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呪いませ~呪いませ~~

作者: どんC

 ガタタン ガタタン


 電車が揺れる。

 昨夜、遅くまでゲームしてたから眠い。

 対戦ゲームなんだけど、撮った映像をネットに上げたりしている。

 俺はにわかTou Tubenだ。

 昨今俺みたいなのがブログやらにわかtubenが増えている。

 昨今は質の悪い病気が流行っているから、リモート会議だとか言われているが。

 俺の仕事はゲームのUFOキャッチャーのデザイン担当なんだが。

 流石に出来上がったサンプルを見るのに画面だけでは分からない。

 ネットの画面を通すと色や形や肌触りが微妙に違うんだよな~~

 だから月に一度は会社に出て会議をしなくてはならないんだよ。

 マジかたるい。


 ガタタン ガタタン


 電車の揺れがいい塩梅に眠気を誘う。

 目が開かない。

 このまま眠ってしまいそうだ。


 ___ 通りゃんせ~ 通りゃんせ~~ ___


 ん? 

 誰かが歌っている。

 子供か?

 いや違う。

 若い女か?


 ___ こ~こはど~この細道じゃ~~ ___


『通りゃんせ』か。

 そう言えば昔、信号機の青で渡る曲がこの曲だったな。

 友人はこの曲で横断歩道を渡るのに、渡りづらいと言っていたな。

 今はただの電子音だが、まだ『通りゃんせ』の曲を使っている所があるんだろうか?


 ___ 人食い様の細道じゃ~~ ___


 えっ?


 ___ にえの無い者通しゃせぬ~~ ___


 おいおいおい違くね?

 そんな歌詞じゃなかったろう。


 ___ この子の七つの墓参り~~ ___


 ああ……

 キイキイと何か重い物を引きずっている音がする。


 ___ 呪いを解きにまいります~~ ___


 やばいやばいやばいやばい!!


 ___ 行きはよいよい~~ ___


 起きなきゃ!! 起きなきゃ!!


 ___ かえりは恐い~~ ___


 噎せ返る様な血の匂いがする。


 ___ 怖いながらも~~ ___


 身体が動かない!!


 ___ 呪いませ~呪いませ~~ ___


 目が開かない!!

 動け!! 動け!! 動け!!

 俺は体を無理やり動かして座席から転がり落ちる。


 ドガッ!!


 俺が座っていた所から鈍い音が聞こえる。

 やっと開いた目でさっきまで座っていた座席を見る。

 何か巨大な物が突き刺さっている。

 ゾッとした。

 あのまま座っていたら肉塊になっていただろう。

 俺はその巨大な肉切り包丁の様な物を持っている奴を睨み付ける。

 そいつは……

 髪の長い、赤い服を着た女だった。

 いや違う!!

 白いワンピースが返り血で赤く染まっているだけだ。

 信じられないことに、女は片手でそれ(肉切り包丁)を持っている。

 しかも片手には白い物を大事そうに抱えていた。

 おくるみ?


「あらあら。残念、貴方起きたのね。あのまま眠っていたら楽に死ねたのに」


 女の口がにっと嗤う。


「ひっあっ!!」


 俺は情けない声を出してしまった。

 だって仕方ないだろう。

 辺りは血の海だったんだから。

 何人もの乗客が血を流して倒れていた。

 みんな一撃で頭を潰されている。

 電車の床には頭蓋骨やら血まみれのやばいもんがころがっていた。

 昼間だからバッチリ見えた。


「な……何でこんな事を!!」


 震える声で俺は女に問いただす。

 声が上手く出せず、喉がざらつく。


「何でこんな事をしたかですって? そんなの決まっているでしょ」


 女は愛おしそうにおくるみの中の赤子にキスをする。


「この子を生き返らせる為よ」


 女は誇らしげに、おくるみに包まれている赤ん坊を俺に見せた。

 ねっかわいいでしょとつぶやきながら。


「ひっいぃぃ!!」


 情けなくもまた俺の口から悲鳴が零れる。

 赤ん坊はミイラになっていた。


「この子は本当なら今年で7歳なの」


 俺は動かない体を何とか動かして女から距離を置く。


「貴方は知らないでしょう。人食い様にお願いすれば、この子を生き返らせる事が出来るのよ」


 女は優しくおくるみを揺らす。


「でも人食い様はとても食いしん坊だから、いっぱいいっぱ~~い生贄が要るの」


 俺を見てニッコリ笑う。

 無邪気なその笑顔に見とれそうになる。

 返り血を浴びて、血に染まった彼女は美しくておぞましい。


「だから死んで」


 大きな鉄の塊の様な包丁を軽々と待ちあげて女はまた歌い出す。


 ギギギィィィィ!!


 大きな音がした。

 体は宙に投げ出され、意識は闇に飲まれた。





 ~~~*~~~~*~~~~



「ここは……」


 俺は白いベッドの中にいた。


 腕には点滴が付けられている。


「病院?」


 カーテンが開いて見知った顔が覗く。


たくみ気が付いたのか?」


 健二けんじはすぐにナースコールを押した。

 看護師と医者がバタバタと駆けつける。


「健二俺はどうしたんだ? 会社に行くのに電車に乗って……それから……痛い!!」


 起き上がろうとして俺は悲鳴を上げる。

 痛い。マジ、身体中が痛すぎる。


「ああ。動かないでください。左腕と両足とあばら骨が7本折れています」


 医者は俺の目にライトを当てる。

 テキパキと痛み止めの注射を打ってくれた。


「この人が誰だかわかりますか?」


 医者は健二を指差して尋ねた。


「高校からの親友で、俺が住んでいるマンションの3階の305号室に入居している芹沢健二せりざわけんじだ」


 ちなみに俺は2階の302号室に住んでいる。


「頭を強く打っていたので心配していたのですが……」


 医者は俺に幾つかの質問をしたが、俺は全部答えた。


「大丈夫みたいですね」


 医者は安堵のため息をついた。


「ご家族の方も心配されていたんですよ。今、貴方のマンションに着替えを取りに帰っていますよ」


 看護師がそう告げる。


「今、お友達がご家族の方に連絡されています。もうじきご家族も病院に来られるでしょう」


 しばらくして俺の両親が健二に連れられてやって来た。


「本当にこの子は、どれだけ心配させれば気が済むの」


「まったくだ。孫の顔を見せるまで死ぬんじゃないぞ」


 お袋も親父も泣き笑いの顔で俺に言う。


「ごめん……本当に心配させてごめん……」


 鼻の奥がつんとしたが、俺は泣きながらお袋と親父に謝った。




