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吉川英治 宮本武蔵第一巻 考察

 吉川英治の代表作で国民文学としても認知されている作品です。今では古典文学の領域になるかもしれません。


 第一巻では、宮本武蔵の青少年期が主に書かれています。吉川固有の読みやすい確かな文体で書かれ、若い武蔵が躍動感あふれると共に様々な苦悩苦難と向き合い克服していく様子が文中に表現されています。


 武蔵との対比で書かれている者で印象的なのが、幼馴染の本位田又八です。武蔵が素晴らしいスピードで人間的に成長していく中で、彼は若い時点で成長が止まっています。それどころか、歳を取るにつれ、どうしようもない人間に落ちぶれていくように書かれています。そして、小さい頃からの友人であった武蔵の噂を聞く度に、大きく水を開けられたことによる嫉妬心と自身へのやりきれなさから、彼は武蔵に会うこともなく、どんどんひねくれていきます。


 私は、対照的な二人の対比を吉川が書くことによって、読者に武蔵にも又八にも自分自身を重ね合わせて読ませようとする、そういった効果を意図して書いたのではないかと考えています。私達の多くは武蔵のような強い面もそれぞれの領分による自信がある部分で持っていますが、それ以外の面では、どうしようもない弱さを持つ又八と重なる部分が多いでしょう。技術的、技能的、体力的な面よりは、精神的、思想的な面で、私はそう感じました。


 そして、武蔵にも又八にも共通するのは、もがきながら進んでいこうする部分と考えています。第一巻の作中で、武蔵は濡れ衣からとはいえ人殺しの大罪から故郷を逃れ、数年間、池田公の城の暗い座敷牢にも似た部屋で学問の修養をひたすら続けます。この部分の描写は少ないですが、武蔵がこの巻で一番もがいた所ではないかと思います。今まで自分がしてきたことを嫌になるほど反芻しながら、学問と精神の修養を続けたはずです。対して又八は武蔵と関ヶ原で別れた後、女にほとんど自ら籠絡され、若い身から楽を覚えてしまいます。最初の内はよかったでしょうが、後から取り返しのつかないことをしたのに徐々に気づきもがきます。もがく方向と質が対照的に異なるながら、どちらにも共感できるのは、私にも強さと弱さ両面がはっきり分かれてあるからだと感じました。


 宮本武蔵第一巻を読まれた方、これから読まれる方も、私に近い感覚をもしかしたら持たれるかもしれません。

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