アリア 1-11 かつてディーに敗れた者たち
今回の話には少しグロいと感じる表現があるかもしれません。
苦手な方は読み飛ばすか、注意して読んでください。
「アリアちゃん、お弁当を作ったから持って行ってね。サンドイッチをたくさん入れてあるからメルト君とネイアちゃんに分けてあげてもいいからね。」
「ありがとうございます、イリヤさん。行ってきますね。」
初依頼を受けに行く日の朝、アリアはイリヤが作ったお弁当を受け取りギルドに向かって出発した。
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「おう、アルス。おはよう。」
「おはようなの。」
アリアが冒険者ギルドに入ると、メルトとネイアが手を振って声をかけた。
「うん、おはよう。」
アリアも手を振り返して答える。
アリアがギルド内を見渡すと、混雑とはいかないものの相当な人数の冒険者がいた。
「そんじゃあ依頼を見に行こうぜ。」
「そうだね。クライブさんはゴブリンか薬草って言ってたけどあるかな?」
「両方とも報酬が少ないからあるはずなの。」
3人は掲示板に向かって歩き出す。
「うん、両方あるな。どっちを受ける?」
「初依頼だから薬草のほうがいいんじゃないかな。」
「ゴブリンのほうが楽なの。この辺りの薬草は狩りつくされてて、見つけるのが大変なの。」
「そうなんだね。それじゃあゴブリンにしようか。」
アリアはネイアの意見に納得して、ゴブリン退治の依頼を受けることにする。
3人はゴブリン退治の依頼書を持ってギルドの受付に向かった。
そのときギルドの2階からアリアをにらみつけている男がいた。
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アリア・メルト・ネイアの3人はエリアスの街の東門から出てすぐの森の中を歩いていた。
「イリヤさんっていう、僕がいま住まわせてもらっている家の奥さんなんだけど、その人がみんなの分のサンドイッチを作ってくれたんだ。だからお昼ご飯のときにみんなで食べよう。」
「やったぜ。俺もお昼ご飯は持ってきたけど、硬い黒パンだけだったから嬉しいよ。」
「私もなの。とっても楽しみなの。」
「ふふ。」
メルトとネイアの嬉しそうな姿を見て、アリアも嬉しくなる。
3人とも初依頼ということもあってテンションが高かった。
3人が森を歩いて半刻ほどすると、少し離れたところにある茂みが動くのを感じた。
「ネイア、アルス。」
「何かいるなの。」「うん。」
「アルス、あの茂みに向かって何か魔法を放ってくれるか。」
「分かった。」
アリアは土魔法で人の顔ほどの大きさの石弾『ストーンバレット』を放った。
「gya !, gyueeee.」
頭から血を流したゴブリンがフラフラと茂みから出てくる。
「よしっ、当たりだ。俺とネイアがとどめを刺しに行く。アルスは周囲の警戒を頼む。」
「「了解 (なの)。」」
メルトとネイアは周囲を警戒しつつ、負傷したゴブリンに素早く近づき首をナイフで切る。
その後ゴブリンの死亡を確かめた2人は、討伐証明になるゴブリンの左耳を切り落として袋にしまった。
「とりあえず1匹だな。あと4匹だ。この調子でいこう。」
それから順調に依頼達成に必要な数のゴブリンを退治した3人は、見晴らしのいい開けた場所で食事をとることにしたのだった。
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「このサンドイッチうめぇ。」
「おいしいなの。もう黒パンは食べられないなの。」
メルトとネイアはイリヤさん特製のサンドイッチに舌鼓を打っていた。
アリアはその様子を見てほほ笑む。
3人がそんな穏やかな時間を過ごしていると、森の深いほうから足音が聞こえてきた。
3人はすぐさま臨戦態勢をとる。
「やあやあ後輩君たち。そんな怖い顔で見ないでおくれよ。興奮するじゃないか。」
「なかなか可愛らしい子どもたちですなぁ。お高く売れそうですねぇ。」
森の中から男が2人、いや3人目も現れる。
