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第4話 計画

 

 こういったバトルロワイヤルゲームでチームを組む場合、必ず問題となる事項。『チームの誰が優勝するか』。

 優勝できるのはただ一人、それ以外の者は皆死ぬしか無い。そんなバトルロワイヤルゲームにおいて、この問題は死活問題であり、避けては通れないものだ。


 優勝者が勝利後に『チームメンバーを生き返らせてくれ』と願う。それによって、死亡した戦友達を蘇らせる。その前提条件が成り立って初めて、チームを組むという行為が成立する。しかしそれは、非常に難しい条件でもある。


 もし優勝者が私利私欲に走り、チームメイトを生き返らせなかったら? 何か他の願いを叶えたら? 当然ながら、他のチームメイトは死んだまま生き返ることが出来ない。だからこそ、『誰を優勝させるか』は慎重に選ばなければならない。絶対に裏切らない仲間を探す必要がある。


「まさかとは思うけど『僕を信じてください!』なんてこと、言うつもりじゃないわよね? もしそうなら、仲間を組むなんてあり得ないから。さっきのナシってなるわよ」


 城ヶ崎レンは真面目な顔つきで、進にそう尋ねる。しかし口ではそう言っていたが、彼女の顔つきはそこまで悲観的と言うわけではなかった。むしろ『どうせアンタの事だから何か方法考えてるんでしょ?』とでも言いたげだった。


「安心してください、城ヶ崎さん。それについては僕も考えてます。方法を二つほど」


 進の返答に、レンは“やっぱりね”とでも言いたげに「ふーん」と呟く。驚きはない。

 一方で沙津樹はというと「わぁ、二つもあるの?」と無邪気に驚いていた。


「一つ目の方法は、『他者に行為を強制させることが出来る能力』を持った人を仲間にすると言う方法です。例えば、そうですね…魔法とかでよく『契約を結ぶ』って言うの、あるじゃないですか。契約破ったら死ぬパターンの。それの応用で、この中の誰かに『優勝したら仲間を全員生き返らせる。もし破ったら死ぬ』みたいな具合の契約を結ばせるんです。そうすれば、安心してその人を優勝させることが出来ます」

「…ありきたりな方法ね。でも、それって無理じゃない? アタシもアンタ達も、そんな魔法なんて使えないんだから」

「えぇ、なのでこれは『途中でそう言った魔法を使える仲間が加わった場合』に取る選択肢になります」

「サブプランってわけ?」

「そうです。本命はあくまで二つ目――城ヶ﨑さんの死に戻りの能力を使う方法になります」

「レンちゃんの能力を使う? それって、どういう風に?」

「まず前提として、これを実行するのは『敵を全員排除した上で、城ヶ﨑さんと、プラスアルファで僕か沙津樹さんのどちらかが生き残る』という条件をクリアした後です。そもそもそこに至れなければ、この作戦は使えません。城ヶ﨑さんが殺された場合や、僕と沙津樹さんの両方が死んだ場合なんかは…別の方法を考える必要があります」

「…その時点でかなりの難題ね」

「確かにそうです…が、実を言うと僕はあまり悲観的ではありません。なにせこちらには、城ヶ﨑さんと沙津樹さんのお二人がいらっしゃるんですから」


 死に戻りの能力と、武器を自在に生成する能力。この二つの能力の相性はすこぶる良い。


 それ単体では戦力にならないが、上手く決まれば非常に強力な能力”死に戻り”。そして、無尽蔵に戦いで必要となる武器弾薬を生み出せる”武器生成”。もはや説明するまでもないだろう。沙津樹が生成した武器を使って戦い、仮に負けたとしてもレンの死に戻りの能力でコンティニュー。それでも駄目そうなら、違う武器を生成して再度トライすれば良い。文字通り『勝つまで戦う』事が出来る。


「さらにこれに加えて、僕の能力もあります。『相手の手の内を知れる』というアドバンテージが。実際、これだけかみ合った能力が三つも揃ってるわけですから、僕達のチームが最後まで勝ち残ることは、それほど難しいとは思いません」

「『言うは易し、やるは難し』よ。さぁて、一体何度生き返ったらアタシ達は勝てるのかしらね…。まあ良いわ。それで? 仮にアンタの言う『アタシ達のチームの勝利が確定した状況』を作り出せたとして、その後はどうするの」


 レンにそう問われ、進はニコリと笑みを浮かべて返答する。


「そうですね。まずは城ヶ﨑さんに死んで貰います」

「張り倒されたいの? このウスラバカ」


 唐突な死の宣告に、レンは進のことを睨み付けた。


「なんでアタシがいきなり死ななきゃいけないのよ! その状況で死ぬなら、アンタ達のどっちかでしょ!?」

「最後まで話を聞いてください。そうすればわかってもらえます」

「ふん!…良いわ。とりあえず最後まで話は聞いたげる。でももし、納得出来る説明が出来なかったら…わかってるでしょうね?」


 レンはそう言って、右拳を顔の前で強く握りしめた。その様子を見て、沙津樹は「喧嘩はやめようよぉ…」と静かに述べる。しかし当の進は、レンの怒気などたいして気にしても居ない様子で話を続けた。


