初陣
下校途中:
「えっ?」
「でも、俺が助かったてことは篠崎さんが
倒してくれたんじゃないの?」
「すみません。」
「私は、攻撃できても倒すほどの
力は無いんですよ…」
「だから、ほら」
彼女が指さす方を見る。
そこには、飛び散った液状物質が集まり
一つになろうとしていた。
「再生しようとしています。」
「だったらどうすんの!?」
「だから、倒すと私言いましたよね?」
「だからどうやって!?」
「武器なんか俺持ってないし、
拳も通らなかった!」
「てか、どうやってやつを切ったの!?」
「武器ならここにいますよ!」
「あなたが主である武器が。」
(…この子は何を言ってるんだ?)
すると突然彼女の体が光だす。
その光は、彼女を包み込み小さな塊となって、
俺の手のひらに飛び込んできた。
飛んできた光る塊は、みるみるうちに姿を
剣へと変えた。
(これで、幾つかの疑問は解決したはずです)
その声は頭の中に響いてくる。
それは、さっきの問いかけよりも
はっきりと聞こえる。
(それでは、あいつを攻撃してください)
「わ、わかった」
俺は、再生中のスライムに突撃。
力はいっぱいに斬りかかった。
しかし、その攻撃は大きく跳ね返された。
「ダメだッ」
「攻撃が入らない!?」
(落ち着いてください)
(肩に力が入りすぎです)
(呼吸も荒いですし、それでは奴を斬ることは
できません)
(私の呼吸に合わせるのです)
「そんなこと言われたって!」
(いろんな事が一斉に起こってるのに
落ち着けなんて無理だ!)
「どうやって合わせれば良いんだよ!?」
(わかりました)
(私があなたに呼吸を合わせます)
(あなたはその脈拍数と緊張感を維持し、
私の言うとおりに動いてください)
「わ、わかった…」
(では、両手で剣を握ってください)
両手で剣を握る。
手元が少しずつ熱くなる。
(少し我慢してください)
「何を?」
すると、突然剣が火を纏はじめた。
「アッつッ!」
その熱さで剣から手が離れそうになる。
(まだ完璧に呼吸が合っている訳ではないので
我慢してください!)
なんとか離さずにすんだ。
が、しかしスライムは完全に再生してしまった。
「おいッ!」
「完璧に再生しちゃったぞッ!」
(わかっています!)
(あいつの体は九割がた水分でできています)
(なので、私の文字通り火力で蒸発させれば
呼吸が合ってなくとも斬れるはずです!)
「わかった!」
「やってみる!」
俺は再度スライムに斬りかかった。
「うぉぉぉぉお!!!」
ブジュウゥゥゥゥゥッ
さっきまで入らなかった攻撃が
みるみるうちに入り、
一部てはあるが斬り取ることができた。
「やっ、やったッ!」
「攻撃が入ったッ!」
(まだ喜ぶのは早いです)
(奴は再生します)
(速やかに奴を全て蒸発させてください)
「わかったッ!」
俺は次々にスライムを斬り取り、片っ端から
蒸発させていった。
その間もスライムは再生し続けたが、
それより早い攻撃によりとうとう、
小さな水溜まり程度になった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
「これで最後だッ!」
俺は息も絶え絶えで、剣の刃に一番近い
右手は火傷気味であったが、
最後の一振りに力を込めた。
キッーンッ
刃が地面に刺さった…
俺は目撃した刃が地面に達する前、
奴がよけ川に逃げたのを…
(まずいですよ!)
(奴は九割が水でできているッ!)
「…ってことは…」
俺は橋から川を覗いた。
その川はそこまで広く深くはない川だったが、
奴が復活するには、十分な量の水が流れていた。
「あ…あそこまできてまたやり直し…かよ?」
死にかけたり、重たい剣を
火傷しながらふったりで、
もうすでに体力は限界だった。
(いいえ…)
(やり直しではありません…)
(最後です)
(あいつに与えられなかった最後の一撃を)
(与えるのですッ!)
「でも…もう体力が…」
(大丈夫です)
(この橋から飛び降りれば…)
(体力がなくともあいつの頭に突き刺すことができるはずです!)
「それでも…」
(私を信じてください!)
(パートナーとはそういうものです!)
……
「わかった…」
「篠崎さんを信じるよ…」
(…名前でいいですよ)
(…蓮太郎くん)
「…あぁ、俺はしずなを信じる。」
(では、いきましょう!)
俺は最後の力を振り絞って橋の手すりをこえ
落下の勢いでスライムの頭に剣を突き立てた。
「うぉぉぉぉお!!!」
剣は今まで以上に深く突き刺さった。
(私も最後の力を振り絞りますッ!)
(耐えてくださいッ!)
「わかったッ!」
「思いっきりやってやれッ!」
(はぁぁぁぁぁぁあ!!!)
「うぉぉぉぉぉぉお!!!」
二人の鼓動が共鳴する!
『神炎ッッ!』
『爆ッ!』
ドッッパァッッッ!
シァァァァァァッ
スライムは内側から破裂蒸発し、
跡形もなく消えた。
「や…やったか?」
「えぇ、倒しましたよ!」
彼女は笑顔で答える。
俺もつられて笑顔になる。
「しずなの笑顔見てると元気になれるな」
「そんなことありませんよ…」
「でも…」
「ありがとうございます。」
「そう言ってもらえるとうれしいです。」
「蓮太郎くん!」
「…それじゃあ帰るか」
「この元気がつきないうちに…」
「…はいッ」
必殺技は難しい