旅の暇つぶし
今日は駆けているというか走ってる。
入学に備えて体を鍛えるため、この旅が始まったときから時々馬車を降りて駆け足程度の速さで駆けている。
馬車は結構なスピードで走ると勘違いしている人もいるだろうが馬も動物、長時間走り続けるなんてことはできるわけはない。
基本ポクポク歩いて進むのだ。常歩という馬が気楽に歩いている歩き方で人の早歩きくらいだろうか。
今はぼくにあわせて軽く速足で歩いてる。
荷馬車なので重量があるためいつもは常歩だが、人を乗せるみんなのよくイメージする馬車なんかは距離との兼ね合いもあるが速足でよく移動したりする。
馬の走り方の呼び方は常歩、速足、駈歩、襲歩となる。
後ろふたつは走る、本気で走るみたいに思ってもらえればいい。
話は逸れたが、もうすぐ冬になろうかとする季節、走っていて気持ちがいい。
「プックルくんとリーグはそろそろ荷台の方に入ろうか」
伯父さんの声に促され馬車の荷台に飛び乗った。
今までも何度もあったが道が森の近くを通るからだ。
ぼくとリーグにぃが戦うことはない。
邪魔にならないように荷台に移り安全な場所までこのままだ。
御者をしている伯父さんもそこそこ戦えるし、荷台に今一緒に乗っている伯母さんもそこそこ戦え、ぼくらの安全を守ってくれている。
森の脇を道が通るといっても20メートルは離れてるし、そうそう森からこちらまでモンスターが出てくることもない。
「今日もお裁縫?」
「えぇ、家族で行商するのはいいけど、馬車に乗ってるだけってのも暇なのよね。こうして家族の着るものを縫ったり、売り物にしたりするのよ」
「リーグにぃ、僕らも何か作ろうよ」
旅はいろんなことがあって楽しいけど、移動速度は遅いし時々暇に感じてしまうんだ。
「布は安いものじゃないから僕らで遊びで作って無駄にすることはできないよ」
「いや、裁縫じゃなくてもいいからさ。例えば木彫りの人形を作るとか。いや無理か……あっ、竹トンボ、そうだ竹トンボを作ろう!」
「竹トンボって?」
「竹って植物で作るおもちゃなんだけど、竹じゃなくて適当な木で作っても問題ないはず」
「伯母さん、薪を1本欲しいんだけど」
伯母さんも巻き込んで僕ら3人は竹トンボ作りに邁進した。
「う~ん、思ったように削れないな」
「プックルちゃん、こうかしら?」
「そうそう、うまいうまい。でももう少し全体的に薄く軽くしたほうがいいかも」
伯母さんは器用でぼくの想像した通りのものを作り上げてた。
リーグにぃもなんとか形にし、ぼくは伯母さんに手伝ってもらいつつなんとか小一時間で仕上げた。
「それでどうやって使うのかしら?」
「広い場所で遊ぶものだから、馬車を降りないと駄目かな」
次の休憩までにぼくの監修により伯母さんとリーグにぃで小さな風車をひとつづつ作り上げた。
ぼくはって?
木を削るのは力が要るんだよ。この幼い腕はもう筋肉がプルプルしてるし。それに前世も得意ではなかったが、今世もいまのところあまり器用ではないっぽい。今後に期待!
「プックルくん、凄いよ、これ凄い!でもどうして飛ぶんだろう」
「わかんないけど、飛ぶんだよ」
プロペラというものが身近になければ想像もできないのかもしれない。
ここで科学技術を発展させる気もないし、まぁいいや。
それはさておき、ぼくらは竹トンボを堪能した。
「見たこともないおもちゃだけど、売れるかな~?農村だと子供に買い与えるのはまず無理だし、町なら、いや……でも……」
伯父さんがブツブツつぶやいている。
「すぐ真似されるだろうし、子供でも自分で作れる程度のものだから、いつもまわってる村の村長に子供のおもちゃといってひとつプレゼントして恩を売るくらいでいいんじゃないのかな。竹トンボくらいだったらぼくら、いや、リーグにぃでも旅の途中の退屈凌ぎに作れるしね」
最近というか、前世で死ぬ前という意味での最近はとんと見なくなったが、子供の頃は家に置き薬の補充に来たりとか保険の人とか家に営業?押し売り?に来たときにちょっとしたものくれたりしたよなぁ。
「見たこともないものだし欲しがる人はいると思うんだがなぁ」
伯父さんはまだ諦めきれないのかぶつぶつ言っている。
「失礼、少々よろしいかな」
「はい、どうされました?」
「息子がその馬車の上でくるくる回ってるやつが欲しいと言ってな。よければ譲ってくれんかね」
竹トンボを堪能し、ゆっくり休憩していたぼくらの横を過ぎ去っていった馬がUターンして戻ってきて、子供を後ろに乗せた男性が馬上から話しかけてきた。
「これですか?これは風車といいますが売り物ではないんです」
「そういわずに。あっ、しまった。息子と遠乗りに来ていただけなので金を持ってきておらなんだ」
「父さま~」
「これと交換でどうじゃ? 息子の魔法の練習用の魔道具なんだが」
男は指輪を手に交渉してきた。
「欲しいって言ってるからいんじゃないかな。あ、あとこれもあげるね。竹トンボっていうんだ。こうしてこうすると」
「うわ~、すごい。すごいよ~」
馬の後ろに乗ってるぼくと同い年くらいの男の子は目をキラキラ輝かせながら宙を飛んでる竹トンボを見ている。
結局ぼくらは魔力を込めると生活魔法のリトルウォーターと同じく水が出るという魔道具をもらい、風車と竹トンボを差し上げた。
わらしべ長者かよ
わらしべ長者って?
最初藁を拾って、それにあぶをくくりつけて遊んでたら、それを子供が欲しがって
その親がミカンと交換してってミカンくれて
喉が乾いたって商人にミカンあげたら反物くれて
それから色々交換していって最後は家屋敷をもらって金持ちになったとさってお話
確か途中で風車と何か交換してたように記憶してる。
(すみません、作者の勘違いでした)