「城ヶ﨑さんに死んで貰った後、残った僕か沙津樹さんのどちらかが優勝することになります。そして、好きな願いを何でも一つだけ叶える権利を得るわけですが…そこでこう願うんです。『死んだ仲間を全員“死ななかったことにして”生き返らせてくれ』と」


 進の言わんとすることを理解し、レンは「なるほど、そう言うこと…」と一人呟く。


「『死ななかったことにして』という部分が、この作戦のキモになります。こう願えば、先に死んだ城ヶ﨑さんが『死に戻る』ことはない。なんせ『死ななかった』ことになるんですから。逆にもし城ヶ﨑さんが『死に戻る』ようなら――別の世界線に転移してしまったなら、優勝した人が裏切って、『何か別の事』を願ったという事になる」

「つまりアタシの能力で、ソイツが裏切ったかどうか判別するわけね。…でもちょっと待って。それなら判別は出来るでしょうけど、でも裏切った奴に反撃できないじゃない。それじゃ意味ないでしょ?」


 たとえ死に戻り、裏切られたことを理解できたとしても、別の世界線に居るその“裏切り者”に制裁を加えられないのであれば意味がない。なにせ、例え裏切りがバレて“別の世界線に居る自分”がレンに殺されたとしても、当の本人…裏切った張本人にしてみれば痛くも痒くもないからだ。死に戻る前の世界と、後の世界に居る人物は、ただの別人。裏切った当人に“直接”報復できて初めて抑止力は成り立つのだから、裏切りがただ“わかる”だけでは何の意味もない。


「確かに仰るとおりです…が。それについては問題ないと考えます」

「ふぅん、どうしてそう思うのかしら?」

「簡単です。“死に戻った世界線”で城ヶ﨑さんが優勝して、『別の世界線で自分を裏切った奴を殺してくれ』と頼めば良いだけですから」

「…確かに、そう願えば報復は可能ね。アンタ達は、アタシに殺されるのを恐れて裏切れなくなる」

「その通りです。逆に、城ヶ﨑さんが裏切った場合も同様です。貴方が裏切ったときは、僕か沙津樹さんのどちらかが『全ての世界線に存在する城ヶ崎レンを殺してくれ』と願います。そうすれば、僕達はお互いに裏切れない。何より“裏切るメリット”がなくなる」


 裏切る理由は結局の所、『仲間を生き返らせる以外の願いを叶えたいから』だ。しかし裏切れば、別の世界線にいる仲間に抹殺される。願いを叶えられても、殺されてしまっては本末転倒だろう。

 もちろん、別世界線の者達に殺されるのを防ぐために、機先を制して殺される前に別世界線の人間を皆殺しにすることも可能だが…そうすると今度は『本当に叶えたかった願い』が叶えられないというジレンマに陥る。すなわち、裏切るメリットがなくなる。


「僕か沙津樹さんに裏切られた場合、城ヶ﨑さんは自力で優勝する必要がありますが…これ自体は、特に難しい事じゃないでしょう。僕達のどちらかが裏切る直前の段階――僕達を優勝させるために城ヶ﨑さんが自死を選ぶ直前に死に戻って、逆に油断している僕達を殺せば良いだけですから。死に戻りの能力を使えば、不可能じゃないはずです」

「…えぇ、確かにそうね。アンタの言うとおり」

「それじゃあ、僕の作戦に賛同してくれたってことで良いですか?」


 レンは少しの間考えを巡らした後、どうやら納得したらしく「…いいわ。その作戦に乗ってあげる」と手を差し出した。そして、進とレンは握手を交わす。


「沙津樹さんはどうです? 僕の言ったこと、理解できてますか?」


 進は、今度は沙津樹の方を見てそう尋ねた。この作戦に沙津樹の協力は、必ずしも必要ではない。しかし『武器を生成する』という能力を持つ彼女が仲間となってくれれば、この後の戦いはスムーズに進む。何より、レンが『死に戻る』羽目になる回数も大幅に減らせるはずだ。出来るならば、チームに加わって欲しいというのが本音だった。


「うーん…全然わかんなかった、進くんの説明。ごめんね。でも、なんだかすごい作戦だってのはわかったよ。それに、レンちゃんも納得してるみたいだし…いいよ。私も進くんのこと信じる! だから進くんも、私の事信じてね?」


 無邪気に笑う沙津樹。協力を得られた安心感とは裏腹に――僅かながらに怪しさの漂う沙津樹の言動。それに若干の不安も覚える。直感の話になってしまうのだが…どうも彼女が裏切りを考えているように感ぜられてならない。

 しかしここで証拠もなく疑っていても埒があかないので、進は「えぇ、よろしくお願いしますね」と返答した。とりあえず今は様子を見ることにしたのだ。何より、こちらには城ヶ崎レンがいる。死に戻りの能力者が。仮に壇際沙津樹が裏切ったとしても、それは城ヶ崎レンの能力を通じて知ることが出来るだろう。そこまで恐れる必要はない。


 こうして――一抹の不安要素こそあるものの――苦野崎進はどうにか、共に戦う仲間を二人手に入れた。生きて元の世界に帰還することが絶望的であった最初の段階に比べれば、これは大きな前進と言えるだろう。

 しかし今ここに居るのは、その全員が主人公達。その誰もが文字通り“主役級”の人物達だ。共に戦う仲間を得たところで、安心は出来ない。

 果たして生き残るのは、どの主人公か。その結末は、創造主ですら予想できないのだ。

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