貴族街で実演販売だぞ
ぼくらは翌日商業区にある商会へと向かった。
「はじめまして、私は雑貨を扱っておりますドワイトと申します。ヴァルツォーク侯爵様よりこちらの商会を紹介いただき、参りました。こちらが紹介状になります」
受け付けで紹介状を渡すとそのまま商会の代表の元へ案内され、すぐにこちらの希望通り貴族街にある商店へ連れて行ってくれた。
その店は庶民街との門から貴族街側に入ってすぐの辺りにあった。
庶民街と違い静かで落ち着いた、悪く言えば活気のない店が立ち並んでいる。
まぁ取引金額的には大きくても利用する客も少なく、いいところの使用人達も品がよく落ち着いてるのでしょうがないことだろう。
「さあさあ、よってらっしゃい、みてらっしゃい。取り出しましたるこのおろし金、赤ちゃんがミルクから普通の食事に切り替わる際の離乳食を作るのにも丁度いいよ! こうやってすりおろしてどろどろにすれば、ほらね。また、食欲が落ちたときとかに果物をすりおろしても美味しくいただけるよ」
店の軒先を借り、テーブルの上に商品を並べ口上を述べる。
人通りがそれほど多くないとはいえ実演販売が珍しいのもあり、足を止めてくれる人もちらほらといる。
ピーラーで大根やジャガイモの皮を剥き、おろし金ですりおろす。
ミートハンマーで肉を叩き、料理には普通使うこともない生活魔法の火でフライパンを熱し肉を焼き一口サイズに切り分け大根おろしを沿え見物客に叩いてない肉と食べ比べてもらう。
小さな容器に入れたすりおろしリンゴをスプーンで食べてもらう。
「何だこの肉は! こんな調理道具今まで見たことないぞ。それで肉を叩いただけでこんなに違いが出るというのか」
どこぞの貴族家の料理人だろうか。サクラじゃないけどナイスアシスト、いい仕事してくれるよ。
「ミートハンマーで叩くと繊維質がほぐれ肉が柔らかくなるのです」
「大奥様が……ゲフンゲフン、私の知り合いが最近歯を悪くされ堅いものが食べられなくなったといっていたが、これなら食べやすいかもしれん。ミートハンマーとおろし金、いや3つともいただこう。品物は屋敷まで届けてくれないか。代金はそのときに払うので」
「はい、喜んでー!」
ひとつ小金貨5枚の値段をつけたが、ぽつぽつ売れていく。
自分の一存では決められないので料理人を連れて来たいがまた実演販売をやってくれるのとかの問い合わせがあったので、明日も同じくらいの時間に実演販売やるよって答えたり、完売とまではいかなかったが結構な売り上げになった。
二日間の実演販売をおこなって以降は軒先を貸してくれた貴族街の商店に品物を卸して販売をおこなってもらうことになった。
儲けは伯父さんとリーグにぃで6、ぼくが4の割合で分けている。
ぼくのアイデアの商品ではあるが、商売としては伯父さんがメインで動いてくれているのでこの分配に不満はない。というかぼくがこの割合提案したんだけどね。
そこそこ儲かったとはいえ、学園に通うにはまだまだ足りない。
寒い冬が過ぎ、季節は春になった。
『ぼくプックル! 5しゃい』
というわけで、ぼくは5歳になった。
冬の間王都の中でリーグにぃと楽しく過ごしていたが、暖かくなって伯父さんとリーグにぃは行商の旅に出ることになった。
伯父さんたちは定期巡回ルートの村々を廻って夏頃に王都に戻ってくる予定らしい。
身重の伯母さんは今年はうちでお留守番だ。
「プックルくーん、またねー」
「リーグにぃ、いってらっしゃーい」
遊び相手の従兄弟がいなくなるので涙が出そうになるが、なんとか堪えた。
だってぼくはもう5歳なんだもん!
あ、そうそう、3種類の調理器具は一般街ではコピー商品が少し出回ったけど、貴族街の方ではコピー商品が出なかったそうだよ。
バックにいる爺ちゃん怒らすと怖いからね。