アリア 1-5 たずねたのは・・・
「さて、予定より時間がかかったが、次は君の生活の面倒を見てくれるであろう人の家に行く。」
アリアとディーは冒険者ギルドから出て、大通りを歩いていた。
「その人はどのような方なのですか。」
「俺の後輩で元白影騎士団の騎士で名前はハイド。今は結婚して奥さんと小さい娘さんと暮らしている。転移してきた者に対する理解もあって、君が女性であることを伝えても配慮してくれると思う。」
「そうですか。そういえばディーさんはどこに住んでいるんですか。」
「エリアスの街では衛兵の宿舎で部屋を借りさせてもらっている。王都に家はあるがな。まあそういうわけで兵士や騎士でない君のために兵舎の部屋を借りることはできないから、知人に君の面倒を見てもらうつもりだ。」
なるほど、とアリアはうなずき、もう一つ気になったことをディーに尋ねることにする。
「ハイドさんたちに迷惑がかからないでしょうか? 私はどこかの宿に泊まるという選択肢もあると思うのですが。」
「君が一人でどこかの宿に泊まるというのは却下だ。」
「どうして?」
「君はお嬢様だから身の回りのことが自分でできないだろう。」
「それくらいできますっ。」
笑いながら言うディーに対し、アリアは憤慨する。
「まあその真偽は置いといて、君はこちらの世界の常識を知らないだろう。そのあたりをハイドたちに教えてもらうといい。」
「うぅ。分かりました。」
そんな話をしていると、ディーがおもむろに立ち止まった。
「さて、ここが目的地だ。」
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その家は2階建ての一般的な家であるが、表札にはかわいらしい動物があしらわれており、どこか温かみが感じられた。
ディーがドアを叩き、声をかける。
「ハイド。俺だ。ディーだ。」
「はーい」
すると、少し間延びしたような女性の声が返ってきた。
そしてすぐに扉が開くと、茶髪の柔らかい雰囲気の女性が現れた。
「やあ、イリヤ。こんな時間にすまない。君とハイドにお願いがあるんだが、ハイドはいるかな。」
出てきた女性の名前は『イリヤ』。
ハイドの奥さんであった。
「ディーさん、久しぶりね。夫は今、娘とお風呂に入っているわ。」
「そうか。実はこの子のことで頼みがあってきたんだが、ハイドが出てくるまで待たせてもらってもいいかな。」
ディーはそう言って、アリアの背中を押して前に立たせる。
「初めまして、アルスと言います。」
アリアが少し緊張気味に自己紹介をした。
すると、イリヤは満面の笑顔になる。
「あらあら、とってもかわいらしい子ね。あなた、女の子でしょ?」
その言葉にアリアは驚く。
「わ、私がかわいい? それに女の子ってどうして分かったんですか?」
「ふふ。こんなにかわいい子が男の子のわけないじゃない。それに肌や髪がすごくきれいだし。」
イリヤは当たり前のことのようにそう断言する。
一方、容姿を褒められたアリアは頬を染めてうつむくのであった。
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アリアとディーは家に上げてもらい、お茶をごちそうになっていたところ、トタトタトタと足音が聞こえてくる。
「ママ、おふろでたよ。・・・あれ? ディーがいる。それにおにいちゃんはだあれ?」
お風呂から上がったばかりらしい、5歳くらいの少女『ジーナ』が、イリヤ、ディー、アリアを見て声をあげた。
「ジーナ。お兄ちゃんじゃなくてアリアお姉ちゃんよ。」
「ありあ?おねえちゃん?」
「そうだよ。私はアリア。よろしくね、ジーナちゃん。」
アリアはそう言いながら、縛っていた銀髪をほどいてみせる。
「ああっ!おにいちゃんがおねえちゃんになった!」
その言葉にアリアはくすっと笑う。
そんな話をしていると、また廊下から足音が聞こえてくる。
「ふう、いい湯だったー。ってあれ、ディーさんがいる! なんで?!」
同じくお風呂から上がってきたばかりの上半身裸の男『ハイド』は驚きの声を上げるのであった。