アリア 1-4 冒険者に・・・
「ここが冒険者ギルドだ。」
アリアとディーは今、冒険者ギルドの前に立っていた。冒険者ギルドはエリアスの街のちょうど中央あたりに建っており、街に入るどの門からもアクセスしやすいように、ということらしい。
アリアとディーは冒険者ギルドに入る。
冒険者ギルド内部は1階に受付や掲示板、魔物の素材の買取所などがあった。
2階に目を向けるとそこは酒場になっているらしく、外よりもすごい喧噪に包まれていた。
アリアはギルドの内部を見渡しながらも、受付のほうに向かっていくディーの後ろを追いかけた。
「これはディー様、本日はどのようなご用件でしょうか。」
「いつも通り向こうの世界から送られてきた者を連れてきた。この子、アルスにギルドカードを作ってほしい。」
「分かりました。」
受付嬢は慣れているのか、ディーと短いやり取りをしたのち、何かの準備をし始めた。
アリアがそんなやりとりを見守っていると、後ろから声を掛けられる。
「おい坊主。お前冒険者になるんだってな。だったら先輩である俺様が直々にレクチャーしてやるよ。その代わりしばらくお前の儲けは俺のものだがな。」
後ろを振り返ると、酒に酔っているのか赤ら顔の男が下卑た笑みを浮かべて立っていた。
「いえ、結構です。」
アリアがそっけなく返事をすると、男の表情が笑みから一転不快そうなものになる。
「あぁ?てめえに拒否権なんてねえんだよ。」
そう言って男がアリアの胸ぐらをつかもうとする。
しかしその手をディーが横からつかんだ。
「何やら不穏な話が聞こえたが、一体どういうことかな。」
「優しい先輩が後輩を指導してやろうってんだ。騎士が冒険者の流儀に口を出すんじゃねぇよっ。」
そう言って男はディーにつかまれた腕でそのまま殴り掛かろうとする。
しかしディーはつかんだ男の腕を離さず、そのまま軽々と投げてしまう。
「ぐあっ。くそが、ふざけやがって。」
男は周囲を見渡すとテーブルにあったナイフをもって、アリアのほうに向かってきた。
「このガキを人質にとれば、てめえも動けねえだろ。」
そのときディーが濃厚な魔力を放った。
その威圧感は、先ほどまで騒がしかったギルド内が一瞬にして静まり返り、隣にいるアリアは足の震えが止まらなくなるほどであった。
アリアに向かってきていた男は、そんな魔力を直接受けたのか、赤かった顔を真っ青にして気絶していた。
ディーはすぐに魔力を抑えると周囲に向かって言い放つ。
「今後も今のようなことがあった場合、今回のような甘い対応では済まさない。投獄あるいはこの街からの永久追放もあると思え。」
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「アルス様、ディー様、先ほどは申し訳ございませんでした。」
気絶した男がギルドの職員たちに運ばれていったあと、受付嬢から謝罪をされた。
「いえ。ですが今後このようなことがないように、今日この場にいなかった人たちにも徹底してください。これは我々白影騎士団からの正式な命令とさせていただきます。」
白影騎士団、それは送還の光の眩さからつけられた名前で、エリアスの街が所属する国、グランデル新王国の保有する騎士団の一つである。
主な任務は向こうの世界から送られてきた者の監視や調査、近くの街への案内や、場合によっては処分などがある。
白影騎士団の騎士たちは一人で多くの魔物や悪人を倒せるほどの一騎当千の強者であるだけでなく、監視をこなせる隠密能力も併せ持っている。
その権限は各地の領主よりも上位とされ、その分正しくあるための高潔さも求められている。
アリアはディーから聞いたそんな話を思い出しながら、受付嬢の話に耳を傾ける。
「了解いたしました。ギルド長にもそのように報告させていただきます。それではアルス様。まず冒険者について説明させていただきます。冒険者には等級がございまして、下がFランクから始まり、一番上がSランクとなっております。Cランクまでは以来の達成数や成功率によって上がっていきますが、それより上のランクに昇級するにはギルドが行う試験や面接、あるいは特殊な依頼を達成する必要があります。これについてはアルス様がCランクになられた際に説明させていただきます。ここまではよろしいでしょうか。」
アリアは受付嬢の言葉にうなずく。
「では次に依頼についてですが、依頼にもランクがあり、各ランクで受けられる依頼は現在のランクと同じ、あるいはそれより下のものに限らせていただいております。これは冒険者の方たちの命を守るための処置となっております。同様の理由で2人以上でパーティを組んでいる場合は、一番ランクの低い人が基準になります。なのでみなさんは近いランクの人同士でパーティを組みます。しかし、4人以上のパーティを組んでいる場合は例外でして、パーティ内の一番低いランクより一つ上のランクの仕事を受けることができます。これは、4人以上で報酬を山分けするとほとんど手元に残らないことなどを考慮した結果となっております。」
受付嬢は私の顔を見て、説明を理解していることを悟ると、
「それではとりあえず説明は以上にして、ギルドカードの登録に移ります。こちらのカードにお名前を記載いただいたのち、魔力を流してください。」
アリアが言われたとおりにすると、ギルドカードは淡い光を放ち、アルスという名前の隣にFランクと書かれたカードができる。
アリアは自分だけのカードを眺めて喜んでいるのを見て、受付嬢が微笑む、
「最後に確認ですが、アルス様は冒険者養成訓練を受けられますか。」
「はい、受けさせてやってください。」
と、なぜかディーが答えた。
(あなたは私の父親かなにかですか?)
アリアはジト目でディーをにらむのであった。