淫魔族最後の男の人物評価
ギリギリセーフ……!
本日二話投稿です。
こういう考え方はやっぱりできないと、って感じしますよね。
そう言ってからのテイルさんの反応はなかなか面白かった。貴方が腕が立つのは聞いたがハイオーガすらも出るような魔物の群れをあなたが倒せるのか、とかなり不安そうな様子であった。まあ、確かに今日来たばかりの男にハイオーガすら倒せるから任せろと言われても信じるのは困難だろう。俺だって闘魔族の村を正面から一人で破れるとか言ってるやつがいたら「頭がおかしい」と言うと思う。
とは言っても今回ばかりは俺が何とかできるのは事実だ。何とか自分が誰も気付かなかった魔物の群れに気付けたりする程度には魔法の腕が立つという事を前面に押し出してなんとか説得できた。
そしてテイルさんから直々に魔物の掃討を頼まれた俺は、鞄に入っているものを確認してから「まずは偵察に出る」と言って、テイルさんが奥に引っ込んだ後家から出ようとしたその時に、レミルに声をかけられた。
「エイルさん、でしたよね。少しよろしいですか?」
ん? 何かあっただろうか。
「ん? どうしたの?」
レミルは、随分と目を険しくしてこちらを見ていた。
「失礼ながら、あなたの言っている事が胡散臭いのです。そもそもそんな数の魔物を探知できるのかというのもそうですし、探知できたとしてその数は本当なのか、その数の魔物を倒せるのかというのも疑わしい。何から何まで全てが不穏です」
んん? 疑ってるのか。疑うという事は自分に何かしらの不味い事態が起きると思ってるという事か。
レミルの立場で考えてみるか。となると確かめたいのは大体三つくらいか?
「えーと、確かめたいのは俺の素性と情報の真否、それに俺の力量で合ってる?」
そう確認をとると、レミルは寄せていた眉を上げて目を見開く。
「話が早いですね。まあ、やましいところがないなら簡単に思いつきますか」
「そうだな。それくらいは思いつく」
いやまあ一個目の時点で既にやましいんだが。まさかいると思われてない魔人だからな……。
と言っても魔人はそも人間界にはばれるようには来ない。増して何かしら起こっても人間界の上層部で情報は握り潰されるので、こんな小さな村程度では魔人などは天人と同じ物語の存在である。
とは言ったところで、今ここでばれるのはやはり不味い事には変わりない。ならどう誤魔化すか。さて、どう言うかな。
「なら、そのうちの二つはかなり簡単に解決する。単純だよ。君がついてくる。これだけだ」
「それで人目がつかなくなった所で私を押し倒すと。わかりやすいですね。確かに単純です」
そんなことを言われてしまった。これには流石に苦笑を返す。
「いや、そうまで言われてしまうともうどうしようもないんだけど。どうしろって言うのさ。正直、そこまで疑うなら俺が何を言おうと、確たる証拠はないんだから徹底的に疑い続けられるでしょ」
「そうですね。なので、私もついて行こうと思います」
おい。ならさっきまでの文句はなんだ。完全に無駄だったろう。しかも「なので」って。その接続詞間違ってないか……いや、そういう考え方なら間違ってはいないのか。というか初めて会った時もそうだがこの子なかなか難儀な性格を……
って、初めて会った時? ……ああ、なるほど、そういう事ね。
「つまり、胡散臭いし不穏とは言ったが『信用に値しない』とは言ってないし、疑っているとも言っていない。増して万が一のその可能性を考慮してもついていった方が生き残る可能性が高いかそもそんな可能性は端から存在しない確信があると」
そう言うとレミルは目をこれでもかと大きく見開いた後、歯まで見せてにっこりと笑った。この笑顔は、あれだ。その子の言ってる事を俺だけが理解した時に、近所に住んでたリューナって子の浮かべた笑顔にそっくりだ。
となると、レミル、この子の性格と環境に推測が出来てくるな。
この子はまず頭が回る。死にたくないからと必死に頭を回してきた俺とは違う、別段特別なことをしなくても元々頭の回転が速い部類。
そして見た目と言動に反して非常にお茶目、というか人をからかうのが好きなのだろう。となると人間観察とかそこらへんも好きかもしれない。こうなるとかなり交渉関係には強いだろうな。
で、あの笑顔が決定的だが、この子と同レベルに頭が回る子はこの村にはいないのだろう。いるのならここまで嬉しそうな顔はこれまでの言動を考えるとしない。
そうなるとそこら辺りで攻めていけば近しくはなれそうだな。というかリューナと相当気が合うだろうな、この子。
そこまで考え終わると、笑顔を微笑みの奥に仕舞ったレミルが、楽しそうに口を開く。
「ええ、ええ。大正解よ。その通り、私の言おうとした事全部取られたわ。凄い。初対面でここまで言い当てられた事は初めてよ。あなた、随分と頭が良いのね?」
お、口調が砕けた。これは好感触を得られたか?
