お店赤字だって
今日は商人の爺ちゃん婆ちゃんの家に伯父さん、伯母さん、リーグにぃ、うちの母さんとぼく、それにガジローくんで来ている。
父ちゃんは狭い家に大人数で押しかけるのも迷惑だろうとか言い訳して留守番だ。
妊婦さんがいるけど、みんなで歩いてきた。
爺ちゃんの店は大通りから少し奥に入った狭い通りなので馬車で行くのは難しいんだ。
そのせいもあって伯父さんは大きな袋をサンタさんみたいに担いで来ている。
伯父さんが仕入れたものをこの店で売ったり、この店にあるものを行商のときに持っていったりしているのだ。
「爺ちゃ~ん、婆ちゃ~ん、プックルくん来たよ~」
「リーグもきたよ~」
「息子と嫁さん、妹も来たよ~」
「あなたったら、いい歳して恥ずかしい」
「兄さんったら~、ミュレも来たわよ~」
「ガウガウ~」
最初に言いだしてなんだが、ちょっと恥ずかしい。
「よく来たさね、今日はまた大人数だね」
「孫が二人も来てくれたか。それにレジーナさんもミュレもよく来た。体調は問題ないかの。疲れてはおらんかの。ささ、奥でゆっくりするがええ」
爺ちゃんが店を閉めようとしたのを伯父さんが止めて、伯父さんが店番に入ろうとしたのでぼくとリーグにぃも店の方で爺ちゃんと伯父さんといることにした。
伯父さんが袋から出したものを爺ちゃんに説明し、値段を伝えて陳列していく。
そして目に付いたものを勝手に袋に入れたりしている。
商品の在庫管理とかしてるのかね。
あれあったと思ったのにどこいったのかな、もしかして行商の方に回してしまって店に無いのかなってことあるんじゃないのかな。
そう思ったぼくが爺ちゃんに話したら、時々そういったことがあるって答えが返ってきた。
「伯父さん、爺ちゃんと話したんだけど、在庫管理をちゃんとしたほうがいいよ。それに商品ごとに値段もきちんと書いておいたほうがお客は安心するよ。お客を見て値段を高くしたり安くしたりとかそういったやり方はぼく嫌いだな」
「確かにプックルくんの言うとおりだよ。店の奥に置いてて出してない品も一杯あることだし、何があるか紙に書いておくのはいい考えだと思うよ。爺ちゃん時々品物があるか忘れたりするし」
リーグにぃって結構辛辣だな、爺ちゃんの物忘れを指摘するなんて。
言っておいてなんだけど、この店って品揃えに一貫性がないんだよな。もうなんでも爺ちゃんや伯父さんがいいって思ったものを店に置いて売ってるって感じ。
農具があったり、食器があったり、布や裁縫道具があるかと思えば干からびた薬草もあるし、この前父ちゃんがお土産に持ってきたロックリザードの革なんかも置いてある。
伯父さんが行商に行くにあたって、村でいろんな品物が必要とされるのはわかる。
お店が一件もないような村へ売りに行くんだもんね。それに村からもいろんなものを買い取ってくれって言われるんだろうね。
この店を倉庫代わりにもしてるみたいな感じかも。
でもねぇ、王都だとたくさんの店があるから、それ専門に扱ってる店に行く人が多いんじゃないかな。
酷い言い方だけど、こんな店に来るのは物好きな客だけだろ。
そんな考えを伯父さんや爺ちゃんに伝えてみたら、二人に驚かれた。
伯父さんってやり手の行商人って感じだけど、お店の運営はあまり考えてないみたいだった。爺ちゃん任せだ。
爺ちゃんも伯父さんやうちの母ちゃんを馬鹿高い学費の学園に通わせることができるくらい昔は結構稼いでてたみたいだけど、今の状況を見るにその欠片も感じられない。
いらないもの処分して種類絞ったほうがいいと思うんだけどな。もしくは目玉商品を置いて、それ目当ての客に他の商品を勧めて買ってもらうとか。
「で、爺ちゃんはどう思ってるの? そして伯父さんは?」
「わしは昔は凄かったんじゃ。自分の目でいいと思ったものを仕入れて、それをバンバン売りまくっておった。それは今では……もう少し客の来る活気のある店にしたいと思う」
「そうか、プックルくんの言うとおり。自分の行商のことばかり考えて、父さんのこの店のことをあまり考えていませんでしたね。物置代わりにしているという言葉にも反論のしようもありません」
「そんなこち言うってことはなんかいいアイデアあるの?」
「アイデアっていうより、まず爺ちゃんや伯父さんは金額や品質で他の店には負けないっていう商品の仕入れルートとか持ってないの?」
「わしは昔からの付き合いでいろんな職人に顔が利くぞ」
「確かにそれは素晴らしい。でもそれって爺ちゃんとだけの取引なのかな、他の店でもそこで同じものを容易に仕入れられるんだよね。値段とか特に優遇したりしてくれるのかな。そういったものがないと他の店との違いが出せないよ。利益を薄くして安く売るとか、他と値段が同じでも話術で相手を引き込んで買ってもらうとか、お得意さまで付き合いで買ってもらうってのもあるな。でもこれはよっぽどうまく付き合っていかないと悪手か。実際に他所で安かったり品質がよかったりするのを知ると逃げたり、嫌な気分を押し殺して買い続けることになるからね」
