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アリア 2-7 ドウマが見てきたもの


「キーッ。もういいネ。帰るネ。」

「ま、待ってくれ、エビラ殿。それでは我らの結んだ契約はどうなるのだ?」


鼻血と怒りで顔を真っ赤にして出ていこうとするエビラを、ドウマは立ち上がり呼び止めようとする。


「そんな暴力的なチビはいらないネ。契約は白紙、父上にはそう伝えておくのネ。」

「それでは話が違う。これまでの過去のいざこざを水に流し、共存共栄を目指すと誓い合ったではないか。」

「キヒヒヒ。共存共栄?オマエの目的がそんなものではないのは分かってるんだよネ。」

「な、何を言って!?」

「父上から聞いてるネ。オマエはただ怖いんだってネ。黒い騎士とかいうのやグランデル王国がネ。」

「くっ。」


図星を突かれたのか、ドウマは押し黙ってしまう。


「ドウマ様。どうしてそこまで()の王国を、黒い騎士を恐れるのですか?」


その場にいた全員が持っていた疑問をバトロが代表して尋ねた。



「・・・ここ数年何度も夢に見るのだ。グランデル王国の騎士たちが、黒い騎士がこのオルティアに攻めてくる夢を。オルティアの民たちが私の目の前で蹂躙されていく姿を。」

「それは所詮(しょせん)、夢の話ではありませんか?」

「お前たちは知らないのだ。グランデル王国の真の恐ろしさを。敵対する者に対する苛烈さを。」


ドウマは目を閉じると、ポツリポツリと、しかし止めどなく語り始めた。




“40年ほど前、私が15の頃だ。

風習に(なら)いこの大陸の至るところを巡り、多くの魔物や力自慢を倒してきた。

当時の私には何も怖いものがなかった。

このときの私はすでに前族長よりも強くなっていた。


初めはただの興味本位だった。

オルティアの所属する国の騎士団がどれだけ強いのか、自分の力はどの程度のものなのかを知りたくて敵対する国、ハイランド共和国の傭兵として戦争に参加することにした。

もちろん私は敵国の人間なので、最前線にほど近いところに配属させられたが、それは好都合だと思っていた。


戦争が始まってからの数日はハイランド共和国がわずかに優勢であった。

ハイランド共和国の方が戦力の数が多く、グランデル王国側は普通の兵士や下位の騎士団だったからであろう。

私も多くのグランデル王国の兵士を倒し、私を雇っていた共和国も勢いに乗り始めていた。


しかし、戦場に真紅の鎧を着た騎士団が現れてから一気に戦況は変わった。

馬に跨った赤い鎧の騎士たちは、横一列に並んだ陣形でこちらに突進してきたのだ。

それに対し共和国軍は矢や魔法で迎撃を行った。

しかし奴らの前には見えない障壁でもあったのか、共和国の攻撃が当たることはなく弾かれてしまった。

結局、赤い騎士には全くの被害がなく、共和国軍の戦線に到達されてしまった。

最前線の兵たちは騎士に槍で突かれ、剣で首を刎ねられていく。


そして、すぐに私のいるところまで赤い騎士の一人がやってきた。

私はその騎士を馬から落とそうと石を投げつけたり、馬に殴り掛かったりもした。

だがやはりというべきか、こちらの攻撃は見えないナニカに阻まれてしまう。

それでも攻撃をやめない私を見て何を思ったのか、その騎士は馬から降りて武器を仕舞い、素手で勝負を挑んできたのだ。

私はすぐに騎士に攻撃を仕掛けた。

すると驚くことに私の攻撃が騎士の鎧に届いたのだ。

驚いている私に騎士も殴り掛かってくる。

それからは殴り合いが始まった。


私と騎士が殴り合いをしている周りでは、他の赤い騎士たちによる共和国軍への蹂躙は続いていた。

私と戦っている騎士は戦争中だというのに、一人私と殴り合っているのが不思議だった。

その騎士は男で、よく見ると22歳くらいだったと思う。

男は私との殴り合いを心底楽しそうにしており、徐々に私も楽しくなっていった。


・・・その時が来るまでは。


