アリア 1-18
「強くなったな、アルス。」
ポーツ商会の制服を着たディーは、気絶した盗賊団(?)のリーダーの襟首をつかんで引きずりながら、アリアに声をかける。
「ディーさん、なんでそんな恰好を?それにどうしてこんなところに?もしかして受付嬢さんが言ってた保険って。」
「ああ、そういうことだ。冒険者ギルドからの要請と俺の仕事の関係で、君たちに対処できない事案が生じたときはサポートに入ることになっていた。結局、ここにいる全員が優秀だから俺の出番はほとんど無かったがな。」
ディーは微笑みながらそう言った。
「えーと、アルス君。こちらの男性はアルス君の知り合いってことでいいんだよね?」
ライナはアリアに対して、いきなり目の前に現れたディーのことを尋ねる。
ライナだけでなくメルト、ネイア、シルルもアリアの顔を見つめる。
アリアはディーのことをなんて紹介しようか考えていると、
「俺はディー、アルスの保護者のようなものだと思ってくれていい。今は仕事の関係でポーツ商会の制服を着ているが、商会の人間というわけではない。」
「はあ、そうですか。私はライナと言います。今回の依頼で初めて会ったのですが、すでにアルス君は大事な冒険者仲間です。」
「シルル。」
「メルトです。」
「ネイアなの。」
「ご丁寧にありがとう。これからもアルスをよろしく頼む。」
「「「「はい(なの)。」」」」
「うう、恥ずかしい。」
アリアは、親が友人たちに『うちの子をよろしく』と挨拶しているのを目の前で見せられる子どもになった気がして恥ずかしくなる。
「それでディーさんはお仕事の関係で、ということでしたが一体何のお仕事をされているのでしょうか?」
ライナがディーに尋ねる。
その質問にディーは少し考え、すべてを伝えることにする。
「俺は新王国の騎士で、今回はギルド経由で秘密裏に王命が下り、移送される物の警護の任を賜っている。」
「っ!高位騎士の方でしたか。ご無礼をいたしました。」
ライナがディーに対して膝を折る。シルルもすぐに同様の行動をとる。
「ライナさんっ?!シルルさんも何を?」
2人のいきなりの行動にアリアとメルト、ネイアは驚く。
「新王国の騎士ということは貴族様。そして王命を賜るということは騎士の中でも、陛下からの信に厚い一握りの高位の騎士ということになる。その身分は上位貴族と同等の扱いになる。」
シルルが驚くアリア達に説明する。
「そうなんですね。」
アリアはディーの顔を見る。ディーは困った表情をしていた。
「俺たち自体はそんな敬われるような存在ではないよ。普通に泣いたり笑ったり怒ったりもするただの人間さ。だから普通に接して欲しい。」
ディーはライナとシルルを立ち上がらせる。
「とりあえず今後についてだが、この気絶してる男とそこらへんに転がってる奴らは縛り上げて、このまま一緒に王都に連れていく。背後関係を洗う必要があるからな。俺もこの護送に参加するつもりだが、あくまでサポート程度だと思ってほしい。」
「はい、分かりました。それでは依頼人のクインさんに報告してきます。」
「俺も行こう。支店長は俺の存在を知っているが、一緒に説明したほうが伝わりやすいだろう。」
「よろしくお願いします。」
ライナさんとディーさんは、商会員に指示を出しているクインさんのところに歩いて行った。
その後アリアは、メルトやネイア、シルルに質問攻めにあうが、ディーには拾ってもらっただけで自分は偉い身分ではないことや、ディーと出会ってからまだ2か月程度しか経ってないことなどを説明した。
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アリア達は襲ってきた男たちを縛り上げ、設置した障害物などの片付けが終わると、少し休憩してから王都に向け出発することとなった。
話し合いが終わったらしいディーは少し離れたところに立っていた。
「ディーさん、すごい人だったんですね。」
アリアはディーに駆け寄り、からかいまじりに声をかける。
「アルスは全然そう思ってないようだね。まあ君は公爵令嬢だから俺よりも上だしね。でも今は令息かな?」
「それは昔の話ですよ。今はただのアリアで、アルスです。それよりいくつか気になることがあるんですけど。」
ディーにからかい返されそうになったので、アリアは話を変えることにする。
「何だ?」
「私たちって何を運んでるんですか?」
「機密だ。」
「そうですか。まあ予想してました。」
予想通りの答えだが、アリアはがっかりしてしまう。
「では別の質問をします。どうやって馬で全力疾走してるあの男を横から殴れたんですか?」
「それは簡単だ。馬と同じ速さで走ればいい。」
「は?」
「ある程度訓練して、身体強化をすればそのくらいできるようになるさ。」
「全然簡単に思えないのですが、もういいです。」
普通ではないことを普通のことの様に話すディーに、アリアは呆れを通り越して諦めてしまう。
「じゃあ最後に。ハイドさんって元騎士で貴族なんですよね。でも普通に街で暮らしてますけど。」
「ハイドが仕事でエリアスの街に行ったときに、街の食堂で働いていたイリヤに恋をして、実家の反対を押し切って駆け落ち同然で結婚したからな。その時色々あって騎士も貴族も辞めて、今は街の衛兵をしているんだ。」
「そうだったんですね。なんだか物語みたいで少し憧れますね。」
「現実は色々大変だったがな。まあその分今は幸せそうだが。」
ディーは当時のことを思い出しているのか、遠くを見つめていた。
少しするとディーは真面目な表情でアリアを見る。
「話は変わるが、俺から君に言っておくことがある」
「何でしょう?」
「この依頼の達成をもって俺の君への監督業務は終了となる。つまり君がこの世界でやっていくための能力が十分あると認められたということだ。この後しばらく俺は王都勤めになるだろう。」
「そう、ですか。寂しくなりますね。」
「そうだな。まあ時々はハイドの家に顔を出すさ。それに君にはもう、こちらの世界に頼れる人が何人もできたようだからね。」
「だから大丈夫」、そう言ってディーは笑った。
そのあとも出発する時間になるまでアリアとディーは色々な話をしたのだった。




