アリア 1-2 異世界の騎士
「助けるのが遅くなってすまない。君のことをずっと見張らせてもらっていた。」
困惑するアリアの顔を見た騎士姿の男性はそんなことを言う。
だが、アリアの疑問は増える一方であった。
『ピュッ、ピュイー--ーッ』
その騎士?は突如指笛を吹き始める。
突然のことに驚くアリアだったが、少し離れた場所で待っていたと思われる彼の馬が駆け寄ってくるのが分かった。
「えーと、見張り?どうしてでしょうか?それにこの辺りには隠れる場所なんてないのですが。」
ようやく落ち着きを取り戻し始めたアリアは、駆け寄ってくる馬を見ながら男性に尋ねた。
改めて辺りを見渡すが、周囲には背の低い草花が生えているだけで、身を隠せるような大きさの物は一切存在しない。
敢えて言うなら、先ほどのゴブリンらしき物体が遠くに転がっているのが見えるだけだった。
「君は向こうの世界から来たのだろう?そうなると罪人や悪人の可能性もある。なので君の為人を観察させてもらっていた。しかし君は最弱の魔物であるゴブリンに殺されそうになっていて、危険性は無いと判断した。隠れていた方法については、悪いが明かすことはできない。」
謎の騎士?はそう言いながら更にアリアに近づく。
アリアは少し警戒するが、どうせ逃げられないと諦め男に尋ねる。
「あなたは一体?」
「俺はディー。知り合いにはそう呼ばれている。この国の騎士で、君のようにあちらの世界から送られてきた人を近くの街に案内することが主な仕事だ。」
「・・・くに?国があるんですか!?」
この異世界は人が暮らせないような場所だと、これまで教わってきたアリアにとって、国が存在することに驚きが隠せなかった。
「ああ。この国だけでなく他にも国はあるし、多くの街や村もある。っと、そのあたりの話は追々するとして、君の名前を聞いてもよいかな。」
「私はアリア。アリア・フォン・ファルムスと言います。」
それを聞いたディーは顎に手を当て、何かを考え始める。
「ファルムス、か。君の家はもしかして向こうの世界の、ファルマール王族に連なるものなのかな?」
「はい、公爵家です。どうしてそれを。」
「ファルマールとファルムス。これほどまでに似通った名前なら、だれにでも想像はつくさ。」
ファルマール王国の王侯貴族の家名には必ずどこかにファルが入っていた。
逆に王侯貴族でないと名前にファルを付けることは許されないとされていた。
「アリア。ファルムスという名前はこちらでは使わないほうがいい。」
ディーは少し何かを考えた後、そんなことを言い出す。
「どうしてですか?」
「こちらの世界の者の一部はファルマール王家を恨んでいるからだ。向こうの世界から強制的にこちらの世界に飛ばされたのだからな。君が直系の王族ではないにしても、公爵家だと分かればその怒りの矛先が向きかねない。」
ディーの回答にアリアは「なるほど」とうなずき、一つ気になったことをディーに尋ねることにする。
「ディーさんはファルマール王国を恨んでいないのですか?」
アリアがそう尋ねるとディーは、
「俺の一族がこちらに送られたのは、十代も前の先祖の話だからな。恨みもなくなるさ。」
そう答えたのだった。