 ~~~*~~~~*~~~~




「あれは……死にかけた俺が見た夢だったのかな?」


「どうした?」


「ん……変な夢を見たんだ」


 綺麗な夕焼けが、病院の窓から見える。

 健二はコンビニで買った週刊ジャンポを俺に渡してくれる。

 毎週欠かさず愛読していたが、意識不明の時は読んでいない。

 古本屋で探すか、それとも携帯電話で検索するか。

 俺は雑誌のインクの匂いがとても好きなんだ。

 うん。退院したら古本屋で探そう。


「どんな夢を見たんだ?」


「大きな刃物を持った女が、片手に赤ん坊を抱えてみんなを惨殺する夢だ」


「ん~~。あんまり聞かないな。電車ネタなら【きさらぎ駅】とか【おさるの電車】だが……」


「だよな……こんな都市伝説聞いた事無いよな……それにそんな女の遺体は出て無いんだよな」


「いくら大事故でもミイラの赤ん坊を抱えて、でっかい出刃包丁持っていたなら、実体なら何らかの痕跡を残しているよ。あの事故では助からないだろう。それに助かった奴は全員男だ。やっぱり、ただの夢だよ……」


「やっぱり夢だよな……」


 それにもし存在していたのならあの事故じゃ助からないよなと俺はかすれた声で呟いた。

 あの酷い脱線事故でも7人の人間が助かった。

 6人はあの事故にもかかわらず軽症で済んでいた。

 300人近くの人が亡くなったのに。

 どれだけ運がいいんだよ。

 それに引き換え、俺はいまだにベッドから起き上がれない。


「あ……もう面会時間が終わったから。また来るよ」


「おお。ジャンポありがとな」


 健二は片手を振って出ていった。



 ~~~*~~~~*~~~~



 風呂から上がった健二は、この間買ったゲームでもしようかとパソコンのスイッチを入れる。

 パソコンの前でふと気になった言葉を打ち込む。


【人食い様】【巨大な出刃包丁】【ミイラの赤ん坊】


 ヒットしたのは一件だけだ。

 7年前に新興宗教が起こした集団自殺だ。

 信者は20人ほどで、祀っている神は【人食い様】。

【人食い様】にその身を捧げた者は【人食い様】の眷属神として永遠の命を得ると言う。

 教祖が大きな出刃包丁で信者の首を刎ねた。

 信者を殺した教祖は自分の首も切り落とした。

 教祖も信者も死んで、たった一人生き延びた者がいる。

 教祖の娘で当時15歳だった。

 彼女は重体ながらも生き延び、子供を産んだ。

 死産だった。

 その子は誰の子かは分からない。

 殺された信者の中に数名若い男達がいた、彼らの子供だったのか……

 それとも教祖の子供だったのか、彼女は何も語らず姿を消し。

 事件は加害者死亡の下に闇に葬られた。


 健二はその記事を読むと、思案した。

 この事を友人に言うべきか?

 いや。

 知らないことが幸せな事ってある。

 それにただの夢だろ。

 健二はパソコンの記事を消すとゲームを始めた。



 ~~~*~~~~*~~~~




 ___ 通りゃんせ~ 通りゃんせ~~ ___


 何処からか声が聞こえる。


 ___ こ~こはど~この細道じゃ~~ ___


 ああ……


 ___ 人食い様の細道じゃ~~ ___


 あの女の声だ。


 ___ どうぞ通してくだしゃんせ~~ ___


 キイキイと耳障りな音がする。


 ___ 贄の無い者通しゃせぬ~~ ___


 身体が動かない。


 ___ この子の七つの墓参り~~ ___


 目も開かない。


 ___ 呪いを解きに参ります~~ ___


 頭が痛い!!


 ___ 行きはよいよい~~孵りは恐い~~ ___


 ボコボコと頭が膨れ上げる。


 ___ 怖いながらも~~ ___


 誰か!! 誰か!! 助けてくれ!!


 ___ 呪いませ~呪いませ~~ ___


 俺の頭は中から破裂した。



 おぎゃぁおぎゃぁ


 俺の頭の中で赤ん坊が孵った。




 ~~~*~~~~*~~~~


 健二が朝食を食べながらニュースを見ていると。

 あるニュースが流れた。

 あの列車事故の生き残りの6人が何者かに頭を叩き潰されて亡くなったと言うものだった。

 嫌な予感がした。

 健二は急いで病院に向かったが。

 全ては手遅れだった。






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 2021/3/19 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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[一言] 王道! そして、うわーっ!という想いに★マイナス1しそうな衝動に駆られましたが、寧ろ★プラス100差し上げたい。理性が崩壊しました。 素晴らしかったです。 いいなあ。こんなホラー書きたい(*…
[一言] 初めて、感想を書かせてもらいます。どんCさんの作品は好きで読ませてもらっています。今回の作品も怖くて最高でした!
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