見慣れぬ天井
目が覚めると見たことのない天井が目に入った、じゃねーわ!
眼前10センチ程のところに天井が、って「ムギャ」おでこぶつけた。
背からはガタゴトガタゴト振動音、口には猿ぐつわ。
眼球だけ右を見ればご同業、もとい同じ境遇の子がふたり?いや三人かな。
左をみればこちらにも女の子がひとり。
皆気持ち良さそうに眠ってるな、ぼくももうひと眠り……じゃねーわどういうことよこれ。
とりあえずもちつけ
そういえば最近確認してないけど、精神制御(微)(自)ってスキルもってたはず。
なむなむ精神制御様、こころに平安をじゃねー、クールに冷静でありますように、って結構今冷静かも。
誘拐されて、いや誘拐されてるってことで間違いないんだよね?
暫定誘拐されてるとして、こんだけ考えられるってことは結構冷静だわ、ありがとー、かみさまー。
えっと記憶を辿っていくと、、、昨日の夕飯は領主邸で客人待遇を受けてたので旨かった、じゃねー、そこまで遡る必要なかった。
翌日、つまり今日の朝の朝食は旨かった、いやいやもっと先。
昼食は……食べてねーな。
昼前からリーグにぃと二人で王都から持ってきた素材を薬屋で買い取ってもらおうと出掛けたんだ。
「帰んな、こちとら真っ当な商売やってんだ。ぼくたちみたいな子供からでどころの怪しい品物を買い取れるわけねーだろ! どうしてもってんなら親と一緒に来な! 帰った帰った!」
そうそうこの辺りからかな。
ぼくらが店から出ると、店の外まで聞こえてたのか男が声をかけてきた。
今なら男がではなく、うさんくさい男が声をかけてきたといえるが、その時はそうも思わなかったんだよな。
日本的平和ボケ感がまだあったんだろうな、この世界で4年生きてきたとはいえ両親に守られてぬくぬく育ってきたのもあって危機感が足りてなかったんだろうと思う。
「こんにちは、坊っちゃん方。買い取りを断られたんですってね、ここの薬屋は頭が固くっていけやしねぇ。あっちにオイラの懇意にしてる店があって、そこだったら買い取ってもらえると思うんだがどうだい、ついてこねーか?」
あの時は運がいいって思ってしまったんだよな。
「えっ、ほんと? 案内してよ」
「さっきのお店の人の言うことももっともだよ、出直して父さんとまた来ようよ」
「めんどうだし、この人のいう店がダメだったら出直そうよ、ねっ」
ぼくらは男に付いて路地の奥に歩いていった。
「そうそう、売りたいってもの見せてもらっていいかな」
リーグにぃが怪訝な顔をしつつも肩にかけてた袋を降ろし、目線を外した隙に男は拳を振り上げリーグにぃに殴りかかる。
「危ない!」
咄嗟のぼくの体当たりも男を少しよろめかせる程度の効果しか与えることができない。
「この餓鬼が! 売るのに丁度いい感じだと思ったが生意気な、容赦しねーぞ」
「ぷ、ぷっくるくん~」
リーグにぃは袋を落とし地面にへたりこんでいる。
これだ!
袋に飛び付き中からあるものを取りだし構えた。
「ヒャハハハ、なんだそりゃ」
「なんだって? シャドウモールの爪さ」
シャドウモールの爪を両手で構えるも体から震えがでてくる。
解体用ナイフを持って出掛けるべきだった。今後はなにかしら常に武器を携帯することを検討しよう。
「誰か助けてー」
叫んでみるも助けは出てきそうにない。
「この辺りの住人は働きに出てるから日中は誰もいないのさ」
「くっ」
爪で牽制しながらもへたりこんでるリーグにぃの隣まで言って小声で声をかける。
「なんとかやつを牽制して時間を稼いでみるから、路地から出て助けを呼んできて。出来るよね、行って!」
「なっ、糞っ」
気を持ち直し背を向け走り出したリーグにぃを追いかけるため男はぼくの脇を走り抜けようとした。
「今だ!」
両手を斜めに振り抜く。
手応えあり!
男のズボンの太もも辺りを浅く切り裂いた。
いや、背の高さの違いで自分の正面はそのくらいの場所になるんだよ。
「糞がっ」
追いかけるのを止め、ぼくと向かい合う。
男は無造作に歩き寄る。
左っ!
怪我を気にした風もなく男の右足が弧を描いて襲いかかってくる。
爪を手放し、両手の平で蹴りを受け止めようとした。
手のひらで蹴りを受けた、と思ったとすぐ背中に衝撃が。
そこまでかな、覚えてるのは。
眼球を左右に動かすもリーグにぃを見つけることは出来ない。
無事逃げられたのかな。
助けは間に合わなかったみたいだけど捕まってないみたいだし、そこだけはよかったとするか。
ぼくらは高さの低い木箱にでも並べて寝かせられているみたいだ。
口には猿ぐつわ、両手を前にして縄でくくられている。
身じろぎ程度動かすのが精一杯だ。
まぁ、ちょうどこの前魔法教わったばかりだけどよかった。
「モガモガフガモゴ(オーケン神よ、命の源の水よ、我が前に集いし後的を穿て、アクアボール!)」
……
あるぇ?
