プロローグ
ある昼下がり私は1人自電車を走らせている。
自転車を漕ぐたびに吹く暖かい海風が私の髪をなびかせていると潮のいい香りが私の鼻に付く。
「......少し行ってみようかな」
私は自転車を歩道の端に止め、近くにあった石造りの階段を下りていく。
一段一段と階段を下りるたびに岸に打ち上げる波の音が私の耳にこだまする。
気持ちいい波の音と、暖かい海風、私はこの海が昔から好きだし、多分これからも好きなんだろう。
そんな事を考えると早くも階段を下り終わって私は砂浜に立っていた。
「やっぱり気持ちいい......」
私は靴を脱ぎ、靴下を靴の中に閉まって、白い砂浜に
腰を下ろし、砂を右手ですくい、 呟いた。
サラサラな砂が私の右手から少しずつこぼれ落ち、小さな山が出来た。
私は微笑み、波の音が聞こえる海へと視線を移す。
水色の澄んだ大きな海が私の眼前に広がる。
その海は幽玄とそして、茫漠しているかのように私の心は感じ取っていた。
その時ある少女の声が鳴り響いた。
「お姉ちゃんもこの海が好きなの?」
私が振り向くとそこには白いワンピースに白いビーチサンダルを履いた、茶髪で髪の長い少女が立っていた。
その少女は腰回りで腕を組みながら私のことをきょとんした顔をして眺めていた。
「そうね私はこの綺麗な海が昔から好きなの。この海を眺めてると心が穏やかになるの」
「へぇそうなんだね。......私もねここが大好きなんだ!この波の音が凄く心地いいの!」
少女は私の前へゆっくりと歩いて私に背を見せながら両腕を海に向けて大きく広げながら話した。
私はその背中を見て小さくも大きく力強い何かを感じた。それが何かは今の私には分からない。
でもあの少女は大きくなるそう思いはした。
「そうね私も波の音......ううんこの海の全てが好きなの。......例え大事なものを盗んだ海でも......」
「......ん?最後なんて言ったの?お姉ちゃん」
「あ、ううんなんでもないよ気にしないで」
「そう?でもなんか凄く悲しい顔したよ?大丈夫?お姉ちゃん」
「大丈夫だから!」
「あ、う、うんごめんなさい......」
私は心配を寄せている少女に対し、苛立ちを覚えいささか少女に強く当たってしまった。
少女は泣く寸前であっても私に涙を見せようとはしなかった。その強くもか弱い姿はさながら今は亡き妹を見ているようだった。
「ごめんなさい私が悪かったわ強く当たりすぎたね」
私は泣きそうになっている少女の頭を撫でて慰めた。
私は泣かれるのは嫌いじゃないにしろ苦手だった。
泣かれるとどうすればいいのか分からなくなるから。
昔から泣く妹をあやす事はしていたが泣かれるといつになってもどうすればいいのか分からなくなるから苦手だった。
「うん......もう泣かないっ!」
「ヨシヨシいい子だね」
少女は瞳から垂れる雫を自身の腕で拭い私に小さな手をしたガッツポーズを見せた。
私はそれを見て少女の頭を撫でていると何故か妹のことを思い出した。
懐かしい......私は妹との沢山の記憶が走馬灯のように駆け巡る不思議な感覚に陥った。
楽しかった思い出、泣いた思い出沢山あった。
でもそれら全て光っていた。楽しかったあの日々は帰ってこない......でも私は生きてる。この少女をみると何故かそんな想いが込み上げた。
「......アナタ名前は何て言うの?」
「私?私はヨゾラだよよろしくねお姉ちゃん」
「いい名前ね。私はアオバって言うのよろしくねヨゾラちゃん」
「うん!よろしくねアオバお姉ちゃん!」
私は互いに笑顔を見せ合って笑っていたが次の瞬間
午後2時を示す音楽が町中に響き渡る。
「あ、私もう帰らなくちゃ!またねお姉ちゃん!」
「うんバイバイヨゾラちゃん」
ヨゾラちゃんは私に手を振ると私が下ってきた階段を駆け上がり、町の方へ姿を消していった。
「......これから私はあの子とどうなっていくんだろ」
私は1人ポツンと呟いた。