冒険者ギルドというところ
早速、その足で学園にいってみると、丁度自分の担当する授業のない時間だったということで話を聞くことができた。
「平民は住んでるところの領主、つまり貴族にパトロンになってもらって学園に通うのが普通かな。だってさ、学費だけで年間金貨50枚、寮費が8枚だったかな。なんだかんだで学園に通うのに年間で金貨70枚程度はみておかなきゃいけないんじゃないかな」
ガーン。ショックだ。
農村ではお金のやり取りが少なく農業をやりながらだと金貨1枚もあれば1年余裕で家族生活できると聞く。ラパウルは小さな町で兵士として雇われてて年収金貨15枚だったかな。王都なんかは物価も高く裕福でない部類の庶民が家族4人だとして年間金貨20枚くらいかかるらしい。
普通に考えて庶民が学園に入って勉強するの無理だろ。
裕福な商人くらいじゃないのか、自力で行けるの。
「いや~、そんなにすんのか、知らんかったわ。プックル、うちじゃ無理だわ。爺さんに甘えてみればだしてくれるかもしれんぞ。いや、なんかプックルには甘いから貴族枠で入学試験なしでもいけるかもしれん」
「ま、それはさておき、さっきの説明の補足だけど。学費なんかが余裕でだせる金を持ってる貴族の中には積極的にパトロンになって学生を送り込んでるのも結構いる。ヴァルツォーク家なんかもそのひとつだね。貴族はお金を払って学園に行かせる代わりに卒業後に自分のところで働かせる契約になってることが多いね。それが嫌ならかかった費用の何倍かを返済しなきゃならない。何倍かは貴族によっていろいろだけどね。それと他の貴族がお金を肩代わりして学園在学中や卒業後に引き抜くなんて真似は貴族として無粋だとされてるようだよ」
「あれ?母さんも学園卒業してるんだよね。母さんはどの枠だったの?」
「わたしはねぇ、裕福な庶民枠かしら~。私の父が商売で一時期成功をおさめてた時があってねぇ、その時にちょうど私と兄さんは学園に通わせてもらったのよ。その後父が商売に失敗しちゃって今はこの王都で小さな道具屋をやってるのよ。今度みんなで会いに行きましょうね~」
「うん!」
「それで試験内容の方はどうなんだ?」
「読み書きができないと話になりませんし、文章の書き写しがあり、計算は簡単な足し算からだんだん難しい問題になっていき、わかるところまで解いていくことになります。他には一般知識としてこの国の簡単な地理や歴史ですね。筆記は基本的にこんなとこですが、変わったとこで記憶力を試すというので、試験開始前に試験官が名前を名乗って挨拶をし、試験時間残り5分になってから急に回答用紙の一番下に試験官の名前を書くようになんてのもありましたね。人の名前を覚えるのは大事なことであり、記憶力を試すのに丁度いいとかいってましたね。もっともこれは必ず試験としてあるというわけではないですが」
「うわー、僕名前覚えるの苦手」
「父ちゃんも苦手だな。貴族や商人なんかは人の名前と顔を覚えるのは必須技能のひとつだな。名前を覚えるのは苦手といっても顔と爵位なんかは頭に入るから、爵位呼びでごまかしてたけどな、あはは」
「そういえば、先輩はあんまり人の名前を呼んだりしていませんでしたね」
「まぁ、その点からいくとというか、いろんな点で貴族失格だったけどな」
「他にはどんなのがあるのー?」
「プックル君は魔術科希望だったかな。今言ったのが筆記で変わり種は加点になります。勉強については入学後に勉強すればいいので、一定以上できれば問題ありません。大事なのは実技になります。魔術は素用が大事ですからね。魔力量、魔術威力、詠唱スピードなどを初級魔術を的に向かって放ってもらって採点します。なかには中級魔術を試験で使うものもいますが、中級と言うことでの加点と難しいため魔術の使用が甘くなってしまい減点があったりするので、高難易度の魔術を試験で使うのがいいとばかりもいいきれません。騎士科は実技は試験官と実際に打ち合います。商人科はある程度の筆記ができれば、実技はありません。大事なのは他の科の倍の授業料と寄付金ですね」
