これがじいちゃん家!?
翌朝起きるとラパウルがため息をついてた。
「おはよう、プックル起きたか。すぐに出掛ける用意してくれ。宿の前に早朝からうちの馬車が停まってるそうだ。宿の人間や他の泊まり客なんかは文句を言ってこないが、あれじゃ邪魔だろうに。たく糞親父ったらなにしてんだよ」
荷物とかそのままなのでもう一泊の代金を支払い、僕たちは朝御飯も食べずに宿を出た。
派手さはないものの、そこらの馬車とは明らかに違う豪奢な箱馬車が宿の前に停まっており、爺ちゃんより少し上の年齢の老紳士がピシッとした姿勢で立っている。
「おはようございます。ラパウルおぼっちゃま、ミュレ様、プックル様。申し遅れましたが、ヴァルツォーク家の筆頭執事をしておりますピンタークと申します」
「ピンターク久しぶり。元気してたか。それとぼっちゃまはよしてくれ、もういい歳したおっさんなんだから。とっとと行くぞ、宿の真ん前に馬車なんか停めてたら邪魔だろう」
「優しいお言葉ありがとうございます。爺は元気にしておりました。またおぼっちゃまにお会いできるとは感無量にございます」
執事の爺ちゃんはハンカチを取りだし、目元に当て涙を拭っている。
「はいはい、もういいから。馬車の戸を開けてくれるんだろ」
ハンカチを仕舞うと馬車の扉を開けてくれ、僕らは乗り込んだ。
執事の爺ちゃんは馬車の客席の方ではなく、前の御者席で御者さんの隣に座ろうとしたがラパウルが自分の向かいの席に座らせて自分が出ていってからのことを話したり、聞いたりいていた。
馬車は一度止まると、内壁の門をくぐる。
明らかに違う町並み、それに雰囲気が先程と違う。
恐らくこれが貴族街という場所なのだろうか。
馬車が道を進むとだんだんとでかい家になっていく。
ヴァルツォーク家の屋敷は城からほど近いところにあった。
ていうか、でけぇ。
壁に囲まれ限られた土地しか王都にはないというのに、無駄に広い庭に馬鹿でかい家というか屋敷。
さすがお貴族様ということか。
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
馬車が庭を抜けると屋敷の前には20人くらいが整列して出迎えてくれた。
屋敷のドアが自動というか人力で開けられ、僕たち一家は入っていく。
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」」
咄嗟のことでびびった、建物に入るとまたお帰りなさいませがあるとは。
今度の声は女性ばかりだ。メイド喫茶のふりふりミニスカメイド服ではなく、スカート丈はくるぶしより少し上、いわゆるロング、そしてシックな装いのメイド服を身に付けた成人したてのような若い女性からお歳を召した、いやいや熟練のメイドさんが玄関ホールでは10人ばかし。左右に列になってむかえてくれた。
まぁ、この世界でミニスカメイドがでてきたらびっくりするけど。
正面には爺ちゃん他数人が立っている。
「母さん、ただいま。今まで顔も見せず済まなかったな。まずは俺の家族を紹介するわ。こいつが嫁さんのミュレ、そしてこのちっこいのが息子のプックルだ」
「ご無沙汰しております奥様、そして他の皆様方はじめまして、ミュレと申します」
「プックル、僕4歳!」
なんかこの挨拶気に入ってる。
「ラパウル、ミュレさん、プックル、よく来てくれた。妻のカレスと三男のパーチルじゃ」
「ミュレさん、お久しぶりね。うちの頑固者を説き伏せるのに手間取ってしまってごめんなさいね。そしてプックルちゃん、お婆ちゃんですよ」
「ラパウル久しぶりだな、元気してたか。そのちびっこいのは子供の頃のお前にそっくりじゃないか」
「やぁ兄さん、久しぶり。息子のプックルが王都の学園に通いたいっていうから、しばらく王都の方で暮らすことにしたんだ」
「そうじゃったか。ここから通うがよい。ピンターク、宿へ行って荷物を取ってくるように」
「いやいや、父さん。俺達は適当に家を借りてそこに住むつもりだからね。家を出て貴族暮らしより庶民暮らしの方が性にあってるってことがわかったわ」
応接室に場所を移すと、ラパウルは主に爺ちゃんや伯父さんと、母さんは婆ちゃんと話しに花を咲かせている。
暇な僕は爺ちゃんに断って屋敷の探検をすることにした。
それには執事のピンタークさんが着いてきてくれることになった。
「プックルおぼっちゃま、屋敷の中と外どちらをご覧になられますか?」
「庭も興味あるけど、まずはお屋敷の方をお願い。こんな大きな家って初めてなんだもん。わくわくするよ」
「ではまず玄関ホールからご案内させていただきます」
「うん、お願いします」
メイドさん達が出迎えてくれた玄関を入ってすぐのとこに戻ってきた。
「あらためてここが玄関ホールにございます。まずはここでお客様をお出迎えします。あの正面にかかっております絵はヴァルツォーク家の初代様にございます。そしてあちらが先代様、それに御当主様と御家族様の絵にございます。ラパウルお坊っちゃまも一緒に描かれております」
「そういえば父さんに家族のこと聞いたことがないや。爺ちゃんと婆ちゃん、父ちゃんの兄さんはわかったけど、他の兄弟とかも教えてよ」
