学校見学
「お婆ちゃん、今日はありがと」
「奥様、ありがとうございます」
「いいのよ、いつもお爺ちゃんお願いとか言って、羨ましかったんですから。たまにはお婆ちゃんも頼ってね」
今日は学園の見学に来ている。
以前父ちゃんの知り合いの教師に会ったことがあって、今回その教師に学園の見学をお願いしたけど無理って言われてしまった。
うちの父が侯爵家の人間だって知ってるから、実家に頼んでみたらってアドバイスはくれたけどね。
いつものように爺ちゃんに頼みに行ったら、今日は留守だった。
そこで婆ちゃんが一緒にいってあげるわということで、ぼく、リーグにぃ、婆ちゃん、筆頭執事のピンタークさんの息子で同じく執事であるピルトールさん。息子といっても父ちゃんよりもだいぶ上の歳の人なんだけどね。その四人プラス、ナップザックに入ったガジローで来ている。
できるだけ色んなところに連れて行ってあげるようにしているんだ。
侯爵家の当主の夫人が一緒なので、誰も文句を言ってはこない。
「今日はリーグちゃんのために商人科でどんなことを教えているか見に来たのよね。ついでにマーカスや他の孫たちの勉強しているところを見ていいかしら?」
「もちろんだよ、でもマーカスくん以外にも学園に通ってる子がいるんだね」
「そうよ、私の長男の子が二人、次男の子が一人、ちょうど学園に通ってるのよ」
「奥様、こちらでございます」
執事のピルトールさんが案内しようとするのを婆ちゃんが止める。
「ピルトール、違うのではなくって? 今日はプックルちゃんとリーグちゃんの見学が主の目的であって、私が孫たちの様子をみようっていうのはついでなのよ。その辺りの気遣いはあなたの父のピンタークにはまだ少し及びませんね。さぁ、副学園長さん、案内お願いしますね。まずは商人科からですからね」
「かしこまりました。それでは皆様こちらでございます」
「差し出がましい真似をしてしまい申し訳ございません、奥様」
いつも優しい婆ちゃんのピシャリとした物言いに少しびっくりしてしまった。さすがお貴族様だ。
呆気にとられてボーっとピルトールさんを見てたら睨まれた。
「ピルトール! この子はわたしの可愛い孫なのよ、それを分かってるのかしら?」
「申し訳ございません、奥様」
「謝るのはわたしにではありませんよ」
「申し訳ございません、プックル様」
ピルトールさんがぼくに向けて腰を90度に折り曲げて謝罪の言葉をかけてきた。先ほどのような剣呑な目の光はなくなっている。
隠すのが巧いのか、雇い主の言うことには絶対で、気持ちに折り合いをつけたのか知らないが、ぼくのことを恨まないでね。
「ぼくは平民だから、そんな気にしなくていいよ」
「だめよ、あなたは自分のことを庶民だ、平民だなんていうけど、わたしの孫であるということに違いはないのよ。それでも平民だといいたいのであれば、使い分けなさい。あなたならできるでしょ」
「わかりました」
「だけど、お婆ちゃんには今までどおり畏まらずに接してくれると嬉しいわ」
「うん!」
ぼくの返事に婆ちゃんが頭を撫でてくれて、自分の顔に自然と笑みが浮かんだのがわかる。
前世も一般人で、この世界で生まれてからもずっと庶民的生活を送ってきたから難しいけど、なんとかうまくやってみるよ。
「プックルくん、どう思う?」
「どう思うって、教えてることは悪くないと思うよ。その内容が伯父さんやリーグにぃが知らないことがたくさんあるのであれば、学園に通うのもありだと思うよ」
さっき見た授業では各国の商売に関わる法律や、商人ギルドがどういったもので、どういったことができるかを教えており、ぼくもちょっと興味をひかれた。
今見てるのは、格闘術の授業。無手でも身を守れるようにというらしい。
組み技とか投げ技ないのかな、二人組みでパンチやキック、それを避けたり捌いたりしてる。
あと短剣術の授業もあるらしい。
それに護衛との連携や、護衛に上手に守られるには、なんかも教わるそうだ。
商人が貴族のぼっちゃんなんかと顔つなぎ目的に学園に通うんだろうと思ったけど、予想外に本格的だわ。
「勉強になることは多そうだけど、やっぱり学費が高いよね」
「魔術科とかに比べて倍でしょ。ぼったくりだよ」
「リーグちゃんだったら、我が家で学費くらい出すわよ。もちろんプックルちゃんもね」
「ありがとうございます、奥様。まだ、学園に通うかはわかりませんが、自分たちで都合がつかないようでしたら頼らせていただくかもしれません」
「ぼくは自分でお金貯めてるんだよ」
「副学園長さん、学費っておいくらでした?」
「はい、騎士科や魔術科などは学費だけで年間金貨50枚、商人科は金貨100枚となっております」
あれ、ヴァルツォーク家として領内の有望な子供を学園に何人も通わせてるんだよね。
毎年数人として全学年だと10人以上とかいるのかな。
学費だけでめっちゃお金使ってね。
この前金貨10枚ねだったのって、ヴァルツォーク侯爵家からしたらほんとに微々たる額だったのかも。
「お金貯まってる?」
「う~ん、今金貨15枚くらい。もうちょっと頑張らないと間に合わないかも」
「この前プックルちゃんが持ってきてくれたオルゴールだったかしら。あれなんか金貨千枚払ってもおかしくないって主人が言っておりましたよ」
あちゃー、庶民的金銭感覚の持ち主だから、金持ってる貴族の金銭感覚はよくわからないんだよな。




