ボルス 1-1 ファルマール王国では・・・
今回は、アリアを異世界に追放したボルス殿下の話です。
「この愚か者がっ」
学園の卒業パーティ同日の夜、ボルス王太子は国王『フリーデン・テ・ラ・ファルマール』に謁見の間に呼び出されていた。
「父上、これには理由が」
「黙れ。おぬしが卒業パーティでしたことなど全て耳に入っておるわ。貴様がキャスとかいう男爵家の娘にそそのかされて、何の証拠もなくアリア嬢に送還の石を使用したことはな。」
「キャスは嘘など、ひぃっ。」
フリーデンはボルスをにらみつけ黙らせる。
「現在ファルムス公爵家を含む多くの貴族から抗議が来ておる。加えて他国のスパイが我が国の民を先導し、内乱を起こそうとしておる。王族が自分たちに都合の悪い人間を送還の石を用いて処分しているとな。すでにアリア嬢のことは国民の多くが知るところになっておる。」
疲れ切った顔のフリーデンは一度言葉を切り、また続ける。
「そこで貴様の王位継承権を剥奪し、異世界への流刑に処す。アリア嬢を見つけこの世界に連れ戻さぬ限りは、こちらの世界に戻れぬと思え。」
「そんなっ。そうだ、キャスはどうなるんですか。キャスも一緒に」
「あの娘は修道院送りだ。一生出てくることはないだろう。」
フリーデンはそう言って送還の石を1つ王子の足元に投げつけた。
送還の石は作り出される際、特定の条件を与えることができる。
今回の場合、『アリアにのみ発動でき、対象はアリアとボルスの両名を転移させる』というものであった。
フリーデンはこのとき、アリアとボルスがこの世界に戻ってはこれないだろうと確信していた。
ボルスは責任をとるために、自らアリア嬢を連れ戻しに行ったことにして、貴族たちや国民の怒りを鎮めようと考えていた。
万が一アリアを連れ戻せれば良し、そうでなくてもこの愚か者を処分し、皆の怒りを鎮めることができると。
この行動が逆にスパイの流した噂に真実味を持たせ、貴族や国民の不信感をあおることをフリーデンは気付いていなかった。
その場でわめいているボルスをにらみつけ、フリーデンは新たな石をボルスに対して使った。
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ボルスは送還の石が放った眩い光に目がくらみ、何も見えなかった。
肌寒い空気と時折吹く風の音、土や草の臭いだけが強く感じられた。
光にやられていた目は時間の経過とともに徐々に回復し始める。
だが、一向にボルスの目には黒以外の何も映らなかった。
なぜならそこは光源の全くない夜の草原だったからである。
ボルスは何も見えない状況に絶望し、その場にうずくまって泣き叫ぶのであった。
次回もボルス君の話です。
(もう殿下ではない)