覚悟と契約
下校途中:
「どうするよ?」
「家までは、この橋渡らなきゃ帰れない…」
「でもそれには、あの気持ち悪いおっさんとすれ違わないといけないし…」
……
「おい!」
「聞こえてんのか蓮太郎!?」
「えっ?」
「あぁ、ごめん聞いてなかった。」
「だから、どーやって帰るかって話。」
「あぁ、うん…」
(篠崎さんには、近づくなって言われたけど…)
(ここはやっぱり…)
「走ろっ。」
「あの、おぼつかない足取りじゃ追いつけない
だろうから。」
(逃げるために近づくんだ、これは近づいたに
入らないだろうきっと…)
「わかった。」
「その子が言ってた化け物じゃない
かもしれないしな。」
「そーだな。」
「全身の関節が外れちゃった人かも。」
「そんなわけ、ねーじゃん!」
少し強ばってたカナトの顔も柔らかくなった。
「それじゃ行くぞ。」
その言葉と同時に俺とカナトは、
走り出した。
俺とカナトは、そこまで足が速いわけではない。
しかし、それ以上におっさんの
歩くスピード、反応速度は
遅かった。
(やっぱりただの酔っぱらいだったか)
すれ違う瞬間俺はそう思った。
一瞬だった、おっさんとすれ違い、
橋を渡りきるのは。
「ハァハァ~、ハァ」
「ハァ、やっぱりただのおっさん、だったな…」
俺はカナトの方を向く。
誰もいない…
俺は今通ってきた道へと振り返った。
そこには、おっさんの横で伏せている
カナトの姿があった。
「何こけてんだよ!」
「だっせーなぁ!」
「ち…違う…」
「お、俺はおっさんの足下から出てきた
触手かなにかに…」
カナトはカナト自身に近づいて来る
おっさんに、顔を向けた。
「足をかけられた!」
その瞬間カナトの真横まで来たおっさんの、
体が破裂し中からスライム状態の化け物が、
どろりとした液体と共に出てきた。
(俺の判断は間違ってた)
スライムは、カナトに襲いかかり
液体状態の体に取り込もうとした。
俺は、走った。
走り抜けてきた橋へと…
「そいつを、はなせぇぇぇえ!」
俺はスライムに殴りかかった。
が、その液状の体には案の定きかない。
何度も殴りかかったが一切きいていない。
「クソッ」
(ダメだ俺にはどうすることもできない)
すると、俺が目障りだったのか
体の一部から液状の弾を勢いよく
飛ばしてき。
それは、見事に俺の口の中に入った。
「うっ!?」
(まずい、飲み込んだら絶対にまずい!)
(なんとか、吐き出せッ!)
ノドまで達したもののなんとか、
飲み込まずにはすんだ。
しかし…
「んっ!?」
「うぇぇぇえ!?」
ビタビタビタビタビタ
口の中に広がる激痛と共に
受け止めた液体の弾を吐き出した。
吐き出した地面は赤黒く染まっている。
(口の中で液体の形状が変化した!?)
弾は球体から口の中でスパイクボール状に
変化したのだった。
(危なかった…)
(飲み込んでたら今のじゃすまなかった…)
(内側から串刺しにされるところだった)
すると、カナトを吸収しようとしてた
スライムは、今の攻撃で殺せなかったことに
腹立ったのか俺に襲いかかってきた。
「マジかよ!」
(しかし、カナトを助けるのには成功した
ここはとっとっと逃げよう)
「カナト逃げるぞッ!」
「立てッ!」
「あっ、ああ!」
俺たちは、再度走り出した。
いや…“俺たち”ではなく“カナト”だけ…
「うわっ!」
ドスッ
足を引っかけられた。
カナトが言ってた触手のようなものに。
「これのことかッ!」
「大丈夫か!?」
「今助けに…」
「早く行け!」
「逃げるんだよ!」
スライムは俺の体にのしかかる。
予想以上の重さに気を失うが、
失う瞬間走り去ってく後ろ姿が見えた…
……
「う、うっ…」
(か、体が…う、動かない…)
(お、俺は…死んだのか…?)
(い、いや…まだ、生きてる…)
目が覚める。
しかし、映るのは水色っぽく透明で歪んだ世界。
スライムの体の中。
(ダメだ助からないこの液体の
圧力と浮力で体は動かないし呼吸もできない…)
(このまま死ぬのか…)
死を直前にして恐怖よりも
諦めによる感情が強かった。
(俺の死に際にしてはかっこよかったな)
(この諦めが覚悟なのかもな…)
(だけど…)
(やっぱり…)
(死ぬのは恐い)
結局諦めが大きくても最後は
恐怖がのしかかってくる。
(死にたくない…)
(まだやりたいことがいっぱいあるんだ)
(死にたくない…)
(死にたくない)
(死にたくない!)
(…生きたいですか?)
スッと、頭の中に誰かの声が響いてきた。
(生きたいですか?)
(…あぁ、生きたい)
(本当に?)
(本当にだ!)
(これからあなたが生きていくということは、
今以上の苦痛を感じることになりますよ?)
(それでも…?)
(それでもいい…!)
(今までだっていろんな苦痛を味わってきた)
(生きるってのはそういうことなんだッ!)
(わかりました…)
(それでは最後に一つお聞きします…)
シュパッ シュパッ シュパッ
「うぅッ」
(体が楽になった…)
(呼吸もできる…)
コツンッ コツンッ コツンッ
(誰が近づいてくる…)
「すみません」
「顔をあげてもらえますか?」
聞き覚えのある声…
頭に響いていた声だった…
見覚えのある顔…
微笑みが絶えない顔だった…
「それでは最後の質問です…」
「覚悟は…できましたか?」
「…あぁ、できたよ…」
「覚悟…」
「生きるという覚悟が…」
「みんなが生き…俺が生きる覚悟がッ!」
「…わかりました」
「それでは契約です…」
「あなたが私の主となることを」
突然だった…
目の前の少女の唇が俺の唇に重なるのが…
朦朧としていた意識が一発で醒めた。
「なッ!」
俺の驚きによる醒めによって、
唇は離れた。
彼女は、舌で唇を舐める。
「契約完了!」
「さぁ、立ってください!」
「これからあいつを倒しますよッ!」