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上司はアルル様

「もうよくなったか?」


「うん、心配かけてごめん。昨日はただちょっと気分が悪くなっただけだから。今日はいつも通り絶好調だよ」


「昨日話そうと思っておったのじゃがの、板芝居の件は王弟のアルル様をトップとしてやっていくことに決まった。また近いうちに城に呼ばれることになるじゃろうが、その時はよろしく頼むぞ」

「王弟様ってどんな人なの?」

「まず王弟様なんて呼ぶと嫌がるからアルル様と呼ぶように。そうじゃの、権力欲とかはあまりないみたいじゃのう、兄である王をよく支える立派なお方じゃ。今回アルル様がトップを引き受けてくれて助かったと思っておる。あの方がおれば他の貴族も強く言えぬはずじゃからの」

「ふ~ん、そういえばこの前お城に呼ばれて行った時随分待たされたんだけど、いつもあんな感じなの?」

「あの折はすまんかったのう。貴族には時間にルーズなものがおるのじゃよ。人を待たせても気にせんものがの」


 あー、やっぱ貴族ってめんどくさそう。

 地位と権力があるから我侭がまかり通るって思ってるんだろうね。

 実際そうなんだろうけど、やだやだ。





 数日後お城に呼ばれたので行ったら、今度はすぐにアルル様にお目通りがかなった。

 カイゼル髭が特徴のダンディ親父だ。あまり偉ぶってないので付き合いやすそうな感じがする。


「よく来た。アルル・フォン・ビスタークだ」

「お目通りが叶い恐悦至極に存じます。ラパウルと申します」

「ぼくプックル、5歳!」


「そうかそうか、5歳か。その歳で此度の提案ができるとは大したものだ。これから共に働くにあたってあまり畏まった物言いはやめてもらえるかな。固っ苦しいのはあまり好きではないでな」

 機嫌よさそうに髭を撫で弾いている。


「かしこまり、いえ、わかりました」「わかったー」


 ぼくプックル、5歳で文句言われないようだし畏まらなくていいみたい、助かります。


「仮の名だが板芝居管理部署には俺とお主ら二人しかまだおらん。先日お主らを呼んだときにおった上級貴族どもに加え、残りの公爵、侯爵も噂を聞きつけ自分の子飼いの者たちを送り込んでこようと俺のところに手土産を持って挨拶に来たりしており、面倒この上ない。人を選ぶのに少し時間をもらうぞ」

「申し上げにくいのですが、ぼくらはアルル様の板芝居管理部署で働くのではなく、ただの庶民であり、街で板芝居を作り普及させる役を担いたいと思います。国から給金を貰うのではなく、ぼくらが作った板芝居を行商人などに貸すことによって糧を得たいと考えております。アルル様方には作った板芝居を吟味いただき、それを広めてよいか判断を仰ぎたいと存じます」


「確かにそちの提案書に書いてあるとおりではあるが、それでよいのか? お主の父はヴァルツォーク家の四男であったな。国に仕えるのを誉れと思わぬのか?」

「いや~、今回の話はうちのプックルが考えたもんであって、俺はなんもしてないし。それに机の前に座って仕事するより、絵を描いたり気楽に生きてるのが性に合ってるようです」


「そうか、残念であるがそちらの考えは尊重しよう。とりあえず許可を出すだけであれば数人も部下がいれば事足りるな」

「最初はそれで十分だと思います」


「最初はとな」

「うん、最初は」


「今理由(わけ)を話さぬのか?」

「うん、話さない。うまくいくか分からないしね」


「まぁ、よい。お主は小僧の癖に面白いから、俺を楽しませてみろ」

「わかった。それと話は変わるけど、黒白ゲームの方はどうなってるの?」


「黒白ゲームとは?」

「あれ? 爺ちゃんから聞いてない? 板芝居と同時に爺ちゃんに相談したんだけど」


「何も聞いておらぬな。おい、誰かガイネルを呼んで来い! あやつはどうせ練兵場で兵士と共に訓練をおこなってるのだろう」

「はっ」


 部屋の隅に控えていた騎士がすぐさま部屋を出て行った。

 爺ちゃんが国に話してないんだったらなんか考えあってのことだったかな。ちょっと失言だったかも。


 しばらくして扉が開き爺ちゃんが入ってきた。

 そっちを見てないけど、間違いないだろう。

 なんかもわっと汗の臭いと熱気が部屋に入ってきたのが分かる。


「訓練中であったが、アルル様が急ぎお呼びとのことで汗も流さずそのままで失礼する。何用にございますかな」

「今其の方の孫と話しておったのだが、黒白ゲームとやらがどうなったのか聞かれたのだが、俺のところにはそのような話は来ておらぬ。そのことが聞きたくてお主を呼んだのよ」


「そうでしたか。以前孫より黒白ゲームという遊戯と、新しいものを考えた人にはそれを真似されて損しないように保護する制度があればいいのではないかと相談されたのだが、板芝居の方から先に話を進めておってあちらは後回しにしておったのじゃ」

「またプックルか」

「いや、ぼくじゃないよ。ぼくの知人の案を爺ちゃんに話しただけだよ」


 ほんとはぼくの案だけど、架空の知り合いをでっちあげたの。5歳の子供があんまし(さか)しらにでしゃばるのもよくないしね。


「して、黒白ゲームとはどのようなものなのだ?」

「はっ、今我が領内にて作らせている最中でございます。領内の黒石、白石を加工して小さな円状にしたものを量産させており、先日見本が届いておりますので近いうちにアルル様に献上いたします」


「期待しておるぞ。それと一緒にプックルの書いた提案書も持ってくるがよい。また周囲を巻き込んで面倒なことになるようであればそれも俺がどうにかせねばなるまい」


 よっ、アルル様、太っ腹!





「ほんとによかったのか?」

「だって父ちゃんは宮仕えって嫌いでしょ」

「いや、嫌いってわけじゃないぞ。やいやい言われて働くのが嫌いってだけだ」

「やっぱ嫌いなんじゃない」

「そうとも言えるか。ハハハハ」


「アルル様に言ったように僕らは庶民として板芝居を使って稼ぎ、アルル様たちお役人はぼくらが新しい板芝居を作ったときにその御話を広めていいかどうかの管理してもらうつもりなんだ。僕らは板芝居を作ってそれを行商人に貸す。行商人は行った村などでそれを披露する。商人はどこでどの話を読み聞かせたかぼくらに教え、ぼくらはそれを纏めてアルル様にお渡しする。王家や有力貴族のお話なんかを広める場合は対価をいただくことにする。こんなとこかな。もちろん板芝居は国の許可なく作ることを禁じ、当面の間ぼくらの独占にしてもらうことになってるからね。そのために爺ちゃんに案を持っていったんだしね」

「でも今言った内容で契約を結んだから、すぐにお金が入ってこなくてこうして困ってるんだろ」

「そうだね、なんか美味しい話ないものかな」


 ぼくと父ちゃんは城を後にして、ぶらぶらと歩きながら家へと帰っていった。


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