魔石が欲しいぞ
「ふぃ~」
暖かい風呂に入ると体がリラックスして気が抜けるのか、声が出てしまう。
早朝トレーニングするのも悪くないが、夕方に運動してそのまま風呂で汗を流すもの気持ちがよくて好きだ。
この王都の家、いやヴァルツォーク領の屋敷に泊まらせてもらったときまでこの世界で風呂に入ったことはなかった。
子供の頃から桶の水をかぶるとか、固く絞った濡らした布で体を拭くかしかしたことがなかったけど、やっぱ風呂はいい。
前世で独り暮らしするようになってシャワーばかりで浴槽につかるとか年に数回なんて生活だったけど、風呂は運動して疲れたからだの疲労がとれていくようで心地いい。
庭にある井戸から水を汲んで風呂に溜めるのは少し大変だけど、体も鍛えられるし一石二鳥だ。
魔法で水をださないのかって? さすがにあの量は無理。
水を溜めたら魔石の力で発熱する魔道具を水に放り込んでしばらく待てば水は暖かくなる。
水に焼けた石を入れて暖めるのと同じ原理だ。
もっともこの魔道具は50度程度の温度にしかならず、風呂もぬるいんだけどね。
この暖める魔道具ももういくつか湯に沈めれば40度くらいのお湯に浸かれるのではと考えている。
魔道具を買ってくればいいのだが、まずその前に……
今使ってるやつ魔石の魔力が切れそうなんだけど……
買って!買って~! 魔石買って~!
ラパウルに頼んだら渋い顔をしてた。
冒険者ギルドで買い取ってもらうと安いんだけど、店で買おうと思ったら結構するんだよね。
というわけで、ぼくらは街の外へ狩りに出かけることになった。
狙いはロックリザード。
王都から徒歩半日ちょいくらいの荒地にいるらしい。
結構凶暴らしいが、荒地からでてくることはないのでそこに近づかなければ問題ないそうだ。
伯父さんちの馬車を借り、護衛の人たちと臨時パーティを組んで討伐に出かける。
マッズさんだっけ?護衛のスカウトじゃない方のおじさんといっしょにぼくは荒地に入る少し手前で馬車と馬の番をしている。
周囲はあまり視界を妨げるものがなく、見通しはいい。
誰かが近づいてきても離れてるうちに警告は出せるだろうし、大声を出せばロックリザードを狩りに行った3人にも声は届くだろう。
モンスターだけじゃなく、人にも警戒しなきゃいけないなんて世知辛い世の中だ。
ぼくらと別れてものの30分もしないうちに皆が帰ってきた。
ひとりが周囲の警戒をしつつ、ふたりがロックリザードを引きずっている。
えっ、あれがロックリザード?
コモドオオトカゲみたいな感じだけど、もっとがっしりとしていてワニにも似てるような……
うん、コモドオオトカゲとワニを足して2で割った感じかな。
ぼくの横に立っている馬くらいの大きさじゃないかな、ふたりでも重そうだ。
警戒役は父ちゃんか、手を振ってきたので振り返した。
そしたら運んでたおじさんふたりも手を振り返してくれた。
3人はロックリザードを渡すと軽く水で喉を潤し、すぐに荒地へ戻っていく。
ぼくらは馬車の番に加え、受け取ったロックリザードの解体だ。
馬車から十数メートル離れた岩にロックリザードを立てかけて血抜きをしつつ、皮を剥いでいく。
あ、もちろんぼくはその間周囲の警戒だ。
手伝おうにもほとんど役にはたたん。
そうこうしているうちに2匹目を引きずって3人がまた戻ってきた。
今度はみんなで一気に解体していく。
あ、ぼく以外でね。
さすがにひとりで自分より大きい獲物の解体は手に余ったようだ。
腹側から皮をスパッと切り裂いて、肉から皮を剥いでいく。
なにぶんでかいもんで大人4人でも支えたり引っ張ったり大変そうだ。
肉は鮮度が落ちにくいとかいうたくさんの葉っぱと一緒に木箱に詰めていく。
来る途中その木のある場所を父ちゃんが知ってたので、大量にむしってきていた。
「ほうら、これがロックリザードの魔石だぞ」
血で真っ赤な手のひらにピンポン玉サイズのものが乗っている。
もちろんそれも血で真っ赤に濡れている。
「血でどんなのかよくわかんないよ。洗っていい?」
生活魔法で水を出し、手の上の魔石にかけていくが、魔石は洗ってもなお赤黒い丸い玉だった。
ぼくが以前見たことのあるのは石みたいな感じだったんだけどな。
「そういや未使用の魔石を見るのははじめてだったか。最初魔石はこんな感じなんだけど、魔力が抜けると白い石みたいになるんだ」
「そっか、そういうもんなんだ」
解体がひと段落したら魔法で水を出し、皆の血で汚れた手を洗い流してあげた。
ぼくにできる仕事はそのくらいだしね。
少し休憩を挟んで、馬車を守るメンバーを交代して合計4体のロックリザードを仕留めて解体したところで終わりにした。
ロックリザードとの戦闘シーン?
ぼく4歳だよ、ずっとお留守番で狩場まで行かなかったよ。
ちなみにラパウルはずっと出ずっぱりで、戦闘でメインの役をしてたらしい。
知り合いの鍛冶屋から借りてきた突きがメインの細身の剣を使って、寒さで動きが緩慢になっており警戒していないロックリザードにこっそり近づき横から心臓をひと突き。
それで終わりだそうな。
普通はそんな簡単な相手じゃないんだけどなって護衛のおじさんたちは苦笑いしてた。
朝から出かけて昼過ぎに到着。夕方前に向こうを立って王都に戻る前に夜になるので途中で野営。
日帰りには若干離れてる場所というわけで、それほど人気のない狩場だそうな。
その例に漏れず岐路の途中で野営をすることになった。
じゃ、じゃーん!
ここに拾ってきたくるみの枝がそこそこの量あります。
そして無理言って使わずにとっておいた木の箱がひとつ。
暗くなって暇でやることのない野営のお時間。
実はあんまし好きではありません。
あ、野営が嫌というわけじゃなく暇が嫌なの。
というわけで、肉を小さく切り分け、箱の中の枝を折って組んだ台の上に乗っけます。
木箱の中に土を入れてあり、その上にくるみの枝を乗せ火をつけます。
ほんとは土みたいな衛生的にちょっとなってものは箱の中に入れたくなかったんだけど、箱が延焼してしまわないようにガードするものがなかったのよ。
箱の底に少し空気穴を作り、蓋をしてしばらく見守ります。
燻製は主に冷燻、温燻、熱燻とやり方が分けられ、低い温度で長時間燻すか、高い温度で短時間、その中間みたいな感じになっているが、今回は中間の温燻でやるつもり。
しかし即興で作った燻製器は結構早く火が消えてしまったっぽい。
暇だとかなんとかいいつつ、実はセットして火をつけたら早々にぼくは寝てしまったらしい。
護衛のおじさんたちが見守ってくれてたのよ。
あ、うちの父ちゃんは『ラパウルさんは狩の時に活躍してくれたから』って見張りは免除されたらしい。
実は任せるのが不安だったんじゃないかってぼくは邪推してる。
朝食にみんなでスモークした肉を食べた。
感想は『半生な干し肉?』『スモーキーな味がなんか癖になりそう』『ちゃんと焼いてくれ』みたいなものだった。
評価としてそれほど悪くはなかったけど、木箱をひとつダメにしたことはちょっと文句を言われた。
今度もっとちゃんとした燻製を作ってみたいな。




