ダンジョンへ
「よっしゃー、楽勝楽勝」
ラパウルの剣がシャドウベアの心臓を一突きし、剣を戻しきる前に喉を切り裂く。
楽勝といいつつも、反撃に備えてすぐさまバックステップで距離をとる。
完全に息の根を止めたのが分かるまで気を抜くような真似はしない。
いいかげんに見えて戦闘の際は真面目モードを発動できる、やるときはやれる男だ。
ぼくらは王都から1週間のところにあるダンジョンに深夜だというのに潜っている。
普通の冒険者なら日帰りするであろう地下4階をラパウルと二人だ。
この地下4階というのは中級冒険者がパーティを組んで行く難易度だが、ぼくら二人でも余裕ありまくり。
いや、ぼくは戦闘には一切参加してないけどね。
ラパウルもぼくも色付きガラスをはめ込んだゴーグルをかけ、ぼくは子供用サイズで特注した大八車を引いている。
大八車には全周囲を眩しいくらいの光を放つ明かりの魔道具を二基取り付け、魔石の交換タイミングでもどちらかは明かりがついているように調整してある。
4階に出現する魔物はシャドウベアにゴブリンリーダーを筆頭としたゴブリンスカウト、ゴブリンシャーマン、普通のゴブリンのゴブリングループだ。
ダンジョンには何もしなくても明るいのもあれば、たいまつやカンテラ、魔法の光を用意しなくては暗いダンジョンもある。
今いるダンジョンは後者の明かりが必要なダンジョンだ。
暗い中にいるダンジョンモンスターは暗闇でも難なく行動することができ、冒険者程度が使っている明かりの中でも問題はなく、行動が鈍ることも無い。
しかし圧倒的な光は暗闇に慣れたモンスターの目を晦ませてしまう。場合によっては光から暗闇へ逃げるものも多い。
ぼくらは冒険者の邪魔にならないようにわざわざ深夜に目も眩まんばかりの眩しい光と共にダンジョンを歩いている。
暗闇へと逃げるモンスターは袋小路に追い込みトドメを刺していく。
この世界ではダンジョンのモンスターを倒しても死体が残るだけで、毛皮や牙なんかがドロップすることはない。
そのため死体を解体し、必要な部位を剥ぎ取る必要がある。
モンスターの死体は死後数時間でダンジョンに吸収され、冒険者などの侵入者やその持ち物なども一日ほどでダンジョンに吸収される。
「う~、腕が疲れた~」
「二人で、いや二人だけでダンジョンに行きたいって言ったのはお前だろ、がんばれ」
「美味しい情報は秘匿し独占してなんぼなんだよ。でも~」
ゴブリンの素材はあまりお金にならないので魔石と所持していた装備品でまともそうなのだけ確保して放置。
これは大したことないからいいんだよ。ナイフで肉を裂いて魔石を取り出すだけなんだから。もっとも少しばかり力はいるけどまだまし。
きついのはシャドウベア、こいつなんだ。
ラパウルより頭二つ以上大きく3メートル近くあるのだが、爪や牙、皮を剥いでいくのが大変なの。
ほんとは肉もお金になるから丸ごと持ち帰るのがいいんだけど、一体だけでぼくの大八車のキャパオーバーしちゃうから、高く売れる場所だけ持って帰ることにした。
それでも2体も積めば結構一杯。だけど今は3体目の解体中。
「よしっ、それじゃぁ父ちゃんがいいこと教えてやろう。なんと身体強化の魔法だ!」
おぉっ、それは助かる。でも教えてやろうってすぐ使えるのかな。
以前生活魔法を覚えるのにも何日もかかったっていうのに。
それでも教えてくれるなら教えて欲しい!
「教えてっ!」
「うむ、身体強化の魔法は強化したい体の部位に魔力を集めて呪文を唱えるんだ。『健やかなる神よ、我が肉体にひと時の合間活力を与えたまえ』だ、やってみろ」
小さな頃から魔力を体中に循環させてたから、集めるのは訳無いよ。
教えてもらった呪文をとなえてっと……
強くなった気がしない……
「どうだ?」
「うん、強くなってないと思う」
「まぁ、一朝一夕には無理か。練習あるのみだ」
【アルヴァ様、我が肉体にひと時の合間活力をお与えください、なんてね】
やばっ!
心の中で祈っただけなのにまじで強化されちゃった。
この世界にぼくを転生させてくれた神様であるアルヴァ様なんだけど、ついうっかり祝福を与えられてしまってて、そのおかげか魔法を使う際に他の神様に祈るよりアルヴァ様に祈ったほうが簡単に魔法が使える気がするんだよな。
バグというわけではなく祝福のおかげだから別に報告の必要は無いよね。
おかげでシャドウベアの皮を剥ぐのにナイフを入れるが、以前より明らかに力を込めるまでもなく皮も肉も切れるようになった。
ぼくの手際を見て悟ったのかラパウルが褒めてくれた。
「すごいじゃねーか、もう使えるなんてびっくりだぞ」
「うん、ぼくも自分でびっくりしてる」
解体した3体のシャドウベアを乗せた大八車を引いたぼくらがダンジョンを出たのは、ちらほらと早起きの冒険者がダンジョンに入ろうとしていた早朝だった。




