淫魔族最後の男の懐古話
わーい、投稿しちゃったよ。
幼い頃の俺は、「自分は何か間違って生まれたんじゃないか」、「自分は淫魔族ではないんじゃないか」と思って不安になったものだ。
当然だろう? 周りの皆は俺みたいな「モノ」は付いてない。小さいころに仲の良い子らと川で泳ぎに行った時など、たった一人変な「モノ」が付いている事を馬鹿にされる事すらあった。
当時は本当に不安だったし、怖かった。
だが、家の物置に、今となっては封印していたのだと思えても、当時の自分にはなぜか大切そうに置いてあったとしか見えなかった水晶に興味本位で触れたその日、俺は自分が「男」なんだと理解し、そして魔「人」として壊れた。
周りと違う事を不安に思わなくなった代わり、逆に周りが不安になるような子になっていた。
そして五歳だったか六歳だったかになったある日、育ての親であるおばさんが唐突に打ち明けてくれた。
「あんたは、淫魔族で最後の男なんだよ」と。
何の冗談だと憤慨した事を覚えている。
そも父親がいなかった事や、母親が見当たらないこと、他の皆が母親の事について尋ねると楽しそうに答えてくれるのに、父親の事について尋ねると途端に黙り込む理由。
色々な事を聞かされ、そしてそれが水晶の見せた事と合致していると気づいた時、受け入れざるを得なかった。
そんな諸々の説明を聞き終えて、最後におばさんに言われた言葉、
「いつか、あんたは、誰が見ても『男』とわかるような体や顔つきになっちまうだろう。その時に、下手をすると淫魔族の男を良く思わないヤツから殺されちまうかもしれない」
というのを聞いて、俺は決心した。
強くなる。強くなって、少なくとも自分の身は自分で守りきれるようにする。そうなったらもっと鍛えて、「アイツラ」全員を消す。そしていつか、誰からも咎められることなく、淫魔族の男の子を作る。
そうなったら、きっと俺は、「淫魔族最後の男」という肩書きを、隠さずに済むだろうから。
そう決めてからは、ただひたすらに己を鍛えるのみだった。
おばさんの他、村の人は皆俺が男だとわかってくれている。
しかし村を出てしまうと、途端に俺は下手をすれば命の危機に晒されることになる。
だから村からは出られない。出られないなりに頑張るしかない。
体を鍛える、魔力を練るという根本的な部分は自分一人でできるから徹底的に行った上で、剣術や魔法を修めないとならない。
その点では、おばさんの顔の広さが本当に役に立った。
淫魔族最後の男なんていう爆弾を抱え込める程度にはおばさんは魔術はとんでもなくできたし、有力者とのパイプも太く他のことを教えてくれる人を寄こしてもくれた。
その結果、俺はおばさん含め四人の師匠から、盾剣術、徒手空拳、魔術、一般教養を必死に教わり、なんとか全てを吸収できたのが十八歳一歩手前。
「こんだけできたなら、闘魔族からも自分の身くらいは守れるだろう」と太鼓判を押された俺は、次の目標に向けて動くことにした。
そう、子供を作ることだった。
幸いこの村は特殊だ。俺を匿い続けられたのが何よりの証拠である。だから子供が出来たら、その母親と一緒にここに匿えば、その間に憎き敵を屠れるだろう。
だから、俺はまず子を作ることを目的とした。
が、淫魔族の伴侶を迎えるのは種族の特性上望みが薄い。
そして淫魔族以外の魔族の伴侶なんて得ようとするならそれこそおばさん曰く「頭の凝り固まった老害ども」や、「アイツラ」に目を付けられかねない。
獣族は体の構造事態が違いすぎる為子供ができない。獣人族ならまだ可能性はあるが、魔界との境界側には獣人族はおらず獣族しかいない。
天界族はそもそも魔界と繋がってないから行く事すらままならない。というか魔族と因縁深い天族を伴侶に、なんてのはハードルが高い。
よって、俺が選ぶべき伴侶候補がいる世界。
それが「亜人」の住む世界、「人間界」だった。
今日はもう一話分投稿しますね。