おねだり
「爺ちゃ~ん、お小遣い頂戴、金貨10枚!」
「プックルや、そんなに何に使うのじゃ?」
「内緒! でも、爺ちゃんのためになるものだよ」
「内緒か、しょうがないのう。お前さんがわしの為になるというのであれば間違いないのであろう」
ちょろい、それでいいのかよ。金貨10枚って日本円で100万くらいだぞ。
「父さん、それでいいのか? マーカスが同じこといったら叱り付けるだろうに」
マーカスって? って思ったけど、あれだ。ヴァルツォーク領に行ったときに突っかかってきた次期当主の息子、四男だったかな。
「あやつもプックルと同じ孫であるが、ヴァルツォーク家の名前を背負って生きているからには厳しくあらねばならん、教育方針が異なるのだ。ラパウルはヴァルツォーク家を出ておるのでプックルは可愛がるだけでよいのだ。それに賢いのでお金を渡したとしても無駄にはせぬだろ」
「うん、失望はさせないよ」
「俺もプックルには期待してるよ。面白いもの見せてくれるしね」
「プックルちゃん、お婆ちゃんにも頼みごとしていいのよ」
ヴァルツォークの爺ちゃんのとこに行くと、大体いつもまずは応接室に案内され、そこに爺ちゃんと婆ちゃん、それにうちの父ちゃんの兄さんのパーチルさんが来ることが多い。
今日もその3人と執事のピンタークさんが後ろに控えている。
「お婆ちゃん、ありがと。今度何かあったら頼らせてもらうね」
「マーカスもこのくらいいい子だったらねぇ」
さっきからマーカスの名前がよくでるからなんでだろと思ったら、今年の春から領地からこっちに来て王都の学園へ通っているらしい。
この屋敷から通うと通学に時間がかかるので、学園の近くにヴァルツォーク領から勉強しに来ている子達用の家を用意しているらしい。そこにマーカスも一緒に居るんだとか。
あ、もちろん使用人たちもちゃんといるお屋敷だよ。
ぼくの場合はどうだろ、学校に寮があるっていうけど家から通学かな。
歩いて40分程度だし許容範囲だろう。
金貨10枚をポケットにぼくは鍛冶屋に来ていた。
この前爺ちゃんが有刺鉄線を作らせた鍛冶屋だ。というか鍛冶工房だな、弟子が何人もいるし。
その時ここにはヴァルツォーク家の使用人と一緒に来ていて、爺ちゃんからの手紙も手渡しており、その内容も知っている。
孫のぼくの言うとおりに物を作るように。そして作成に弟子は関わらせずに、作ったものは秘匿するようにというものだ。
ここで櫛状の音を出す部位である振動板と凸凹のないシリンダー部分の作成を依頼した。
ヴァルツォーク家からの依頼ではないが、前回の記憶を刺激させ、ヴァルツォーク家からと誤解させつつ、依頼内容、作成物について口止めさせる。
ついでにここの親方には木の装飾が得意な職人に紹介状を書いてもらった。
貴族からの仕事と誤解されるように話を進めていく。
送る相手は高貴な方だから、きちんとしたものを造ってもらわなくてはならない。
そちらではオルゴールの外側の箱部分の作成を依頼した。
ぼくは記憶を頼りに、あのオルゴールでバレリーナがよく踊っているやつがどんな曲で踊ってたかを思い出す。
目を閉じ、口ずさみつつピアノを弾いている感覚で指を動かす。そしてそこから譜面に起こしていく。
楽譜なんかネットですぐ探せたからこういう作業はあんまししたことがなかったので少々面倒だったが、慣れれば結構早い。
調子に乗って何曲か譜面に起こしてしまった。
何度も鍛冶屋に通って振動版の音の調整をおこないつつ、自宅でシリンダー部分を裏から叩いて凸を作っていく。
ようやく作り上げたのは綺麗な模様が彫り込まれた木製の箱の手回し式オルゴールだ。
自動で演奏するオルゴールを目指したが、歯車とゼンマイもどきを使ってみても曲の演奏スピードが安定せず、だったら魔道具だということでドンツクとあれやこれや考えたが、うまくいかなかった。
風の魔石の風を噴き出す特性を利用し風車を回して、その力でオルゴールを回すというアイデアは悪くはない。
しかし、シンプルなオルゴールに風車や余計なものがつくのが気に食わなかった。
次は水の魔石を使って水圧でピストンを往復運動させ、その力でクランクを回し回転運動に変える。うん、これはなんちゃって蒸気機関だろ。
改めてもういちど風の魔石の利用を考えた。風の魔石から噴出する風、つまり何もないところから出てくる空気の圧力でクランクを回し回転運動に変える……これも同じか。もしかして、やべーもの作ろうとしてる?
