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吉川英治 宮本武蔵第四巻 考察

 この作品は全八巻です。第四巻までで前半が終わったことになります。


 第三巻で京の名士、本阿弥光悦と面識を持ち、彼とその母に好感も抱かれた武蔵でしたが、この巻で再び光悦と深くつながりを持つことになります。武蔵は光悦に連れられ京の遊郭に生まれて初めて行きますが、そこで、彼が人間的な成長と深みをさらに得ることになる重要な出会いを経験します。美貌と品格、教養を併せ持ち京で名声が轟いている吉野太夫との出会いです。


 吉野太夫は吉岡一門に遊郭まで狙われている武蔵の身を案じ、彼を匿います。遊郭の離れで武蔵は吉野太夫と一晩いるのですが、そこに男女の営みはありません。武蔵が頑なに土間のような所へ座って太夫に後ろを向いていたからです。客で来ているとはいえ、武蔵に不可思議な好意を抱いた吉野太夫は、その様子に多少の苛立ちもあったのでしょう。姉のように諭す場面が作中にありますが、それが武蔵にとってこの巻で最も重要な成長部分と私は考えています。


 琵琶を取り出し、吉野太夫は美しく素晴らしい音色で曲を弾きます。それでも武蔵は何物も受け付けない態度で座っていますが、彼女は「そのように張り詰めた琵琶の弦のようで、一体何を成し遂げられましょう」と、多少、武蔵をなじるように諭し始め、なんと名器の琵琶を小刀で割ってしまいます。そして、琵琶がなぜこのような美しい音色を出せるか、弦が張っているだけではなく、琵琶の本体の曲線に緩やかな受けとめがあるからだと武蔵に教えます。


 現代社会においてもよくある実践的な考え方を吉野太夫は持っているように読めます。我々も張りつめすぎた構えの中では、自身のパフォーマンスが発揮できないことは度々あり、それぞれ重々分かっているつもりではあると思います。ですが、吉野太夫のような悟りを持つまで到達することは稀でしょう。緩急の自在さ、これを会得するのは難しいことです。それか、私が難しく捉えすぎているのかもしれません。


 この巻の後半は、幼馴染のお通との再会。清十郎、伝七郎を討たれた吉岡一門と武蔵の夜叉のような戦いが書かれています。お通に対する優しさも、夜叉のような戦いぶりも、どちらも武蔵らしい本質といえるでしょう。


 作者である吉川英治の気迫が感じられる巻です。

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