初めに声をかけてきた男はローブ姿に杖を持つ魔法使いの恰好をしていた。
2人目の男は剣を抜き身で持ち、下卑た笑みを浮かべてアリアたち3人の顔を眺めていた。
そして最後に現れた3人目の男は、アリアが冒険者登録をする際に絡んできた冒険者であった。
今は片手で斧をもてあそび、口角は上がっているがアリアを射殺さんばかりの視線でにらみつけている。
「久しぶりィ、アルスくん。あのあと君とあの騎士のせいで大変だったんだよ。ギルマスに説教されて冒険者ランクを2つも降格されるし、周りの冒険者からはゴミを見る目で見られるし。アルス君のためを思って、冒険者のことを教えてあげようとしただけなのにおかしいよね。」
「何もおかしくないのでは。それにあなたが降格されたのは、そのあと僕に襲い掛かろうとしたからですよね。」
「どうやらお前は養成訓練で先輩に対する口の利き方は教わらなかったようだな。」
「そうですね。先輩を名乗る犯罪者に対する口の利き方は教わりませんでした。」
「殺すぞガキィ。」
アリアは男を挑発しつつ、メルトとネイアに身体強化の魔法をかけ、男たちの周囲の地面を土魔法で柔らかくしていく。
「まあまあ旦那ぁ。ガキども殺したら売れなくなっちまいやすぜぇ。ここはボコボコにするくらいで」
「うるせぇ!」
男は斧を振り回し、剣の男の側頭部を叩き割った。剣の男は頭から血を噴き出して倒れこんだ。
「ひぃ!」
その光景を間近で見ていた魔法使いの男は腰を抜かして尻餅をつく。
アリアはその光景に目を背けそうになるが、メルトとネイアが男たちから目を逸らさない姿を見て、すぐに平常心を取り戻す。
「どいつもこいつもこの俺様に舐めた口をききやがって。アルス!てめぇをぶっ潰して、お前のお友達は奴隷として売ってやるよ。」
「あなたごときにできるんですか?」
アリアは緊張しながらも、それを悟られないように男を挑発した。
「グギギギギィ、死ねやぁ。」
アリアの最後の挑発に、逆上した男がアリアに向かって駆け出そうとする。
しかしアリアによって柔らかくされた地面に一歩目で足をとられ、頭から倒れこんでしまった。
その瞬間メルトは男との距離を詰め、斧を奪い柄で男の延髄を叩いて気絶させてしまう。
ネイアもすでに魔法使いの男を殴り気絶させていた。
男たちとの戦闘を乗り越えたアリアは、安堵からため息をこぼしたのだった。
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「僕のいざこざにみんなを巻き込んで本当にごめん。」
アリアはメルトとネイアに頭を下げた。
「悪いのは向こうなんだから気にすんなよ。」
「そうなの。それにあいつらただの馬鹿なの。自分で仲間を殺して一人減らしたなの。」
「だったな。魔法使いのおっさんも腰抜かしてただけだし。
ふたりはそう言って笑う。
「それよりこいつらどうしようか。さすがに連れて帰るのも難しいし。」
「土魔法で動けなくして、街に誰かを呼びに行こうか。」
「だな。」「そうするなの。」
アリアは土魔法で気絶する男たちの身体を固めてしまう。
それから3人でエリアスの街に戻ったのであった。
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街に戻ったアリア達は冒険者ギルドで男たちのことを話し、ギルドマスターのクライブとともに男が転がっている場所に向かった。
アリアたち4人が到着すると、男たちはちょうど目を覚ましたらしく大声で騒いでいたが、クライブに殴られ再び気絶してしまった。
男たちを回収したあとアリア達は事情を聴かれることになったが、それもすぐ終わりゴブリン退治の依頼の達成を報告したのであった。
のちに今回の事件の顛末を聞いたディーは、それからしばらくアリアに気付かれないように隠れて見守っていたとか。
今回の話を読まれた方はもうお分かりかと思いますが、タイトルの『ディーに敗れた者たち』とは、ゴブリンと冒険者(斧)のことです。
タイトル付けるの、とても難しいです。