「う~む、わしの店は昔からの常連客が来てくれるだけかもしれぬ。新しい客は滅多に見かけぬし」
「地域に根ざして商売するのは悪いことではないと思うよ。でも客数も売り上げも足りてないって感じてるんだよね。どうにかしなくっちゃ」
「わたしは行商のほうは上手くいっていて、その売り上げの一部をこの店に回している感じですね。独自の仕入れルートというとやはり定期的に巡回している村々でしょうか。その村では他の行商人が来たらそちらとも取引をしていると思いますが、定期的に巡回しているわたしを信頼してこちらを中心に色々取引してくれてると思います。販売も買い取りも村人に損をさせるような阿漕なやり方はしていませんしね」
「適正価格で信頼をもって取引をやってるとは素晴らしい! で、その買い取った品物とかは他の商人さん、いや、特に王都にいる商人さんが扱っていなかったりしますか? 販売する際に他の商人さんに値段で勝てるような額をつけられますか?」
「主に村で買い取るのは穀物などや狩人さんが狩った獣や魔物の革なんかですね」
「この店で穀物なんかは売っていませんよね」
「穀物なんかは量もあるし、この店ではほとんど売れないので専門のお店に卸しています。革はというか買い取るのは皮ではなく加工した革であることがほとんどなのですが、職人さんに主に買い取ってもらっています」
「話し聞いて思うんですけど、この店って必要? 店を維持するのが赤字で伯父さんの行商からお金を補填している。じゃぁ、伯父さんの行商だけだと、その赤字分が儲けとして手元に残るんじゃないかな」
「……」
「……わしら店だけじゃなくここに住んでおるしの」
「店を手放して普通に住居を借りたほうが安くつくんじゃないかな」
「プックルくん!」
リーグにぃのきつい声は『もうやめてあげて、ふたりのライフはゼロだよ』の幻聴が後に続いた気がした。
確かに言い過ぎたかもしれん。
「別に店を手放せって言ってるわけじゃないよ。現状をきちんと把握してもらって、これからどうするか考えようってことだからね」
「プックルや、どうすればいいかの」
「まず、帳簿見せてよ」
「帳簿とはなんじゃの?」
「えっ? おじさんは帳簿つけてるよね?」
「???」
えっ、なに? この親子。
伯父さんの事、結構出来る行商人だと思ってたのに……
「いつ、何をいくらで仕入れたか、いつ、何をいくらで売ったか。現金の残高や預金、いや預金制度ってあるのかな。まぁ預金の話は抜きにして所持金がいくらあるかをきちんと書き記したもののことかな、それを帳簿という」
「どこで何を買ったかとかはちゃんと覚えてるから大丈夫ですよ」
「ちがーう! 後で見ても分かりやすいようにきちんと書き記しておくことは大事なの! 後で伯父さんには最低限今回の行商でのお金のやり取りを書き出してもらうからね。そういえば学園で商人科とかが最近出来たって聞いたけど、そこ行けばそういったこと教えてるのかな。経験を積むのも大事だけど、勉強することも大事だよ。基本の知識を知った上で経験をするのと、何も知らずに経験だけ積み重ねるのは違うからね。リーグにぃもこれからどうするか考えたほうがいいよ」
ぼくの怒鳴るまでもいかないまでも強い口調にみんなたじたじだし、リーグにぃも自分のことを言われて少しびっくりしている。
一応昔資格ゲッター気取っていろんな資格を取得したことがあって、日商簿記も1級から4級まで持ってるんだよね。
みんな3級から受けるため4級なんか取る人はほとんどいなんだけど、そのほとんどいない資格を取って悦に入るのも資格ゲッターの醍醐味ということで無駄に4級も取得したんだよね。
そして、その4級も今は廃止され、簿記初級と名前が変わったことで、余計にレア資格ということで満足感を得ることができたのだ。
そんなことはどうでもいいか、一応簿記の知識はあるってことだよ。
自営業に近い稼ぎ方してたことがあるから帳簿つけて、確定申告も自分でしてたしね。
でもほんと、資格を作ってる側に踊らされて使いもしない無駄なものをいっぱい取ったよ。後悔はしてないけどね。
潜水具を装着して潜る際の国家資格、潜水士とか潜ったことも無くただのペーパーのみでとれる資格もとったし、きのこ検定やビール検定も1級持ってたりする。
昔の自動車免許証は所持している資格の種類を0と1で表記されてて、全部1にするのに憧れたけど、結局全部はとれなかったな。
それはさておき、実際この店どうしよっか。




