父ちゃんの衝動買い
「じゃじゃ~ん、プックルにプレゼントだぞ~」
なんだろうと思ってみてた膨らんだお腹のとこから服を捲って犬???を取りだし、ドヤァって顔をしているのはラパウルだ。
子犬???は両手にすっぽり収まるくらいで、丸まって眠っている。
ラヴリー、ちょーキュート
だが……
「その子犬どうしたの、うちは宿屋暮らしなんだから飼えないよ。返してきなさい」
4歳の子供が言うことじゃねーな。普通逆だろと思わないでもないが捨て猫や捨て犬を拾ってきた子供におかんが言うような言葉を口にする。
「えー、可愛いのにー。それにこいつはプックルのガーディアンにしよと思ってだな」
「ガーディアンってなんだよ」
「そう、こいつは成長すればすごく強くなるんだよ。それでお前の護衛にだな」
「それ騙されたんだと思いますよ」
厨房の奥から出てきたこの宿の店主のおっさんが声をかけてきた。
「騙されたって?」
「今朝市場に行った帰りにウルフの子供を3匹ばかし売ってる露天を目にしたのさ。その時はウルフの子供だって言って売ってたが、その手の中のとそっくりだったからさ」
「そういえば、魔獣って街に持ち込んでいいものなの?」
「ちゃんとテイムした魔獣で冒険者ギルドに登録したやつならいいが、そうでないとダメだわさ」
「それじゃぁ、これって密輸品?」
「いや、そもそもウルフは魔獣じゃなくただの動物だ、体内に魔石ももってないわさ」
「「……」」
「あー、そうそう。うちはペット禁止だわさ」
「返してきなさーい!」
「露天なくなってた……」
しばらくして帰ってきたラパウルの手の中にはまだスヤスヤ眠っている子狼がいた。
「……」
どうすりゃいいんだよ。
日本で犬を捨てるのはダメだが、この世界で街の外に出て森にウルフを放すのはセーフか?
ウルフは危険だから殺処分が正しいか?
でもまだあんなにちっこいし、可愛いのにそんなことできないよな。
ウンウン唸ってたらラパウルが恐る恐る声をかけてきた。
「そうそう、近いうちに家を借りようと思ってたんだ。まとまったお金も手に入ったしな」
「高額依頼でも受けてたの?」
毎日家(というか宿屋)に帰ってきてたし、泊まりでモンスター退治に出てたということもない。
日帰りで行けるようなとこに高額依頼ってないよな?
「ふふ~ん、聞いて驚け。宰相のおっちゃんのとこでリーグ君と一緒に板芝居を披露して報酬をもらってきたのだ」
宰相様をおっちゃんって……顔に出てたのだろうか
「宰相はお袋の、つまりお前のお婆ちゃんの弟なのだ。俺が子供の頃時々遊びに来てたおっちゃんなのだ」
「はぁ、それでまとまった額の報酬をもらったと。リーグにぃにもちゃんと報酬を分けたんだよね」
「もちろんさ、といいたいとこだけど、別に親父が報酬を出す約束をしてるので問題ない。それで他にも板芝居を作らなくちゃいけないんで、その作業場所兼住居を借りるためにって結構な額をもらったんだ」
「それでそれはいつの話? 母さんは知ってるの?」
「今日の昼だから、ミュレにはまだだな」
なにやってんだろ、この男は。
そんな大事なことがあったのに、のほほんと狼の子を買って帰ってきたのか。
「おやっさん、狼の子以外の今日の話は内緒ね」
「アイヨ、いい話のネタだと思ったがそう言われると黙ってるしかないわさ。安心するわさ」
まだ外も明るく晩飯にはまだ早い時間、周りを見回し食堂に僕ら以外いないことを確認して厨房に声をかけた。
板芝居のこともだけど、宰相様の親戚だとかあまり知られないほうがいいに決まってる。
「それでその手の中のどうするの?」
「どうしよっか」
ラパウルの心配そうな声に厨房から声が返ってくる。
「3日だ、3日だけルールを曲げるわさ。それまでに宿を代えるなり家を借りるなりしとくれ。それと日が暮れるまでにミルクを手に入れておいた方がいいと思うわさ。うちにはミルクなんてないよさ」
この世界、というかこの街ではミルクはなかなか手に入らない。
牛乳は牛が必要で、牛には安全な場所と大量の草が必要だ。
その両方とも王都では難しい。
下手すると、というか間違いなく人のお乳の方が手に入りやすいと思うけど、それは最終手段だ。
「おやっさん、ミルクはどこで手に入るの?」
「王都から半日ほどの村から売りに来るやつがいるが、この時間だともう帰ってるか。そういえば外壁近くの孤児院でヤギを飼っていたはずだわさ」
それだ!