神様に相談したら、ぼくではなく現地の人間が自分で考えたのならしょうがないが、できるだけそっち方向に技術を進めるのは止めてねって言われた。
ドンツクにはこのアイデアを伝えてしまったが、その技術を使わないよう言い含めた。他の何も知らない技術者による技術の進歩に期待しよう。
「爺ちゃ~ん、この前のお金を使ってようやく目的のものが出来上がったよ」
「おぉ、そうかそうか」
手回し式のオルゴールを机の上に置き、ハンドルを回し音楽を奏でる。
爺ちゃんも婆ちゃんも我が家で使ってるラジオ体操のオルゴールのことは知ってるのでそれほど驚きはしないが、聞きなれないが美しい曲に耳を傾けている。
一応地球で長年愛されてきた有名クラシック音楽曲だもんね。
ひと通り鳴らし終わった後に説明に移った。
「これはねぇ、王様への献上品にと思って作ったの。王様もこんなの持ってないでしょ。爺ちゃんって侯爵様だから、爺ちゃんから渡して欲しいの。以前特許システムについて話してもらったと思うけど、王様にお願いして欲しいの。オルゴール作成の権利を王様に差し上げますので、以前お話した品物を考え付いた人の権利保護をお願いしますって。オルゴールについてはすべての権利を放棄するからって。どうかな?」
「うむぅ。プックルのいう特許の話はまだ王まではあがっておらぬ。今は上級貴族で話し合っているが、皆がどう自分の利益につなげようかと牽制しあっているのが現状じゃ。間違いなく王はこのオルゴールを喜ばれると思うが、そこで話をもっていくとわしが他の貴族どもに恨まれる恐れが……」
「もー、王様にもいい話だと思うんだけどな。例えばこのオルゴールは王家から貴族やなにがしか手柄を立てた人への褒章として渡し、分解はおこなえないように王家の紋を刻んでおくとかする。故障、破損した場合は自分たちで直そうとしないで届け出て国のほうで直すようにさせる。そうすれば技術は流出しないし、こういう使い方とかいいかも」
「あなたっ、プックルちゃんのお話を個人的に王様へ直接持っていかれてはどうです?」
「じゃが……」
いつも自信満々な爺ちゃんにしては歯切れが悪い。
貴族同士の争いってやっぱり大変なんだろうか。
「特許の話は抜きにして爺ちゃんから王様にオルゴールを献上するだけでいいよ。王弟のアルル様経由で特許の話とか流してもらえないか聞いてみる」
「うむ、それなら王に話をしてみよう」
「父さんは戦方面は得意だけど、貴族同士の権力闘争とかは得意じゃないからね。その点、ハルファス兄さんはそっち方面もそつなくこなせるんだけどね」
「そうねぇ、あの子は色々努力しているのよね」
しばらくして爺ちゃんが我が家にやってきた。
オルゴールは無事に王様に献上してくれたらしい。
王の間ではなく、個人的な話し合いのその場にアルル様もいらっしゃって、献上後に王様から褒美は何がいいかと問われた際に口を挟まれ、今特許制度というのを検討していて、そのトップに自分が、補佐にヴァルツォーク家の三男がいいのではと提案してくれたそうだ。
内々のその話し合いでアルル様は王様へ特許制度の資料を渡され、GOサインももらったらしい。
その後、公の場の多くの貴族の前で形式上あらためてオルゴールを献上し、アルル様からの提案で本格的に特許制度を検討し進めることになり、オルゴールの報酬代わりにパーチルさんが彼の補佐につくことが発表されるという茶番もおこなったそうだ。
最初の金貨10枚なんぞ安いもんじゃ、何か欲しいものはないかって聞かれたけど、爺ちゃんには屋敷や使用人まで面倒見てもらってるから感謝でいっぱいだよって、思ってる本音をそのまま伝えておいた。
爺ちゃんが渋そうな顔をしたり嬉しそうな顔をしたり表情を変えていたが、借りをつくるのはとか貴族ではなくただの孫としてはそれでもいいかと呟き、何かあれば気兼ねなく言うのじゃぞとの言葉を残し帰っていった。
オルゴールは完成品を依頼して作ってもらったわけではなく、部品として注文したから思ったより安くついて、実は金貨2枚残ったんだよね。
それで十分だよ。




