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淫魔族最後の男の生存戦略  作者: ぴゅあぴゅあな真っ黒いはーと
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淫魔族最後の男の隠密と発見

さて、森に入るとエミルの言っていたことがあながち嘘ではない事がわかった。


歩き方や音を立てないような動き方に明らかな問題は見当たらず、匂いを誤魔化すために土を被る事にも拒否感等は示すことがなかった。


目印となりそうな木や花の群生地はしっかりと気を配って覚え、それが無いと見るや持ってきた古着を裂いて作った紐を括って目印を作る。


正直ここまで手際よく出来るとは思っていなかった。


感心しながら眺めていると、レミルがこっちを見て少し不満げに口をすぼめる。


「なによ? もしかしてこれくらいの事もできないと思われてたの、私? 随分と失礼じゃない?」


また表情を読んできたか。


「いや悪い。どうも使ってる言葉といい頭の回転といい、どうにも村で農耕やら狩りやらしているようには思えなかった物だからさ」


そう言うと少し不満げな表情が鳴りを潜める。


「ああ、まあそうね……。確かに他の同年代の子ほど意欲的に家の畑や狩り、家事をしてはいないわ。そんな暇があったら本を読んでいたいしね」


「本? 文字が読めるのは村長に教わったからとしても、なんで本なんて高価な物がこんな辺境の村に、他の仕事を削って読めるぐらいあるんだ?」


「痛い所ばかり突くわね……。これが私にいつも言われてる子の気持ちかしら。少し攻め立てるのを控えようかと思ってしまうわね……」


「? これが『痛い』のか?」


「んー、そうね、あなたの立場によるわね。あなたの出自如何(いかん)によっては下手をすると捕まるくらいスレスレの事をしている自覚はあるかしらね。」


んん? まあ、今はいいか。そこまで追求する必要もないだろう。


「まあ、いいか。そろそろ目的地も近い。無駄話はここらでやめにしよう」


「ええ、そうしてくれると助かるわね。それじゃあ、少し声を出さずに進みましょうか」


「ああ」


さて、ここまで来たんだ。もういっそしっかり偵察をしてしまうか。


そしてしばらくして、痕跡を見つけた俺は片手でレミルに合図を送る。


「(何か見つけたのね? この付近だと足跡とか引きずった跡かしら?)」


囁き声で正答を言ってくる。話が本当に早いな。


「(ご名答。それに(わだち)まである。やっぱりハイオーガ以外にかなり頭が回る個体がいるな。知識あるか?)」


「(んー、知能の高いものだとシャーマンとかメイジ、案外ジェネラルとか、ソーサラーもいるかしら。あと極稀に見た目と力は普通のゴブリンなのに言語を持たない人間レベルまで賢い、なんていうのもあるみたい。ゴブリンが一番多いみたいだけど、他の魔物にもいないことはないみたいだから要警戒かしら。それ以上の事は魔物討伐者の指南本にはなかったから知らないわね)」


「(んー、となるとトップの種族が何かも気になるな。一番強いのはハイオーガで確定だが、頭に関しては魔力じゃわからん)」


「(そんなことわかって何になるの? 敵の知能が測れたら十分じゃない?)」


「(いや、実はどんなに頭が良くても種族の特性には逆らえない物もある。逆らえても影響は出たりな)」


「(そうなの? よくそんなの知ってるわね。そんなの書かれた本読んだ事無いわよ)」


それはそうだろう。これは魔人が調べた結果であって、亜人族で魔物と人間の交配実験やら魔物の遺伝子改変なんてやると思えない。


「(俺が独自に調べてこういう傾向がある、というのを纏めただけだからな。確証はあるが知名度はないだろう)」


嘘ではないな。俺が独自に調べたもの「が一部ある」し、「亜人族には」知名度はない。


「(なるほどね。ならここまで近いなら魔力探知で魔物同士の間隔とかで測れない? 囲まれてるのに弱ってないとかそういうので)」


その発言にあまりにも驚いた俺は、目を大きく見開いてレミルを見つめる。


「(な、なに? どうしたの?)」


「(いや、そんな発想はした事がなかった。お前、天才じゃないか?)」


「(い、いきなり褒めてどうしたのよ、調子狂うわね。これくらい普通しない?)」


「(いや、しない。したこともないし聞いたこともない。しかし確かにそうだな。それは気付かなかった……)」


これは本当に大発見だろう。それと同時にではなぜ俺がそんな発想を全くしなかったのか、その発想がなかったのかを洗い出すと、そこそこ悲しい理由が出てきた。


まず、魔人にとっての「ちゃんとした魔物を狩る」というのは、それこそ亜人族から見ると物語の戦いである。


亜人が「魔物」としっかり認識して警戒する最低限はキングオーガか下手するとジャイアントくらいからであり、よく魔物を狩っていて知識の多い俺でもオーガが限界。逆に言えば、それ以外は最早「魔物」と認識しないのである。亜人族で言えば、小さなハエの群れを鬱陶しいとは思っても警戒しないのと同じような物だ。


その上で魔人にとり「ちゃんとした魔物」となると、もうワイバーンの群れやらドラゴンやら統率されたジャイアントの群れとか、もう亜人族にとっては国が亡びる覚悟で挑む相手である。


逆に言うなら、魔人がしっかりと対策を立てて挑む相手は基本群れないか頭の種族はわかりきっている。そのため「違う種族を頭とする三種を超える魔物の群れ」に対する方策など無いのだ。そこまでしないと生きていけない弱い魔物など、魔法が得意な者が呪文を二、三節唱えるか、大きめの魔方陣を描いてしまえば消し去れる。


実際、俺ですら本来この偵察は魔物の規模が妙に大きくないかと思い万が一、億が一に魔人が関わっていないか等の確認の為に来ている。魔人や神族が関わっていないと最初からわかっていたらこんな面倒臭いことをせずに人目のない所から魔法の絨毯爆撃である。


成程これなら「魔力探知を利用して群れの頭の種族を探る」なんて発想は出ない。必要のない所に発明はない。


いや、しかしこれは中々悪くない魔力探知の活用法だ。魔人族で有用かは疑問だが、これからの亜人族での暮らしでは大いに役に立つ。


振りでも偵察をしていて良かった。


そして、俺は居心地悪そうにしているレミルから視線を外して魔力探知を発動、間隔から一番位置が高く、他の魔物や孕み袋だろう亜人に囲まれた魔物が一匹。こいつだろうな。


「(いた。多分こいつだろう。いや弱いな、あー……、魔力は覚えたから、それに似た種族を見つけたらそいつだとわかるな)」


正直ここまで弱い魔力の種族など知らないし覚えてすらいない。俺は魔物の学者ではないのである。


レミルも、俺の表情から察したのだろう。頬を引きつらせながらもフォローしてくれた。


「(あなたね……、ま、まあ、しょうがないわよ。雑魚にいちいちかまける者の方が少ないしね)」


その優しさが心に痛い……。


そんなやり取りを交えながら、二人で洞窟の入り口が見える場所まで向かっていった。

レミルみたいな考え方の子で世界が溢れてたら幸せだなあと思います。


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