知識チートだけどなに?でもその前に
くぅとお腹の虫が主張し始めた。
「お腹空いてきたね」
「そうだね、そろそろお昼だから一度宿に戻ろうか」
お金なんか持ってないので、露天で買い食いなんてできるわけもない。
ラパウルを除いたふた家族5人で昼食をとる。
護衛の3人は王都にいるしばらくの間は自由行動となるためこの場にはいない。
「リーグちゃんとプックルちゃんは午前中はなにしてたのかしら~」
「冒険者ギルド覗いてきたー」
「はい、どんなとこかと二人で冒険者ギルドに行ったら偶然ラパウル叔父さんと会いました」
「そういえばあの人は冒険者ギルドに行ってみるとか言ってたわねぇ。でも剣は部屋に置いたままだった気がするのよねぇ~」
おいおい、そういや持ってなかったわ。仕事するとかいってたけど何しに行ったのやら。
「父さんと母さんは?」
「私たちかい? 私と母さんはお前達のお爺ちゃんとお婆ちゃん。王都で道具屋をやってる私とミュレの両親のとこに顔を出してたのさ。お爺ちゃんもお婆ちゃんもリーグに会いたがっていたから明日にでも皆で行くとしようか。それとプックル君はまだ会ったことがないんだよね。二人ともとても会いたがっていたからミュレも早く会いに行ってあげなさい」
母さんの方の爺ちゃんと婆ちゃんか。
王都から離れたとこで生活してたから一度も会ったことがないんだよな。
馬車で2週間とか気軽に行き来できるものでもないしな。
「そうそう、プックルくんに聞きたいことがあったんだ。おじさんが買い込んで王都まで持ってきたすり下ろし鍋、あれってプックルくんが考えたんだって?おじさん最初知らなかったよ」
「うん、あれでリンゴなんかすりおろすと美味しいんだ。鍛冶屋のおじさんに最初作ってもらったんだけど、いつの間にか勝手に真似されて販売されちゃってたんだ」
「誰でも真似できるような作りのものはしょうがないね。おじさんもいくつか王都に持ち込んでいるけど、有用だと思われたらすぐ同じものが作られるだろうね」
「うーん、アイデアを保護というか、最初に考えた人に真似する人は対価を支払うとかそんなシステムはないの?考え損じゃない」
「残念だけど聞いたことがないねぇ」
ラノベでは時々商業ギルドで特許的なものがあったりするけど、この世界では残念ながらないのかぁ。
地球でも特許の最初は500年くらい前、日本で特許制度が始まったのは高々100年程度だし、なくてもしょうがないか。
そういや、よく中世ヨーロッパ風なんていわれてるけど、中世っていつごろなんだろ。
「母さん、この紙の文章をきれいに書き写して、ねぇお願い!」
「はい、は~い、これね。これはなにかしら~?」
「内緒っ。あとできればだけど、いつもとは違う筆跡でお願い!」
「あらあら~、なにをたくらんでるのかしら」
ふっふっふっ~、内緒なのだ。
貴族街への門でヴァルツォーク家に取り次いでもらって爺ちゃんのとこまできたのだ。
来たのは僕とリーグにぃの二人。
「おぉプックルや、よく来た。しかし来るときは予め使いのものを寄越してから来るのが礼儀じゃぞ」
「えー、面倒だよ~。じゃぁもう来ない!!!」
「プックル~、そんなこと言わないでおくれよ~」
「あなたっ!プックルちゃんは私の可愛い孫息子だもの、いつ来てもいいのよ。この頭の固い頑固爺のいうことなんか気にしないでね。あなたっ、門を自由に出入りできるよう手配してくださいな」
「ありがとう、お婆ちゃん。えとねぇ、一緒に来たのはリーグにぃ。母さんのお兄さんとこの子供なの」
「旦那様、奥様。プックルの従兄弟のリーグと申します」
「うむ、きちんとした挨拶をしよるわい」
「はじめまして。ミュレさんの親戚ということは私とも親戚ね。よろしくリーグちゃん」
「して、今日はどうしたんじゃ」
「うん、お爺ちゃんって侯爵様なんだよね。偉いんだよね」
「そうじゃよ、偉いんじゃぞお爺ちゃんは」
「んとねぇ、見せたいものがあるの。出来たらテーブルの上に置きたいんだけど」
「おぉ、すまんかった。入り口での立ち話なんかしておる場合じゃないわい」
僕らは応接室に場所を移し、テーブルの上に袋の中身を取り出した。
「見てもらいたいのが二つあるの。リーグにぃお願い」
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
ラパウルに書いてもらった紙芝居もとい板芝居をリーグにぃの語りで披露した。
「ほぅ、面白いもんじゃな」
「次はこの紙見てくだしゃい」
「なんじゃ?」
「さっきのは板芝居といいます。たぶんよそでは誰もやってなくてこれだけです。これは行商の傍ら娯楽のない村々で披露する予定なの」
「ほう、面白い試みじゃな」
「あ、まだめくっちゃダメなの。ぼくの指示待つの。ぼくのプレゼンなの」
紙をめくって先を読もうとするじいちゃんを押し留め、説明を続ける。
「少し村で試してみたけど、みんな楽しんでくれたの。盛り上がったの」
「ふむふむ」
「さっきのとは違うけど、王国の歴史物語なんかを披露すれば今までそんな話を知らなかった村人も楽しみながら知ることになり、はなしの持って行き方で王国や王族をもっと敬うようになると思うの」
