黒の影
下校途中:
「あぁ…」
「川に入ったおかげで、
制服がびしょびしょだ…」
「明日までに渇くかなぁ~?」
「すみません…」
「私がもう少し早く力を出し切っていれば、
こんなことには…」
「…そんな、謝らなくていいよ。」
「あんまり気にしてないから…」
「あんまりですか…」
「全然気にしてませんッ!」
彼女を落ち込ませまいと、
背筋を伸ばし言った。
「はッ…」
彼女は少しうつむいていた顔を上げるが、
視線の先は俺ではなく、帰り道の方だった。
「どうしたの?」
「誰がこっちに向かって走ってきます…」
「それが?」
「いや、もし走ってくるのが、
知り合いだった場合二人でいることを、
説明しなくてはなりません。」
「なので、私は隠れます。」
(結構いい感じだったと思ったんだけど、
二人でいて誤解されるのは嫌なのね…)
彼女は一瞬の内にどこかえ隠れたらしい。
すでに、俺の前にはいなかった。
少しずつだが、走る足音が聞こえくる。
(まぁ、知り合いじゃないだろ…)
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…」
走ってきた男は橋の手前で止まり、
辺りを見渡している。
俺と目が合う。
「蓮太郎ッ!」
(知り合いだった…)
「無事だったか…」
「もちろん」
「いゃ、ごめん…」
「一人で逃げちゃて…」
「逃げろって言ったの俺だぜ?」
「気にすんなよ」
「いや、本当に悪かった。」
「謝るくらいなら肩貸してくれ…」
「あぁ、かまわないよ。」
「で、あいつどうなった?」
「あ、あいつね…」
「に、逃げたよ…」
「そ、そっかー…」
「なに?」
「もしかして、ビビってんの?」
「そーだよ…」
「ビビってんだよ!」
「見かけによらず恐がりなんだからぁッ。」
「もう、いい。」
「とっとっと帰るぞ。」
「帰ってトイレに行きたい。」
「緊張がとけたからか?」
「違う。」
「もともと、学校出るときから我慢してた。」
「あっ、そーですか…」
俺はカナトの肩を借りながら、
家に帰った…
……
(やはり知り合いでしたか…)
(隠れて正解でした…)
スッ
「あなた、なかなかやりますね…」
「初めてとはいえ、あいつを倒すなんて…」
突然背後に気配がする。
「だっ、誰ですか!?」
しずなは、声がする方へと振り返る。
「そして、彼…」
そこには、自身と同じくらいの年頃の女の子
白い肌に、腰まで達した黒い髪、
服装も全身黒を身にまとった子。
「なぜか、惹かれるものを感じます…」
「わ、私の話聞いてますか!?」
「それと、彼は私のマスターですッ!」
それを聞いた彼女は一瞬薄く冷たい微笑みを
浮かべたかと思うと瞬きするうちに、
「き…消えた…?」
辺りを見回したが物陰一つ動きは
しなかった。
自宅:
「ただいまぁ。」
「って、誰もいないよなぁ~」
俺は自室のある二階へと上がろうとした。
ピンポ~ン
「…はぁ~い」
気怠い声が家中に響く。
ガチャ
家の扉を開く。
そこには、同じ学校の制服を着た女の子がいた。
「すみません…」
「突然押しかけちゃって…」
「今時間ありますか?」
「あぁ、うん」
「全然大丈夫だよ。」
しずなを家に、そして俺の部屋へと入れた。
「それでは…」
「早速なんですが」
「これから、異界の者と今後について
お話していきます。」