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アリア 2-12


「魔の一族の里が壊滅しただと!?もしやグランデル王国の騎士が攻めてきたのか?」


ドウマが慌てた様子でアドラに詰め寄る。


「わ、分かりません。ですが、この里まで逃げ延びてきた魔の一族の者たちによると、どうやらたった1人の男に襲撃されたようなのです。」


「たった1人の男に魔の一族の里がやられたというのか?」

「詳しい話はまだ聞けていないのですが。」

「その者たちは今どこに?」

「里の入り口近くに住む者の家で治療を受けています。」

「そうか。その者たちに話を聞きに行く。」


バトロは外套(がいとう)を手に取ると玄関に向かう。


「ドウマ様。私も付いていきます。」

「分かった。急ぐぞ。」


ドウマの許可をもらったバトロがドウマの後ろに続く。


「チーナ。子供たちと一緒に家に帰っていてくれ。」

「分かりました。あなた、お気をつけて。」


「待ってなの。私たちも付いていくなの。」

「そうだぜ。」


ネイアとメルトが付いていこうとする。

だが、それをバトロは怒った様子で止める。


「これは遊びじゃないんだ。お前たちは家に戻ってなさい。」


「で、でもなの。」


バトロに叱られたネイアたちは、それでも付いていきたそうにする。

それを見たアリアは、


「僕からもお願いします。僕たちを連れて行ってください。僕は少しですが治癒魔法が使えるので、お役に立てると思います。それにメルト君やネイアちゃんも力仕事とか役に立てることがあると思うんです。」


「ぐっ。・・・分かった。好きにしなさい。」


バトロは言い争う時間が惜しいと判断し、諦めたように同行を認めるのであった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・



アリア達は里の入り口まで走った。


オルティアの民の足は速く、アリアは身体強化をしているにも関わらず付いていくのがやっとだった。


「ここです。」


アドラが民家の前で立ち止まった。

ドウマはその家の扉の前に立つと、


「私だ、入るぞ。」


そう告げて、返事を待たずに入っていく。


アリア達もその後ろに続いた。



「ドウマ様?!」


家に入ると、ドウマの姿を見たオルティアの民が驚き動きを止めてしまう。


「私に構わず治療を続けるのだ!」


ドウマがそれを一喝する。


家の中では治療をする人たちが(せわ)しなく動き回っていた。

寝かされている者たちは30人ほどおり、大人だけでなく子供までいた。

そのほとんどが全身血まみれで、なかには体の一部が無い者も見受けられる。


「ひどい。」


アリアの口からは自然とそんな言葉がこぼれた。


「アルス君。治癒魔法を。」

「は、はい。」


バトロに言われて、アリアはハッと我に返る。


(そうでした。急いで治療が必要な人は?)


アリアは家の中を見渡す。

そして特に傷が深く急を要する人のところに向かい腰を下ろした。


目の前の男性は片腕が無くなっており、全身に多数の切り傷が見られる。

意識も無いようで、ただ(うめ)き声を上げるだけであった。


アリアは目を背けそうになるのを(こら)えながら魔力を練り上げる。


『命を育む天の光よ この者を照らし傷を癒せ ヒールライト』


治癒魔法を使い慣れていないアリアは、昔ファルマール王立学園で教わった詠唱を思い出しながら、ゆっくりと丁寧に術句を唱えた。


アリアの手から淡い光が放たれる。



先のない腕の断端(だんたん)の肉が盛り上がり、切断面が埋まっていく。


「ぐ、があぁぁ、あーっ!」


治癒魔法によって感覚が活性化したことで、意識がない男性の(うめ)き声が悲鳴に変わる。


アリアはその悲惨な様子に目から涙をこぼしながら治癒魔法をかけ続けた。






5分ほど治癒魔法をかけ続けたおかげか、男性の全身の傷は塞がっていた。

先ほどまで上げていた(うめ)き声はおさまり、寝息を立てていた。


その様子を見たアリアは次の患者のもとに向かおうと立ち上がろうとする。

しかし、よろめいて床に手を突いてしまう。


「あ、あれ?」


再び立ち上がろうとするが、足が震えてうまく立ち上がることができない。

アリアは自分の足を叩くが、震えがおさまらなかった。


「なんで?!」


「アルス君、どうしたなの!?」


他の人の治療の手伝いをしていたネイアが、アリアの様子がおかしいことに気付き駆け寄る。


「ネイアちゃん。どうしてか分からないけど立てないんだ。」

「アルス君、顔が真っ青なの。」

「えっ?」


ネイアに指摘され、アリアは顔を触る。


「少し休憩した方がいいなの。」

「ううん。魔力はまだあるから大丈夫。」

「でもアルス君が倒れてしまうなの。」


アリアは精神的に疲れ果てていた。


アリアが冒険者になってから、敵となった者たちの(むご)い死に様を見ることは何度かあった。

だが、今回のように一般の人々が目の前で叫び声を上げて苦しむ様子を見るのは初めてである。

たった一人の治療ですら疲労困憊(こんぱい)になっている現実が、アリアが立ち上がることを(はば)む。


「アルス君はよく頑張ったなの。あとは私たちが頑張るから、なの。」


ネイアは微笑み、アリアを休ませようとする。

その言葉にアリアの体はますます動かなくなってしまう。






しかし、アリアが立ち止まることを『時の流れ』は許さなかった。


「ぐうぅぅっ。あぁぁっ。」

「この方の容体が悪化しました。どなたか手伝ってください。」


そんな声が1か所ではなく複数の場所で上がり始める。

手伝いを求める声が上がっているが、人手が足りないことはあきらかであった。




「ごめん、ネイアちゃん。今助けられる人を助けなかったら、絶対に後悔すると思うから。」


アリアがネイアの瞳を見つめる。


「・・・分かったなの。私の肩に掴まってなの。」


ネイアはアリアの腕を肩に回すとアリアを立ち上がらせる。


「ありがとう、ネイアちゃん。」

「いいなの。」


アリアはネイアと共に治療が必要な患者のもとに向かうのであった。


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