アリア 2-10 12歳の乙女
新年あけましておめでとうございます。
(アリア視点)
「そうかぁ。そういう『作戦』だったんだね。」
私の目の前でバトロさんが、先ほどの笑みとは違う心底安心した笑顔で笑っています。
オルティアの族長であるドウマさんのお宅からバトロさん宅に戻る途中、バトロさんに捕まった私は、お家の居間で事情聴取を受けていました。
現在この部屋には私とバトロさんだけでなく、チーナさんとメルト君もいます。
肝心のネイアちゃんはチーナさんの計らいでお風呂に入っていてここにはいません。
私は独りで3人の追求を受けていました。
「それならいいんだ。いやぁ、アルス君。すまなかったね。」
「あ、あはは。誤解が解けたならよかったです。」
頭を下げるバトロさんに私はつい顔を引きつらせてしまいます。
帰る途中私はバトロさんに肩を力強く組まれていました。
とても痛かったです。
絶対に痕がついてます。
ぐすん。
「良かったー。ネイアとアルスが付き合ってたら、同じパーティの俺が気まずいからな。」
「ネイアに彼氏はまだ早いからね。メルトがネイアの周りを見張っておくんだぞ。」
安堵のため息をつくメルト君に、バトロさんが力強く過保護な発言をしています。
「あらあら。私はアルス君ならネイアの彼氏になってくれてもいいと思うわよ。」
「何を言ってるんだ!ネイアはまだ12歳なんだぞ。」
「あら。私も12歳の頃には好きな人ぐらいいたわよ。」
「な!?それはどこの誰だ?」
「ふふふ。女性の過去を詮索する男は嫌がられるわよ。」
チーナさんはそう言い残すと、晩御飯の準備をするためなのか台所に向かってしまいます。
「うぐっ。だ、だが・・・。もしかしてあいつ?あいつなのか?」
窘められたバトロさんは、チーナさんを追いかけて行ってしまいました。
そんなおふたりの様子を、メルト君が何とも言えない表情で見ているのが少し面白いです。
「お風呂上がったなの。」
どうやらネイアちゃんがお風呂から上がったようです。
ネイアちゃんは頭をタオルで巻き、エリアスで買ったパジャマを着て現れました。
「えーと、何かあったなの?」
チーナさんに縋り付くバトロさんを見て、ネイアちゃんが尋ねます。
「いいえー、何もなかったわよ。それじゃあ、次はアルス君にお風呂に入ってもらおうかしら?」
「先に入っていいんですか?」
「アルス君も長旅で疲れてるでしょ?ドウマ様の家では色々あったし。」
「・・・では、お言葉に甘えまして。」
バトロさんやメルト君からも特に反論がなさそうなので、先に入らせてもらうことにします。
私自身、今日は色々と汗をかいたので早くお風呂に入れるのはとても嬉しいです。
私は荷物から着替えを取り出し、素早く別の袋に入れます。
この袋は外でお風呂に入るとき、体に巻く晒を隠すために使っています。
必要な物を袋に入れたので、浴室に向かいましょう。
脱衣所に到着した私は、先輩冒険者のシルルさんに以前教わった索敵魔法を使います。
私はこの魔法を教わってから、外出先でお風呂に入るときなどはこの魔法を使うようになりました。
索敵魔法のおかげで、入浴中や体を拭いているときに他の人が近づいてきても察知できるので、安心して服を脱げるようになったのです。
服を脱ぎ、体に巻いていた晒を外すとすぐに袋の奥に仕舞います。
裸になった私は、長めのタオルを手に持つと浴室に入ります。
浴室に入ると、少し広めの立派な木製の浴槽が目に入ります。
足を踏み入れると浴室の床石は少し冷たく、急いで湯舟のお湯をすくい体にかけます。
お湯をかけて落ち着いた私は、改めて浴室を見回すとお湯を作る魔道具を見つけます。
魔道具は『刻印魔法』が刻まれた道具で、刻印に魔力を通すことで刻まれている魔法が発動します。
刻まれた刻印に合った魔法が、少ない魔力で誰にでも使えるという便利な道具なのですが、オルティアの方は魔力が特に少ないと聞いていたので、魔道具があるかが分かりませんでした。
私はお湯を作る魔道具に魔力を流しながら、頭と体を洗っていきます。
体を洗い終わった私は、浴槽のお湯に足の指先からゆっくりと入ります。
「ふはぁー」
湯舟に肩まで使った瞬間、長かった今日一日の疲れが溶け出していく気がしました。
徐々に私の意識までもがお湯に溶けていき、お風呂で眠りそうになっていると、ほとんど無意識下で使っていた索敵魔法が脱衣所の前で立ち止まる反応を感知しました。
すぐに意識が覚醒した私は、浴室の扉の向こうを警戒します。
すると嫌な予感のとおり、その反応は脱衣所の中、浴室の扉の前で止まりました。
だ、誰でしょう?
浴室の扉は木で出来ているので、その人物を窺い知ることはできません。
私が戦々恐々としていると、
「アルス君、今いいかな?なの。」
扉越しにかけられた声の主はネイアちゃんでした。
扉の向こうの人物が男性じゃなくて少し安心していると、
「アルス君?大丈夫なの?」
「う、うん。大丈夫だよ。ど、どーしたの?」
心配そうに声を掛けるネイアちゃんに返事をしますが、私の声は緊張で震えてしまいます。
「えーとね、アルス君にお礼、言ってなかったことを思い出して、なの。」
「えっ、お礼?でも僕はあまり役に立てなかったと思うけど。」
「ううん、そんなこと無いなの。私のためにオルティアまで来てくれて、とても嬉しかったし、心強かったなの。それにエビラのやつがアルス君に一目惚れしなかったら、婚約がなくならなかったかもしれないなの。」
「あはは・・・。エビラさん、すごい人だったね。」
「大丈夫なの。もしまたエビラがちょっかいかけてきても、私が守ってあげるなの。だから・・・、これからもずーっと一緒にいるなの。」
「ふふふ。こちらこそよろしくね、ネイアちゃん。」
「・・・アルス君、だいすきなの。」
「えっ?扉越しだからよく聞こえなかったよ。」
ネイアちゃんの声がいきなり小さくなったので、うまく聞き取れませんでした。
「ありがとうって言ったなの。それじゃあ先に戻ってるなの。チーナお母さんがもうすぐご飯できるって言ってたから、早く出てきてなの。」
「うん。分かったー。」
ネイアちゃんが脱衣所を出ていったのを確認した後、私は髪と体を拭いて浴室から出ます。
脱衣所ですぐに晒を胸のあたりに巻くと、服を着て髪を縛り、いつも通りの恰好でみんなが待つ居間に向かいました。
すでに食事の準備は終わっており、メルト君が視線で私を急かしてきます。
私が急いで席に着くと、メルト君は手早く食事の挨拶を済ませ、勢いよく食べ始めました。
バトロさんとチーナさんがその様子を見て何かを言おうとしましたが、諦めた様子で食事を始めます。
その後は、メルト君とネイアちゃんがどんな経験をしてきたのかを話しながら楽しく食事をしたのでした。
食事中、ネイアちゃんがあまり目を合わせてくれない気がしました。
どうしてでしょう???
次話はボルス君の出番です。
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