借家を探すぞ
まだ目も開ききっていない仔狼のお尻をつつき排泄を促す。
狼のことは知らないが生後間もなく、まだ目も完全に開いていない状態。
宿のおやっさんは3匹売ってたのをみたというが、他の2匹はきちんと育てることができる人の手に渡ったのだろうか、少し心配だ。
犬なんかは生後2ヶ月以上たってからペットショップなんかで売られるようになる。
小さな頃に親や兄弟と一緒に育っていろんなことを学んだりするのも大事なんだそうだ。
この仔狼なんか生後数日から10日以内なんじゃないかな。
こんな小さな時から人間に育てられると自分の種族である狼の事が何も分からないまま育つことになるんじゃないかと心配になる。
とまぁ、それはさておき借家を探さなきゃ。
仔狼は小さな木箱を寝床とし宿の部屋においてぼくら家族3人で商人ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは街の入り口付近にあるが、商人ギルドは大通り沿いでもう少し街の中心近くにある。
冒険者ギルドは獲物をもった冒険者が街の中をあまり歩かないですむように、住人の目にモンスターの死骸などがあまり目につかないようにとか、何か起こったときにすぐに街の外に出れるようにとかの理由があるらしい。
ラパウルがたまたま知ってた知識を自慢するように教えてくれた。
冒険者ギルドのはなしは置いておいて、商人ギルドへとぼくらはやって来た。
白壁の綺麗で大きく3階建ての建物、入り口には守衛らしき人が立っていて気後れする。
なんて思ったのはぼくだけらしく両親ふたりはスタスタと中に入って行き受付で借家を探していることを伝えていた。
すぐに担当のものが来て、すぐに家を案内された。
城壁に囲まれた王都の土地はすべて王のものである。
土地を借り、上物(建物)は自分達で建てるという形になる。
借りるといっても日本で固定資産税を払うのとそう変わりはないが、土地売買といった概念はなく、地価の変動は緩やかである(数年に一度国が徴収する価格を修正したりはする程度)
それはさておき、場所は一般街と貴族街の門からほど近い一般街側。広さも安全性も問題ない。
お家賃は年間金貨1枚。
これは先に述べた土地を借りて国に払うにも満たない額である。建物の価値も家賃に一切反映されてない。
というのも大家さんというか貸主は爺ちゃん。
予め手を回し家を入手してたらしい。
そんで商人ギルドにうちに貸すようにと。
そんなこと聞いてなく家を借りに来てはじめて知ったからびっくりだ。
そして貴族街への門にいる兵にもほんとなら業務外ではあるが、うちに何かあれば即座に行動するよう言い含めてるらしい。
ついでに貴族街への顔パス入場も可能にしてあるそうだ。
なにやってんだ、これだから権力者はといいたいとこだが、庇護下におかれてるのであれば大いに結構、感謝感激雨あられだ。
ぼくらは大通りを進み、貴族街への門のすぐ手前で曲がり壁際に建ってる家をひとつ過ぎ、2件目が新しい住居。こりゃ治安はよさそうだわ。交番のそばに家があるのと同じような感じだもん。
で、家はというとこんな家借りてどうすんだよってくらいでかい。
爺ちゃん家とは比ぶべきもないが、でかい家に庭もあるし、車庫じゃねーや馬車を置く場所(厩舎)もある。うちの家族では持て余しそうな邸宅だ。
一緒に歩いてきてた商人ギルドの人が門の鍵を開け、敷地内へと促してくる。
「すごいねえ、ここって門番雇わなくちゃいけなかったりしない?」
「いやいや、そんな稼ぎねぇぞ」
「貴族街に住む貴族様は門番や番兵を置くのは当然ですが、ここは一般街ですしと言いたいところですが、お隣に住んでいらっしゃるのは大店の商人さんで門のとこには人を置いていらっしゃいますね」
「そうですね、来るときに見えましたし、向こうの家にもそれらしい人が立ってるのがわかります」
ギルドの人の返答にラパウルが力なく呟き、ガックシきてるのが見てとれた。
「そうねぇ~、わたしとしてももう少し小さなお家の方がいいと思うわ~。だってお掃除だけで一日がおわってしまいそうじゃないの~」
「奥さま、このクラスの屋敷ですと使用人を雇う必要があるかと存じます」
「この家パスで!爺ちゃんの紹介とはいえデカ過ぎて持て余すよ」
ないわ~、庶民、それも無職、いや冒険者か。どっちにしても分不相応だわ。
「先程お伺いしたところ、ウルフの赤ちゃんを買っていらっしゃるとか。すぐ大きくなりますし、屋敷は別として広いお庭は必要ではないでしょうか」
うぐ、正論。爺ちゃんには感謝してるんだけど、さすがにここはなぁ。
「それでしたら、お好みな家を探してそれを侯爵様にご相談されてはいかがでしょうか」
「あー、俺だと無理かもしれんが、プックルが話してくれるならそれでもいけるだろうな」
駈け落ちして貧乏暮らし?してたのに、仲直りしたら親に甘えようなんて、なんて甘甘だ! 甘ちゃんだよ!
でも、そんな父ちゃん嫌いじゃないよ。
そんなこんなで一般街の住宅区にあるこじんまりした一軒家を探してもらって、家族3人で爺ちゃん家行ったら母ちゃんが妊娠してるのがばれた。
それから半強制的に最初のでかい家に決められ、ヴァルツォーク家から出向でメイドさんふたりと門番に兵士を一人、時々庭師を派遣ということになった。
俺が門番するから給料くれって言って殴られてたラパウルはさすがになんだかなぁって思う。
主人が自分の家の門番するってなんだよ。