「「「商人科?」」」
「先輩は知りませんでしたか。私たちの頃はありませんでしたが、数年前に商人達の要望で新設されましてね。貴族や将来有望な生徒との顔繋ぎ目的や、学園卒業という名前のために結構な額の寄付により新設されたんですよ」
「金もないし、商人科はうちには関係無いな」
「あっと、先輩ごめんなさい。次は私も授業があるので、そろそろこの辺で失礼します」
「あぁ、助かったよ。当分王都にいる予定だから、今度飯でも食おうや」
「はい、是非」
ラパウルの後輩と別れての帰路、プックルは4歳にしてお金のことで悩んでいた。
この世界でも金か。せちがらい世の中だ。
なんちて。
ぼくプックル、4しゃい。
お金が欲しい年頃でしゅ。
「おいおい、ここはガキがくるとこじゃねーんだ、帰ってママのおっぱいでもぐひゃ」
ガツンって音がした。マジでしたよ。
金策と来れば冒険者ギルドだろうと思い、リーグにぃに頼んで連れてきてもらったが、入ったとたん下品なヤジと笑い声に包まれた。
それも一瞬のことで、カツカツカツと軽く足速の靴音とガツンの音ともに静まり返った。
「あんたたち何してんのよ、そんなだから冒険者は下品だの野蛮だの言われるのよ。僕たち~、今日はどんな用があるのかな~」
受け付けカウンターから出てきた美人さんがしゃがみこみ、僕たちと同じ目線に合わせて問いかけてきた。
「冒険者ギルドはモンスターと戦う以外の雑用みたいな仕事もあるって聞いて下見にきたんです」
「う~ん、あるにはあるんだけど冒険者登録は7歳からなのよ。7歳からは仮登録でほぼ町のなか限定のお仕事で、10歳になると本登録できるのよ」
「ぼ、ぼく7歳です。プックルくんはまだ4歳だけど……」
りーぐにぃったら顔を赤らめながら答えてるよ。
「う~ん、一応7歳から登録は出来ることになってるんだけど、仮登録は親ごさんの許可がいるのよ。親、もしくは孤児院なんかだと院長先生と一緒に来てもらわないと登録できないことになってるのよ」
「プックルくん、どうしよう……」
「う~ん、今回はどうしようもないから、出直そっか」
「そうだね、そするしかないね」
「そうそう、さっきは助けてくれてありがとでした、美人のおねぇさん。今度登録するかもしれないのでその時はお願いします」
「あ、ありがとうございました」
僕らは冒険者ギルドに入って早々出ることにした。
冒険者に絡まれるというテンプレに近いものはあったが、俺tueeeとかはなくギルドのおねぇさんのゲンコツで即座に終わってしまった。
ていうか、俺tueeくないわ。
たぶん普通の4歳児だわ。
言葉覚えたりとか、この世界が目新しくて普通に過ごしてた。
体は子供、頭脳は大人とかいっても博士の道具とかもないしやばいじゃん。
力が正義!かどうかは知らんが多かれ少なかれこういった世界では強くなけりゃやっていけないと思う。
学園に通うのにお金が必要で、入学するために勉強と魔法の訓練、そして体を鍛える、これが今僕に必要なことだな。
「あ、叔父さん」
ギルドから出ようとしたら、父ちゃんことラパウルに出くわした。
何も言わずに来たから、ちょっと気まずい。
「お前たち、こんなとこで何してんだい」
「う~ん、冒険者ギルドの見学。そうだ父ちゃん、冒険者登録するのに保護者が必要なんだ。お願い!」
僕たち3人はさっきのおねぇさんがいる列にならんで順番を待つ。
「保護者を連れてきたので登録お願い!」
「はい、それでは名前をお聞かせいただけますか。それとお父様は身分証の御提示をお願い致します」
「リーグ。7歳です」
僕は4歳で登録できないので名乗らない。
父ちゃんはポケットから紐のついた金属板を取り出してる。
「叔父のラパウルだ。何年も活動してなかったから失効か降格になってるかもしれんが、ほい、冒険者証」
名乗りに周囲がざわめき始めた。
「そういえば見覚えがある、あいつラパウルじゃねーか」
「ラパウルって二つ名もちのあいつか?」
「ずいぶん見なかったが、子供がいるのか」