「はい、御当主様の隣に描かれているのは御長男で現在は奥様と一緒に領地の方で領主代理を勤めており、お子様が3人いらっしゃいます。お隣の女の子が一番先に生まれたお子さまで御長女で公爵家へ嫁入りされており、そのお隣は御次男で伯爵家へ婿入りされております。次いで三男のパーチルお坊っちゃま、四男のラパウルお坊っちゃまです」
ほうほう、ラパウルは4男1女の末っ子か。
で、まぁ爺ちゃんの反対を押しきって商人の娘の母さんと結婚し、遠くの村へ逃げたと。
婆ちゃんは反対しておらず、母さん側に立っていたと。
そして僕が産まれたのを機会に和解したというわけか。
「玄関ホールはお客様をお出迎えしたり、パーティを行うのにも利用されます。こちらの絵画はかの有名な……そしてあちらの壺は……」
美術品はわかんね。
自分の好きなものが良いもの、それでいいや。
「こちらは大広間にございます。玄関ホールよりもっと大規模なパーティーの際に利用したりします」
「こちらがダイニングルーム。御家族の皆様が食事をとられたり、晩餐会もこちらを使用します」
「皆様がたが今お話をされているのは第一応接室で、他に応接室は二つございます」
うげっ、凄すぎる。
他に料理室、洗濯室、浴場、お客が泊まる客室が複数、警備兵待機部屋などが1階にはあった。
1階は客向け施設がある感じだが、2階、3階はプライベート向けになっているそうだ。
ちなみに警備兵待機所は屋敷の外にもあり、そちらの方が規模が大きいらしい。
使用人は基本的に屋敷の隣にある別館で寝起きするが、執事長、メイド長は屋敷の2階に個室与えられており、また非常時(といっても、深夜に腹へったとか程度)のために交代で数人の使用人は2階の使用人待機室で仮眠を取っていたりするそうだ。
2階、3階は館の主人とその家族の部屋、執務室、書庫などがある。
プライベートルームや執務室はさすがに見せてもらえなかったが、書庫は爺ちゃんの許可を得て見せてもらった。
今まで本なんか身近になかったけど、やっぱちゃんとあるとこにはあるんだよな。
もう、どんだけー、としか言いようがないが、聞くところによると王都は土地が限られているため小さな屋敷でしかないが、領地の方はもっとちゃんとした大きな屋敷なんだそうな。
とはいえこの屋敷内の案内だけで結構な時間がたったので庭は次回ということにして僕らは宿へと戻っていった。
宿まで馬車でというのはさすがに断り、貴族街の門までだ。
そこから先は宿まで歩いて帰る。
朝のような騒ぎは御免被りたい。
ちなみに王都は城区、貴族街住区、貴族街商業区、一般街居住区、一般街商業区、一般街工業区と大まかに別れている。
門前や大通り沿いは商業区、そこから離れるにしたがって居住区、工業区となる。
「爺ちゃん家大きかったね」
「あぁ、それより俺たちはプックルが王都の学園に行きたいっていうからここまで来たんだよな。さっき父さん、いや爺ちゃんと話をして気付いたことがある」
「ん?」
「実は学園に通うには入学試験があるそうだ。貴族は家庭教師から入学に足る学力があると一筆書いてもらうだけで入学できるため俺は入学試験なんかは受けておらず、あることも知らなかったみたいなんだ。一般枠は将来のエリートを夢見て各地から頭のいいのが集まってきて、倍率も10倍以上はあるそうだ。それでも入学したいのか?」
「うーん、学園には魔術科、騎士科があるんだよね。いろんな魔術の勉強をしてみたいんだよね。一度入学試験の内容知りたいかな」
「それなら、ママが教えてあげられるわよー。一応魔術科を卒業してるのよ。パパとは学園で出会ったのよ~」
しらなんだ。ていうか、今までに入学試験のこととか教えてくれてもよかったのに。
いや、聞かなかった僕が悪いんだけど。
「そうなんだ、出会いは入学式の時に会場の場所が分からず迷っていたときのことだ。そこでママと出会って二人して迷って入学式に遅刻したんだ。あっはっはっ」
「……なにやってんのさ。それより試験内容っ」
「そうねぇ、文字が読めて書けるのが大事なので文章の模写があったわ。綺麗な字で早くたくさん書き写すの。これは本の複写のお仕事なんかでも役立つのよ~。ママは早くはなかったけど字が綺麗だからと時々お仕事をお願いされたわね~」
えぇっ!?
初っぱなから予想外。
でも、印刷技術がないから本なんかは書き写して増やすしかないし大事?なんだろな。
「他には計算の試験があったわね~。前半はなにも使わずに計算するのだけど、後半はアバカスをつかって少し難しい計算もあるのよ~」
アバカス?あぁ、ソロバンの昔のやつか。
どうだろ、ソロバンと珠の数とか形は違うんだろな。ソロバン作るかな。
「他には歴史があって、それと魔法理論。筆記はそれだけかな~。後は実技でそっちの方が大事って聞いたわね~。魔法科は確か的に向かって魔法を撃つのよ~」
魔法の勉強するのに予め魔法理論の勉強して、魔法を使えなきゃいけないのか。
教えてもらうのに母さんは感覚派だからどうしよっか。
塾か?この世界でも子供は塾通いか!?
「学園の後輩で卒業後にそのまま雇われて教師になったのがいたから、今度話しでも聞いてみるか?」
「えっ!?そんな知り合いいるんだ。会って話し聞いてみたい」