もいちどやっても魔法は発動しない。
もしかしてきちんと言葉に出さないとダメ?
オーマイゴッド、アルヴァのばかちんがー。
ん?
ん??
ん???
「お勤めご苦労様です。滞在許可証をお返しします」
「あぁ。ん?なにか声が聞こえたような」
「さぁ、わたしには何も。それより行ってよろしいでしょうか。街を出るのが遅くなってしまったので少しでも先を急ぎたいんです」
な、な、な、ななな
『アルヴァ様お願いします、リトルウォーター、リトルウォーター、リトルウォーター!』
ジョバジョバジョバ
「おい、待て! 後ろから水が流れ出してるぞ。おい、止まれっていうのが聞こえないのかっ! おいっ、追いかけろ!」
数分程度だろうか、ガタガタ激しく揺れていたのが治まると、薄暗かった視覚に眩いばかりの光が入り込んできた。
「なんだこれは? おいっ、そいつらを急ぎ拘束しろ!」
「すまん、護衛の契約だがさすがに領兵にケンカを売る真似まではできん、勘弁してくれ。というわけで戦う気はないからお手柔らかに頼む」
「高い金払ってんだ、どうにかしろ!」
「大丈夫か?」
「フガモガモゴ」
「あー、外してやるからじっとしてろ」
「いやー、助かった。おじさんありがとです」
先ほどまで寝てたのか気を失ってたのか静かだったぼくの同輩も水で目が覚めたみたいで猿ぐつわと手縄を外してもらっている。
「お前らはなんなんだ?って聞いても答えられんか」
「なんだろね、怪しいおじさんに襲われて蹴りを受けて気付いたら箱の中って程度しか答えらんない」
「ママー」「えーん」「うわ~ん、ここどこー?」「お腹空いた、お菓子くれるっていったのにくれなかった」
図太い大物感のある子供も混ざってるじゃん。
「ぼくぷっくる、4しゃい。昨日この街に来て領主様のお屋敷にお泊まりしてるの」
「お、おい、なんだって? 急ぎ確認しろ!」
ちょうど応援か町の方から騎馬が20騎ほど走ってきてるのが見える。
先頭はって、ハルファス様じゃん。あ、護衛のおじさんたちとその背に相乗りしてるリーグにぃが見える。
「ぷ、ぷっくるく~ん。無事でよかったよ~」
リーグにぃが泣きじゃくりながらぼくの胸に飛び込んでくる。
「プックルくん、無事なようでよかった。私の街でこんな犯罪がおこるなど許されざることだ。君に何かあったらラパウルになんといってよいやら」
ラパウル大好きなんだよな、この人は。
「この兵隊さんたちのおかげで助かりました。彼が気づいてくれなかったらぼくは今ごろ遠くまで運ばれてたでしょうね。で、あれ?どうなる未来だったの? 奴隷として売り払われるとか?」
「それはこれから調べてみることだ」
「あ、あの人は?」
「そうだ! ここにぼくたちを襲ってきて拐った実行犯がいない! まだ街に仲間がいるのかも」
「おい!」
「はっ、我らはこの馬車とは別に街に戻ります。馬車も偽装を施し誘拐犯のものとはわからないようにしてから街に戻らせます。そしてこいつらは厳しく取り調べをし、犯罪者を一掃します」
「よしっ! この件が片付くまで情報は洩らさぬように。それとそこのお前、甥っ子を救ってくれたこと感謝する」
木箱や荷物を積み重ねたりして外からは分かりにくいようにしてぼくらは街に戻る。
御者台には兵隊ではなく一般人にみえるというか一般人の冒険者であるぼくらの護衛のおじさんが座っており
荷台には兵士ふたりと奴隷商?それとその護衛ふたりが縛られ、ぼくら子供5人ウィズリーグにぃが座りギュウギュウである。
腹減った少年は勝手に荷から食べ物を探しだしムシャついてる、こりゃ大物になるな。
屋敷に戻ると日頃温厚な伯父さんと伯母さんに滅茶苦茶叱られた。
さすがに迂闊だったと反省している、正直ちょっとへこんでいる。
リーグにぃは弟同然のぼくを守るために強くなるとかいって早速護衛のおじさんたちから剣を習い始めた。
そして翌日にはほとんど事件は解決していた。
農村の子や貧民街などの子よりもう少しおとなしく、生意気でなく従順な子がいいということで街で子供を拐い、騒ぎが大きくなる前に子供を街の外に連れて逃げるということをいろんな街で繰り返していたそうだ。
ぼくと一緒に捕まったのが子供の移送役、そしてそれとは別に子供の誘拐役が数人いて、別々に街をでて途中で落ち合い、そこで臨時雇いの護衛と交代する手筈だったらしく、その両方とも捕まり何も知らなかった護衛はお叱りと数日間の牢屋入りの後放免されるらしい。
事はこの街だけで終わるものではなく他にも同様のグループがおり、集められた子供たちは纏めて他国に移送して売られるのだそうで、犯罪者は王都に送り以後の判断は国に任せるそうだ。
ぼくらは道中の安全も兼ねて移送をおこなう騎士団と一緒に王都まで戻ることになっている。
皆さん、心配かけてすみませんでした。