淫魔族最後の男の境界越え
今日アップしてるのはこれが二つ目です。
一つ目からお読み頂けると嬉しいです。
人間界。
そこに暮らすのは、「人間種亜人族」と言われている一種類のみ。
そのため淫魔族含め、夢魔族、剛魔族、悪魔族と様々な種族のいる魔界と比べるとかなり小さく、またいる人間種は能力が平均的なのが特徴。
一種類しかいないという事なら天界族もそうなのだが、天界族は生きた年数に比例して化け物染みた強さを持っている為数が少なくともここでは考慮に値しない。
また亜人族は魔力を変換はできても感じ取ることはできないらしく、その結果亜人族は自分達のいる人間界以外にも境界を挟んで何個も「界」があることを知りもしない。
そして寿命が短く、長くても八、九十年しか生きられないため、世代交代が早く、かつ強者が出難い。
そのためこの種は、自分等魔人より弱い人として「亜人」と呼ばれている。
ではなぜこの人間界が魔界に併合されないのか。
この人間界、魔界の他に、天界、獣界とも接しており、そのどれもが人間界を併合しようとした時期があった。
その結果、今は不可侵協定を結んでいるが、一時期天界と魔界で軽い戦争が起きたのである。
軽い、と言った通り、どちらも数種族が壊滅的な被害を受けたり、いくらか数が減る以外にはその界に影響が出るような諍いにはならなかったのだが、その余波が大きかったりしたことから、「人間界には軍事的、国家的手出しはしてはならない」と取り決めができた。
しかし軍事的、国家的ではなく、それこそ種族的特徴を隠して個人的にちょっとした商売や観光をしたりするのは問題とされてはいない。
今回俺がつくのはその穴である。
淫魔族も、耳の上の小さな角と背中の羽、尻尾を魔術か何かで隠すなりしてしまえば問題なく人間界に出入りできる。
というか、淫魔族は種族的な特徴故に人間界に出入りする人数は魔族の中でも一、二を争う。
また俺を知覚しなければ「女だけ」となった淫魔族は、魔族の中でも相当優遇されている。
そのため、人間界に行く淫魔族を一人一人細かくチェック、みたいなことはあまりしないのである。そのため俺もさも「私は淫魔族の女性ですよ」とばかりに種族特有の形の角や羽を見せておけば、越境官の男は鼻の下を伸ばしながらスルーしてくれる。男はいないと思われているから当然である。気持ち悪いが。
まあ、これは淫魔族が人間種の能力や形成する社会などにほぼ影響を与えないからである。
逆に、俺のしようとしている「人間種の社会に溶け込んで『人間種』として根を張ったり、本来人間種の持ち得ない知識や能力を与え、パワーバランスを崩す」行為は御法度とされている。
まあ俺の場合は下手をすると淫魔族の生まれ育った村以外の者にバレたらそれだけで命を狙われかねないので、今さらそのようなことに怯えていても自分の立場はあまり変わらない。
そして、十八歳の祝いをしてもらい、おばさんから手向けにと盾剣と杖、収納魔法の付与された洒落た鞄をもらった一週間後。
おばさんや集まってくれた師匠達からのエールを受け取り、俺は越境船の淫魔族の女性に紛れ、見事に境界近くの人間界の居住区へと渡ったのだった。
二つ目です。
まあここら辺までは面白みも何もありませんよね。
だいたい六話目、人物評価あたりから読みごたえが出てくるかなと思います。