突如戦場に甲高(かんだか)い笛の音が響き渡った。

それはグランデル王国側の何かの合図であったと思う。

すると私が戦っていた騎士の動きが突然さらに加速して私の鳩尾を殴った。

私はたった一撃で崩れ落ちてしまった。

男はそんな私を肩に担ぐと小声でこう言ったのだ。

「この戦争が終結するまで決して動くな」と。

男は近くに転がる死体の傍らに私を置くと、すぐに本陣に戻っていった。

いや、すべてのグランデル王国軍が撤退していった。


私には訳が分からなかった。

あの男の動きが何故いきなり速くなり、私にあんなことを言い残し、死体の近くに私を運んだのか。

鳩尾を殴られ身動きが取れないものの、頭はクリアだったから疑問ばかりが湧いてきた。


その答えはすぐに分かることになる。

私は男に命を救われたのだと。


グランデル王国の本陣からたった一人、黒い鎧の騎士が歩いて向かって来たのだ。

ほとんど敗走状態だったハイランド共和国軍は、敵がたった一人なのを見て多くが戻ってきた。

そして黒い騎士を共和国軍は大勢で囲んだ。

共和国軍は槍の穂先を黒い騎士に向け、罵詈雑言を飛ばし始める。

仲間を大勢殺された恨みをその騎士にぶつけていたのだろう。


しかし、しばらくして突然その声は止んだ。

何が起こったのか気になった私は目を凝らした。

すると黒い騎士の近くにいた多くの共和国軍の兵士たちの身体が斜めにずれ落ちていった。

その場にはまさしく血の雨が降り注いだ。

血の雨の中、黒い騎士は静かにたたずんでいた。

その手にはいつの間にか黒く長大な剣が握られていた。


目の前で多くの仲間が上半身を断たれたのを目撃した兵士たちは、やみくもに黒い騎士に攻撃する者と叫び声をあげて逃げ出す者に分かれたのだ。

黒い騎士は兵士たちの攻撃など意にも介さず静かに剣を振り上げると、見えない速度で剣を振り回し始めた。

一振りするごとに複数の兵士が倒れていった。

その姿はまるで死神のようであった。


そして逃亡を選んだ兵士たちもいきなり頭部だけが宙を飛び始める現象が起こった。

まるで見えない誰かに首を刎ねられたかのように。

戦場は共和国軍の阿鼻叫喚に包まれた。

私は必死に死体のフリをし続けた。

恐怖と寒さで震えそうになる身体を押さえつけて。


永遠のように感じる時間が過ぎ、気が付くと先ほどまで聞こえていた叫び声は止んでいた。

目だけを動かしゆっくりと様子を窺うと、戦場に立っているのは黒い騎士だけだった。

黒い騎士はゆっくりと共和国軍の本陣に向かって歩き始める。


そこで私は少し気を抜いてしまいわずかに息を吐きだしてしまったのだ。

黒い騎士はすぐさま振り返り、私に目を向けたのが兜越しでも分かった。

目が合った黒い騎士からは途端にどす黒い殺気があふれ出した。


私は完全に死を覚悟した。

全身の穴という穴から液体が吹き出し、私は気絶してしまった。



私はしばらくして目を覚ました。

生きていたことに驚き、神に感謝した。

泣きそうになったけれども涙は流れなかった。

すでに全身から水分を垂れ流していた私の身体は完全に干からびていたからだ。


それからの私は逃げるようにオルティアに戻り、里の統治について学び、20の(よわい)で前族長を倒して族長になることで里からほとんど出なくなった。“



この作品をお気に召していただけておりましたら、ブックマークや評価を付けていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。


あと、1週間以上前になりますが第1章のプロローグをリニューアルしました。

もちろん本筋のストーリーに影響はありませんが、表現の方法やアリアの友人たちの活躍など、大きな変更点が加わったと思います。

ぜひ読んでみてください。


それではまた、次の話でお会いしましょう。


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