「近所に住んでた子に君みたいに周りの子にはわからない事を言う子がいてね。その子と仲良くしていたら自然とこういう考え方はできるようになった」
「嘘ね、なら私やその子の周りにいる子とやらが『言ってる事がわからない』という事態は起こらなくなるもの。はぐらかそうとしても無駄よ、頭良いのよ、あなた。認めなさいな」
ああ、本当にリューナみたいな指摘だ。彼女と違うのはレミルには他人に合わせようという気がある所か。
「まあ、感じ方は個人の自由だしね、そういう考えもできるかもしれないね」
頭が良い、というのはあの師匠のような人を言う。あれに比べると絶対に「頭が良い」なんて戯言は言えなくなる。
「随分と頑なね? まあ、今は良いわ。となるとあれね? 素性は言えないわね?」
「そこまでわかるか」
「ええ、当然よ。実は私たまに来る魔物討伐者の方に言われるのだけど、魔力が人よりかなり多いらしいわ。それで、あなたが魔力探知をした時、特有の違和感があったのよね。それもかなりの長時間。ここまでの時間の魔力探知は見たことが無いわよ。となるとあなたが凄腕なのはもう間違いないわ。情報も本当、一人でどうにかできるのも高確率で本当。でもそんな力を持った人がこんな所に来ている時点で何か事情がある。ならおいそれと事情は明かせない。違う?」
おい嘘だろ。なんで亜人が魔力探知に反応できる。できないから亜人じゃないのか。まさかこいつ先祖返りか?
「……君は、王都の官僚とか外交官にでもなるつもりかい?」
「あら、それが真っ先に出てくるなら、あなたの素性はその辺りに近しいの? ……ああ、わかったわ。これ以上はよしましょう。私もこれ以上は聞く気はないわ」
……いや、参ったな。別に王都とかは一切関係がないが、師匠達の一人に近しい人がいたからそういうのがスッと出てきたが、そこから逆算するか。
これは思った以上に手綱を握るのが大変だぞ。下手を打てばこちらの事情を全部把握された上それを逆手にとられてこちらが操られかねない。正直最初に会う亜人族がこんな魔力を感じ取れる例外体質というのは想定の外だ。
だが、それ以上に手に入れ甲斐のある獲物であるのは確実。手に入れたい。この素体は逃すには惜しすぎる。
「……そこまでわかるなら、話はもう必要ないね。これから偵察に行って、一度帰ってきてから本格的に対策をして殲滅するよ」
「あら。なら私もついていくわね。情報の真偽は確かめておかないと」
「ん? 二回目の時で良いんじゃないの?」
「高確率で本当、と言ったでしょ? ここから立ち去る可能性もあるじゃない。あなたがこの村に求めるのは宿。つまり無理にここにいる必要は無いもの。となると危ない橋なら渡らない方が正解。それをさせないようにしないと」
認識を改めよう。この子、本当に厄介だ。