表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/94

父ちゃんのお仕事

 新しく借りた屋敷には庭の片隅に庭師用の小屋がある。

 庭仕事用の道具を置いてあるが、住み込みにも使われていた小さな小屋だ。

 といってもボロボロだったりはしない。

 綺麗なお屋敷の敷地内にボロ小屋が建っていたら見苦しいし、来客の目に止まって不快な思いをさせるかもしいれない。

 そのため目につかない場所に小屋を建てるか見苦しくない程度のものを建てるかする必要がある。

 で、まぁどういうことかというと、その小屋をラパウルが自分の作業場所としてのっとった。

 『ラパウル様どうぞお屋敷のお部屋をお使いください』なんて声にも、『こっちの方が落ち着くから』とかいって耳を貸す気はない。

 侯爵家のおぼっちゃまがずいぶん庶民化したものだ。


 作業というのはあれだ、板芝居の絵を描くことだ。

 今回は僕の自作の葉っぱとかから作った色のついた汁ではなく、ちゃんとした絵の具を使って描く。

 板に直接描くか紙に描いて板に貼るかは検討中だ。

 紙芝居のように厚紙がないので紙そのままという考えはない。

 いや、絵本という考えもできるか。





「えーい、うっとおしいわ」



 当初ふたりのメイドを派遣してくれる予定だったが、料理人が必要だろうとか、身重の母さんの世話をする必要があるだろうとかいってなんだかんだでメイドさんは4人になった。

 料理人は断ったけどね。


 小屋のなかにはラパウルの他に僕と母さん、それにしばらくは専属で母さんに付き添うメイドさんの4人がこの小屋にいる。

 ここは前住んでた家より狭く、一部屋だけの小屋だ。

 小屋の隅には庭仕事の道具があり、元々は粗末なベッドが置いてあったのだがそれを処分して作業スペースを確保してある。

 その狭い部屋に4人はさすがに狭くみんな追い出されてしまった。



 ぼくらは屋敷に戻り、王国の歴史の本を読む。

 学院の試験では年表を覚えて答えるといったものはでないそうなので少し安心した。

 初代国王が国を興したときの話しなんかは必ずでるそうだし、年号は必要ないが三代目国王の時代にどこそこの国と戦争になった、7代目の時に英雄だれそれが竜退治をしたとか何代目の王の時で考え答えるらしい。

 歴史の本を見ながら、面白そうな話をピックアップしていく。





「た、高ぇ……」


 ピックアップした話を詳しく調べるためメイドさんと一緒に図書館にきた。

 そこで言われた入館料にびっくらこいた。

 なんと小金貨3枚!

 僕調べ、日本円換算3万!



「ご当主様よりお金を預かってきております」


 図書館のことを聞いて行くと言ったらメイドさんがついてきますといったが、このためだったらしい。

 メイドさんがヴァルツォーク家の名前を出し、小金貨を支払う。

 小金貨は粒金貨とも呼ばれ金貨の重量の10分の1で粒状の金に判型を押されているだけのものだ。

 普通の金貨より小金貨は少し小さいだけのものかと思ったら、ほんとに小さい。

 それも当然か。通貨の価値は金や銀といったそれそのもので価値をあらわしているからだ。

 紙幣みたいにその素材に価値はなくとも国が価値を保証しているものではない。

 よって金額的価値が金貨の10分の1の小金貨は質量も10分の1となる。


 話がそれたが、支払いを終えると職員が一人付いてくる。

 本を乱雑に扱ったり、盗んだりすることを防ぐために館内にいる時は常に付いてるらしい

 こっちが貴族の関係者ということではっきりとはそう言わなかったけどね。




「おぅふ」


 この世界に来てはじめてこんなに大量の本を見た。

 といっても小学校の図書室程度の量だけどね。

 大量に印刷され出版されるのとは違い、全部手書きの本だ。

 司書なのか知らんがお付きの職員に歴史のこの話とこの話の本を見たいといって持ってきてもらう。


 この国の初代国王は傭兵団を率いて世界を巡っており、その時精霊に導かれ西の山を越えてこの土地に来たらしい。

 そして誰も住んでいなかったここで精霊の祝福を受け都市を築いていったんだとかどうとか。


 コピー機もなく貸し出しも禁止されているその話を覚えつつ要点だけ書き写していく。

 あー、もうほんとめんどい。

 この世界、筆写の技能が必要な訳だ。

 インク瓶に羽ペンを浸けては文字を書き、浸けては文字を書く。

 ほんとボールペンが欲しいと思ったわ。


 高いお金を払ったので閉館となる夕方まで粘ってから王立図書館を後に、家へと戻るとラパウルが待っていた。



「おぉ、やっと戻ってきたか。気分転換を兼ねて剣の稽古をつけてやろうと思ってな。爺さんのとこから子供用の訓練剣をもらってきたしな」

「えっ!?真剣!?」


「いやいや、よくみてみろ。訓練用の刃引きの剣だ」

「訓練って木刀をつかうんじゃないの?」


 手渡された刃渡り30センチくらいで握りも細い子供用とおぼしき片刃の剣をまじまじと見つめる。


「打ち合いの練習なら木刀でもいいが、素振りなんかは本物を使うに限る。よく聞いておけ」


 腰に下げていた剣を抜き、上段に構え振り下ろす様を見た。



【シュンッ】



 振り下ろして止まった状態のラパウルを見つめるも、振り下ろしの動作は速すぎてよくみえなかった。


「振ってみろ」


 先程渡された剣を上段から振り下ろす。



【ブワン】


 振りきったあとも剣は止まらず地面に打ち付けてしまった。


「貸してみろ。早さはこのくらいか。音をよく聞いて覚えておけ」


【ヒュン】


 渡した僕の剣をラパウルは振り下ろす。

 速さは先程に比べ緩やかで目で追えるくらいだ。


「もういちど振ってみろ」


【ブワン】


 言われる通り剣を振る。


「剣というのはだな、斜めに寝かせた状態で振ってはだめだ。剣と剣筋はまっすぐ同じになるようにしなきゃならん。少しでも傾いていると空気の抵抗を受け、剣筋もぶれてしまう。木刀なんかで意味もなく素振りをしても大して上達は見込めない。一振り一振りを真剣に剣を寝かさないよう真っ直ぐに振れ。うまく振れたなら俺がやったような音になる」


 おちゃらけラパウルがなんか真剣に指導してくるのでこちらも真面目に聞き剣を振る。


「ほら、もう一度!」


「よしっ、さっきよりよくなった。振り終わった後は力が流れるままに任せるのではなくきちんと止めるように。標的に剣をぶち当てるときに止めることを考える必要はないが、素振りのときはきちんと止めるように。それができれば他の技に繋げるのも容易になってくる。それと握力が弱まって剣がすっぽぬけてしまわないように注意しろ、その前に振るのをやめるように!」


「ほら、体が流れてる。意識してもう2回!それで終了にする!」




 10回も素振りできなかった。

 鉄の塊である剣は小さいとはいえ重く、僕のぷにぷにな腕はぷるぷる小刻みに震えており、剣を握る手も握力がなくなり素振り後剣を取り落としてしまった。

 想像以上にきつい。



「実践ではある程度体の力を抜いた状態で剣を振るんだが、次から腕にも体にも力を入れた状態で剣筋、剣の向きを考えつつゆっくりと剣を3回振れ、それが終わったら握力が弱くなるまで真剣に普段通り素振りを行うように!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