ざわざわ声のなかからこんな声が聞こえる。
「3年以上依頼を受けておりませんでしたので、BランクからCランクへの降格となります。降格処理をおこなった後また3年以上依頼を受けませんとDランクへの降格となりますのでご注意ください。本日はCランクへの変更手続きをおこなってもよろしいでしょうか」
「まだ仕事も決まってないし、働かにゃならんからとりあえず冒険者の仕事はすると思うのでよろしく」
「かしこまりました。手続きをおこないますのでそのまま少々お待ちくださいませ」
おねぇさんは金属板を持って奥へと下がっていった。
「ねぇねえ、二つ名持ちって、どういう二つ名だったの?」
「ん? 二つ名?? そんなもんつけられてた覚えはないが間違いじゃないか」
「お待たせいたしました。こちらが新しい冒険者証となりますのでお持ちください。それと会話の横から失礼します。ラパウル様は『真面目にやれラパウル』と『さぼるなラパウル』というふたつの異名で呼ばれておりました」
「えー」
「いやいや、確かにそう言われることがよくあったけど、それってふたつ名じゃないよね」
「少々お待ちください。資料によりますと正しくは『不真面目ラパウル』と『さぼりのラパウル』となっておりますね。失礼いたしました」
「いやいや、それ何よ。子供の前でやめてよね」
「資料にはパーティリーダーの方の署名と、ギルドマスターの署名が入っており正式に登録もされております。二つ名はその呼ばれ方が周囲に広まり、ギルドに登録されるということで正式なものとなります。新たな二つ名を望まれる場合はそれに相応しい行動と新たな登録が必要となりますので精進をお願い致します」
「ぐぬぬ。納得いかん」
確かに門番としての仕事態度もそれほど真面目ということもなかったが少し不憫だ。
「次にリーグ様の登録についてです。叔父とのことですが、リーグ様は離れて暮らしていたり死別しているなどご両親がおいでになれない状態なのでしょうか」
「いや、こいつの父親も母親も元気だし、今はこの街の宿屋にいるな」
「そうですか、そうしますと出直してお父様かお母様といらっしゃいますか、ご親戚が立ち会いの場合は親ご様からの委任状をお持ちいただく必要があります」
「あー、ないな」
「そうですね、無理みたいです。出直すしかないですねラパウル叔父さん」
「まー、そうだが義兄さんは今日は商業ギルドに行くって言ってたしなぁ」
「それじゃぁ、父さんに簡単な依頼を受けてもらって3人でやるっていうのはどうかな。ついでに冒険者のこといろいろ教えてもらえるといいな」
「うーん、戦闘はそこそこいけるんだけど依頼っていうとほとんど仲間に任せていたからなぁ」
だーめだこりゃ、さすがに不真面目やさぼりの二つ名がつくだけのことはある。
「どうやって冒険者やるつもりだったのさ」
「いや、まぁ……ミュレと一緒にだな」
まずい、まずい、まずい!
なまけもののダメ親父とのんびり屋の母。王都でやっていけるのか???
爺ちゃんになにか仕事を紹介してもらうのが正解か?
この時代というか世界観からいって、仕事はコネや知り合いに紹介してもらうのが一般的だろうと思う。
「父ちゃん、ほんとに冒険者やるの?爺ちゃんに父ちゃんにあった仕事紹介してもらったほうがいいんじゃないの?」
「いや~、あの爺様はプックルには甘いがほんとは結構厳しいんだ。俺も以前コネで軍に入ってたがかたっ苦しいのが嫌で辞めてしまったし、今さら頼むのもなぁ。いや、爺様のとこの門番とかいいかも」
おいおい、さすがに自分の実家の門番とかないだろ、何言ってんだか。
「ゴホン、真に申し上げにくいのですが、御用がお済みでしたら次の方に順番を代わっていただけないでしょうか。皆様並んで待っていらっしゃいますので」
「「「すみませんでしたー」」」
「俺は何かいい仕事がないか見て、あれば仕事をするから、お前ら二人は宿に戻るか遊ぶかしてなさい」
「分かりました」「うん」
くぅとお腹の虫が主張し始めた。
腹減った……