アリア 2-3 家族
(アリア視点)
「止まれ。ここは力の一族の里、オルティアである。貴様ら何用だ?」
集落の入り口となる門の近くに立っていた兵士の方が、険しい表情でこちらを窺っています。
「アドラさん、私なの。」
ネイアちゃんはこの兵士の方とお知り合いなのか、『アドラ』さんと呼んで近づいていきます。
「おお、ネイアだったか。少し背が伸びたんじゃないか?誰か気付かなかったぞ。」
アドラさんもネイアちゃんに気が付いたのか、険しい表情を一変させて優しい表情になりました。
「んん?そっちの坊主はメルトじゃないな。ネイア、そいつは誰だ?」
「彼はアルス君って言って、私の冒険者仲間なの。」
「初めまして、僕はアルスと言います。ネイアさんとメルト君と同じパーティで冒険者をしています。」
そう。
私たちが事前に決めた作戦は、まず第一段階として、最初から彼氏のフリをするのではなく、初めはただの冒険者仲間として村の中に入り込みます。
次に村の中で情報を集め、ネイアちゃんの味方になってくれる人に協力をお願いします。
その後で、私とネイアちゃんが交際していると公言して族長サイドの出方を窺うつもりです。
「俺はアドラだ。しかし、戻ってきちまったのか。」
アドラさんは悲しげな表情で、ネイアちゃんを見ます。
「仕方がないなの。それより、もう通っていいなの?」
「ネイアはいい。だが、坊主はダメだ。今は族長の命令で里の人間以外をオルティアに入れることは出来ねぇ。悪いが坊主にはお引き取り願おう。」
アドラさんは申し訳なさそうな顔をしながらも、私の前に立ちふさがります。
ネイアちゃんは慌てた様子で、私とアドラさんの間に立ちます。
「待って欲しいなの。族長にお話ししないといけないことがあるなの。その内容にはアルス君が大きく関わっているなの。だからアルス君も通してほしいなの。」
「そうは言ってもだな。俺に通行を許可する権限は・・・」
「私たちが責任を持ちましょう。」
集落の内側から、男性と女性が連れ立って現れます。
「バトロお父さん、チーナお母さんっ!アルス君。あの2人がメルトのお父さんとお母さんなの。」
ネイアちゃんが『バトロお父さん』と呼んだ男性は、メルト君に似たパワフルな雰囲気を持っています。
もう一人の『チーナお母さん』と呼ばれた女性は、血がつながっていないはずのネイアちゃんに似た、優しい雰囲気を感じる女の人ですね。
「知り合いが知らせてくれてね。すぐに駆けつけてきたのさ。そちらの君はアルス君、でいいのかな?」
「はい、アルスと言います。」
私がバトロさんに挨拶をしている隣では、
「ああ、ネイア。どうして戻ってきてしまったの?」
チーナさんがネイアちゃんに駆け寄って抱きしめています。
その目には涙が浮かんでいるのが見えます。
「アドラ、そちらのアルス君のことは私たちが責任を持って見ておく。だから頼む。」
バトロさんがアドラさんに頭を下げました。
アドラさんはそれを見て、頭をガシガシと搔きむしると、
「ったく、分かったよ。だが俺は責任を取らねぇからな。族長にもお前たちが言いに行けよ。」
「感謝する」
そう言って入り口の近くに戻っていきました。
バトロさんはアドラさんにもう一度頭を下げた後、私たちの方に向き直ります。
「それじゃあネイア、アルス君。こんなところで立ち話もなんだから、我が家に行こうか。」
バトロさんは微笑んでそう言うと、集落の中へ進んで行きました。
バトロさんを先頭に、私たち4人は集落の中を歩いていきます。
集落の中では、メルト君に似たエキゾチックな服装の人をたくさん見かけます。
ちなみにネイアちゃんはエリアスで買った都会風の服を着ているので、周囲の視線を集めまくりです。
私もオルティアの人とは見た目が全く違うので、多くの視線を集めていますが、彼らの視線に敵意などは感じられません。
どちらかというと奇妙なものを見る目で見られているようです。
歩きながら、これまでの会話で分かったことについて考えましょう。
アドラさん、バトロさん、チーナさんの言葉や様子から、彼らはネイアちゃんの魔の一族との婚姻に乗り気でないことが分かります。
2つ目は、バトロさんとチーナさんのどちらもメルト君のことについて聞かなかったことです。
このことから、おふたりはメルト君の居場所を知っている、あるいはこの村にいる可能性が高いでしょう。
そして最も重要なことは、バトロさんとチーナさんが、実の娘ではないネイアちゃんをとても大切にしていることです。
彼らは私たちの味方になってくれるはずです。
バトロさんについてしばらく歩いていると、とある家の前で私以外の3人が立ち止まりました。
「アルス君、ここが我が家だよ。」
目の前の家は、歩いている途中に見かけたどの家よりも、二回りは大きいです。
バトロさんとチーナさんが先に家に入ると、
「さあ、上がって。」
と、私たちを迎え入れました。
私は居間に案内され、席を勧められます。
私が座るとバトロさんが向かいに座りました。
「私は飲み物を用意しますね。ネイア、手伝ってくれるかしら?」
「分かったなの。」
チーナさんはネイアちゃんを連れて、部屋の外に出ていってしまいます。
現在、この居間には私とバトロさんだけです。
私が少し気まずく感じていると、
「早速だがアルス君に頼みたいことがある。時間がないから端的に言うが、すぐにネイアを連れて遠くに逃げてくれないだろうか?」
バトロさんは真剣な表情で、私にそう言ったのでした。