「おぉ、さすがプックルじゃ。さっそく板芝居とやらを広め、王の威光を知らしめる方向で考えをもっていかねば」
「うん、それなんだけど次のページを見てね。これからどうなるか予想を書いています」
「ふむ、確かにこうなることは容易に想像がつくわ」
板芝居が客に受けるとなると簡単に真似することができる。
もっとも受けるかどうかはおはなしの内容次第だろうけど。
「先程話した物語の他に次のページにあるような物語もあります。お手数ですが軽く目をお通しくだしゃい」
嘘つき少年が『狼がきたぞー』っていうお話が書いてある。
「嘘をつく子ども」というお話しだ。「おおかみ少年」とか「狼と羊飼い」とかというタイトルになっている場合もある。
ある少年が狼が来たぞーって騒いだら大人たちが右往左往し、それが楽しくて何度も狼が来たーって騒がせてたら、ほんとに狼が来たときに叫んでも誰も信じてくれなかった。
っていうお話だ。
「こちらを村の子供たちに読み聞かせることで嘘はよくないと教えることができます」
「そうじゃの、よくできておる」
「このように村人を教育、悪く言えば思考思想を誘導することができます。そこで先程の話しに戻りますが、誰でも板芝居を作ってしまいますと為政者の望む考えを押し付けることができません。そうですよね」
「うむ、そうじゃな」
「そこで板芝居の作成は許可を受けたもののみができるという許可制にしたほうがよいと思うのです。物語は都度国の人間がチェックすればコントロールすることも容易だと思うの」
「板芝居か。プックルの言うように使い方によっては有用やも知れぬ。このプレゼンとやらの紙と板芝居とやらはワシにしばらく貸してくれぬか。国にかけあってみるとしよう」
言論の自由?表現の自由?
知らんがな
許可制にして商売敵を増やさず儲けたいのよ。
国から変な物語押し付けられて板芝居が面白くなく嫌われる可能性もあるけどそのくらいのリスクは承知の上よ。
「お爺ちゃんありがと。次はこれね」
30センチ四方くらいの木の板と、小さな四角い木片を大量に取り出した。
「これは黒白ゲームって名前なの」
木の板には線が引かれ升目に別れている。
木片は片面は黒く塗られているものの、その裏面が白く塗られていたりはしない。
また、丸くカットもされておらず四角い木片だ。
だがあえて言おう、オセロだと。リバーシではない、あえていおうオセロだと。
でも、オセロとかそのままの名前を使う気はない。
適当に黒白ゲームと名付けた。
「これはこうやって遊ぶの。こういうのみたことある?」
「いや、ないのう」
「お爺ちゃん、試しにやってみようよ」
オセロを作ってみたものの、正直縦横何マスかは覚えていないので適当に作った。
ラノベとかでよく作ったりしているがみんなマス数がいくつか覚えているのだろうか。
ちなみに正式マス数は覚えていないが、巨大というかめちゃくちゃマス数の多いオセロもあるのでいくつでもいいのかもしれない。
オセロは順当にぼくの勝ちで終わった。
ぼくはほんとは強くはないが、四隅をとるという戦略?だけで勝つことができたのだ。
まぁ相手は初心者だしね。
もう一度というお爺ちゃんの対戦は断り、お爺ちゃんとお婆ちゃんで試してもらった。
どっちが勝ったかはおいといて、悔しそうなお爺ちゃんに次のページをみてもらい説明をおこなう。
「これはまったく新しいゲームです。先程の板芝居と同じく容易に真似して作ることが可能です。このゲームの産みの親にお金がいかなくてよいのでしょうか、いやよくない」
地球のゲームのパクリだけど、ぼくにはお金が必要なの。
この際恥という概念は捨ておくとしちゃいます。
「例えばお爺様の領地で白黒ゲームの作成、販売を禁止したらできますか?」
「うむ、できないこともない」
「今から言うことは夢物語での提案なんだけどとりあえず聞いてね。新しい知識、技術には敬意を払うべきだと思うの。新しい技術などは国が管理し、数年間はその技術を保護しそれを利用する場合にはいくばくかの金額を徴収するようにすべきなの。国による技術開発管理院の新設なの。貴族の家紋の様なマークを作り、製品にはそのマークと権利開始年を記載するようにし、マークの無断使用は家紋の無断使用と同じように厳罰に処するというのも必要かもしれないねぐふふ」
「なかなか面白い考えじゃな、一考に値する。してこの案はプックルのものか?」
「知りあいの考えなの。だけど白黒ゲームはぼくのなの」
「おぉー、そうかそうか。そうなれば是非に実現しなけりゃならんのう。それにその知人とやらにも会ってみたいのう」
「うーん、お爺ちゃんの頼みでも難しいかな。恥ずかしがりやで知らない人と会うのをとっても嫌がるから」
「会ってみたいが、プックルがそういうならしょうがないか」
侯爵家当主、国の重鎮とも言える人がこれでいいのかと思わなくもないがいいのとしよう。
プックル4歳、ボクは可愛い可愛い男の子でお爺ちゃんが溺愛する孫なのだから。
ぼくらはオセ……ゲフンゲフン、黒白ゲームと板芝居の現物と資料を置いて爺ちゃん家を後にした。