下げるが、アルル様はそれを制する。
「面倒ではあるが、国のためとあらば王族としても力を貸さねばなるまい」
「ありがとう、他にもいろいろ面白そうなこともあるから、そのときもお願いね」
「おいおい、お手柔らかに頼むぞ。まずは板芝居だ。初代国王の逸話や建国物語、王家に関わるものをいくつか城で披露してもらえないかな。他に三公五侯の有名な話などを板芝居にして、それぞれの家の屋敷で読んで聞かせ、各貴族の許可をもらう。あ、貴族の許可の前にというかまず板芝居管理部で内容の吟味をおこなうのが最初だね。物語を通じていいこと悪いことなどの道徳教育を行うといったことは少し後回しになった。どの貴族も自分の家の素晴らしいところを宣伝したいらしい」
「わかりました。とりあえず王家や主だった貴族家を称える物語はできておりますので、いつでも大丈夫です」
「その貴族の話ってのは自分の領地内限定で広めるってことだよね。他所の地域にまで強制させないよね」
領民が他所の領主のほうがいいなんて思うといいことないからね。
「では後日、城にて板芝居管理部のものに紹介するので、その時に作ってある板芝居を持ってくるように。それより、さっきから気になっていたのだが、その背負っているのはなんだ?」
「ガジローくんだよ。だしていい?」
「粗相をせぬのであれば好きにせい」
「ありがとう、大丈夫だよ」
背負っていた袋から仔狼を取り出し、床へと放つと辺りをクンクン嗅いで回っている。
妖精の魂が影響しているのか、糞尿などは滅多に出すことがない。
もっとも、美味しいものを食べることは好きみたいで、人と同じものを結構食べている。
それなのに、あんまし便を排出しないとはどういう仕組みなんだろう。
狼に転生したといっても純粋な狼とは別ものみたいで、不思議生物だ。
「半年前といったか。それにしては小さいんだな」
「はい、パピィ病だそうです」
「やはりか、パピィ病は長生きせぬと聞くが、そなたのガジローとやらは元気なのだな」
「うん、ガジローくんには楽しく生きてもらってるからね」
「どういうことだ?」
「あんまし知られてないけど、パピィ病ってのは面白いことや楽しいこと、珍しいことをいっぱい経験させてあげるといいの。日常に変化がなかったり退屈だったりすると、だんだん弱って死んじゃうの」
妖精うんぬんってことは内緒だ。
「なにっ! ほんとうのことか?」
「もちろん」
「誰か、急ぎ馬車の用意を! 城へ急ぐぞ」
「お忙しいようですので、私たちはこれで」
「いや、お主らも一緒に来い!」
なんだろう、今日は板芝居のことで話があるっていうから来たんだけど。
王弟だけあって豪奢な馬車だが、がたごと揺れるのは伯父さんの馬車と同じだ。構造的な作りもそれほど違いはないのだろう。かといってサスペンションなんか作れないしな。
がたごと揺れにそって抱いたガジローくんを大きく上下に揺らせて遊びながらそんなことを考える。
城区への門もこの馬車だと止まることなく、そのまま抜けていく。
流石に城内に入る際にはぼくらには武器を預けるよう言われたが、もっともそんなもの最初から持っていない。いや、ラパウルは持ち歩けよと思わないでもない。
そのままアルル様について城の奥へ。
アルル様から王族の居住区のすぐ手前の客室で待つように言われ、しばし待つことになった。
座っているソファーは王宮内のものとはいえ、それほどのものではない。
でも地球だとソファーってそれほど古くからあるものじゃないから、あるだけ凄いのかな。
もちろんコイルやウレタンといったクッションがあるわけではなく、木製の長椅子に背もたれと肘掛があり、なんらかのクッションみたいな詰め物で体を柔らかく支えてくれるといったものだ。
爺ちゃんの家にもあるが、こっちの方が少し高級感あるかな。
「父ちゃんなにやってんの?」
ソファに座らずに立って壁や装飾品をじっくり見ているラパウルに声をかける。
「いや~、以前話してくれただろ。覗き穴とかがどこかにないのかなって探してるんだよ」
「しーっ、ほんとにあったらまずいでしょ。そういうのはこっそり、じゃなくて自重してね」
以前、客に客室で待たせている間の会話をその家の主がこっそり聞くなんて話をしたことを思い出した。
待ってる間も悪口を言ったり気を抜いちゃ駄目ってその時確か言ったかな。
ぼくらは二人ともソファに座り、出されたお茶を口にした。
お茶っていっても、紅茶なんだけどね。
部屋に入って少ししてメイドさんがティーワゴンを押して入ってきて、紅茶を入れてくれたんだよ。
ぼくらの覗き穴とかの馬鹿話をしても表情ひとつ変えずに部屋の隅にじっと控えている。
「待たせたな。それと覗き穴は見つかったか?」
「!!? 見ていたんですか?」
「この部屋の扉の外に騎士が立っているが、お前たちは声を抑えることもしておらず外にまで聞こえたそうだ。そして俺が入ってくるときにその話を教えてくれたというわけだ。覗き穴の有無については答える気はない。だが、迂闊な真似はしないことを勧める」
アルル様が入ってきて少しして扉がノックされ、小さな女の子とそれについて侍女さんかな、が入ってきた。
女の子はぼくよりちょっと年が上だと思う、10歳くらいかな。
ぼくらの前でカーテシーを可愛らしくおこなったのをみて微笑んでいたら、首根っこを捕まれ無理やり立ち上がらせ、頭を下げさせられた。ラパウルの仕業だ。自分もピシッと90度にお辞儀している。
「はじめまして、ロレーヌです」