自分の服をお腹のとこまで捲り上げ、それにくるんだキュウキュウ鳴き出した子犬、じゃなくて子狼を連れたラパウルとふたり早足で孤児院へと急いだ。
服が濡れてないとこをみるとやはりお腹が空いたのだろう。
王都は広く、小走りでも数十分かかってしまい、可哀想だがずっと鳴かせたまま孤児院へとやって来た。
日が暮れ始め、子供達は建物の中だろうか。
誰もいない広い庭を通り、孤児院の建物の戸を叩く。
「はいはい、どちらさまでしょうか」
年配の優しそうな女性が戸を開け出てきた。
「はじめまして、ラパウルといいます。今日思いもかけずこの子を手に入れたのですが、飲ませるためのミルクがなく困っていたところ、宿の店主よりこちらの孤児院ではヤギを飼っているという話を聞いたため、差し支えなければミルクを分けていただけないかと伺った次第です」
服にくるんだ仔狼を見せながらラパウルが説明するが、ぼくはその脚を蹴って耳を引っ張り耳打ちする。
「代わりといっては失礼ですが、些少ではございますが孤児院へ寄付させていただきたく存じます。こちらをお納めください」
女性の手を取り、その掌に銀貨5枚をそっと置くと頭を下げた。
「お願い」
ついでにぼくも頭をさげる。
「あー、ちびっけー。それなんだ?」
「ほらほら、あなたたちは部屋にお戻りなさい。子供達が失礼しました」
建物奥からわらわらと湧いてきて、扉の影からこっちを覗いたぼくより少し大きな子をたしなめると会話を続けた。
「申し遅れましたが、ここの孤児院の院長をしておりますアメルタと申します。当院への寄付大変ありがたく思います。そちらは犬かしら?」
「ウルフのこどもらしいです。父ちゃんが騙されて買ってきたの」
「コラッ、シーだ」
「あ、ぼくぷっくる! 4しゃい」
決め台詞を忘れるところだった。
「あらー、偉いわねちゃんとご挨拶できるなんて。うちの子達にも見習わせなくてはいけないわね。それでミルクでしたわね。こちらにいらっしゃい、その仔もずいぶんお腹を空かせているみたいですしね」
建物から出て、庭というか空き地?の隅にある小屋に案内された。
中にはヤギが3頭おり、そのうちの1頭のおっぱいに仔狼を近づけるとチュウチュウ吸い出した。
それはもう一心不乱にという言葉があてはまりそうなほどに。
この孤児院はそれなりの広さの場所を割り当てられているが、この広い庭が抜いても抜いても雑草が生い茂って困っていたところ、孤児院を卒業した子達がこのヤギをプレゼントしてくれたそうな。
そしてヤギ達は雑草を食べ、そしてミルクまでこの孤児院へもたらしているんだそうだ。
お腹いっぱいになったのかスヤスヤ眠っている仔狼を抱き、しばらくの間毎日ミルクを売ってもらう約束を取り付けると宿へと戻ることにした。
この後母はあらあらといいながら特に反対もなくニコニコと仔狼を撫でるのだった。




