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魔法使いと巨人の戦記 ~人型の敵を巨大ロボで全力でぶん殴るけど蹂躙される話~  作者: 火海坂猫
革命という名の茶番劇

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三十六話 満足な終わり

「対象に命中を確認」


 労いも賞賛も含まず淡々とユグドが事実を告げる。その理由は単純で一言二言を増やす余裕もない状況だからだろう。砲を発射したその瞬間からユグドとリーフの二人はその維持に全力を費やすことになっている。


 基本的にはユグドが全体のシステム管制をしつつ砲の状態を把握してリーフに指示。その指示を元にリーフが砲の修復や部分的な強化を行って致命的な破損が起こらないよう維持していく。


 そして哉嗚がそんな二人の状態を勘で読み取りつつ、砲に流入するエネルギーを調節してグエンを倒せるよう最大にして最小の威力を維持させる。


「…………っ」


 右手には砲と直結したトリガーを握り、左手は専用のデバイスに表示されたエネルギー調節のつまみに指を這わせる。砲が扱っているエネルギーを考えれば単純極まりない機構ではあるが、彼一人でスヴァルトとアスガルドの全てのエネルギーを調整するとなればそれくらい単純でないと不可能だ。


 そして単純であっても、単純であるがゆえにその操作には細心の注意を求められる。極端な話を言えば現状のエネルギー流入量の状態でトリガーを離せば、放出先を失ったエネルギーの暴走によって砲とこの機体を含めた周辺の施設が吹き飛ぶだろう。またエネルギーの調節も極端に行えばその変化に耐えられずに同様の結果になる可能性がある。


 どう考えても手動で行うような制御ではないが、こんな前代未聞の兵器を制御するようなシステムを短時間で開発できるわけもない…………全ては哉嗚の勘に任せるしかないゆえの手動なのだ。


 今なら哉嗚はあの美亜の投げやりな態度もわかる。個人の勘なんていう不確かなものに国家の命運全てを託すなんて行為はどう考えても頭がおかしい……………おかしいが、他に手段が無いのも確かだった。なにもしなければこのまま滅ぶのも確定しているのだから賭けに出る以外の選択肢はない、そりゃあ投げやりにもなる。


 もっとも当事者である哉嗚は投げやりになるわけにもいかない。全神経を集中して自分の中にある感覚を鋭敏にする。それは勘としてか呼べないものだとしても確固たる感覚であることはもう彼にもわかっている。物理現象を超越した現象を引き起こす魔法があるのだからそういうものだってあるはずだ…………というかぶっちゃけこれは魔法なんだろうと哉嗚も理解している。


 スヴァルト人間だって元はアスガルドの生まれだ。能力としては衰退して使うこともないから自覚しないだけで、自分の勘のような形で発言することだってあるのだろうと彼は思う。


 けれどまあ、そんなことは関係ないしどうでもいい。


 今は唯傍にいる二人、そしてその後方にいる大勢の人々と大切な人


 それを守るために、どんな力であろうと全力で活用するだけなのだから。


                ◇


 受け止めた瞬間に膨大な圧力を魔力障壁に感じた…………もちろんそれ自体は核爆発の時だって感じてはいた。しかし一方向から放たれたそれは明らかに先程よりも重く、何よりも爆発と違って一過性ではなく継続した重みを感じた。


「ぐっ」


 思わず奥歯を噛み締めてグエンは唸る。重い、と感じる。爆発よりも明らかな威力を感じるのはもちろん、爆発を受けきった後の疲労が残っているのも大きい…………それでも魔力障壁は安定してその攻撃を受け止められている。けれどそれをいつまでも続けられるかというと若干の不安が浮かぶのも確かだった。


「辻め、これが本命か」


 かつて古代文明を滅ぼしたという核爆弾すらこれを自分に命中させるためのブラフ。思えばかつて自分にその説明をしたのもこの瞬間にグエンへそれを強く意識させるための布石だったのかもしれない。


 自身の共犯者でもあり遊技台の対戦者でもある辻の強かさに思わず苦笑が浮かび、けれど今はそんなことを考えている場合ではないとすぐに表情を正す。


 すぐに、そう、早急に考えるべきことはこの攻撃がいかなるものであるかだ。


 魔力障壁の内から判断できるのはそれが目も眩むような光の奔流であるという事だけだ。それに該当するのは巨人機のレーザーライフルだけだが、こんな威力を放つことが出来る巨人機をグエンは寡聞に知らない。現状で最も威力の高いレーザーを放って来た薄緑の巨人機にしても彼からすれば鼻歌混じりにあしらえるものでしかなかった。


 そもそもそんなエネルギーを捻り出せるような巨人機がいれば、狙撃などさせずに直接グエンを狙わせているはずだ…………しかしこんなエネルギーを生み出せるジェネレーターなど古代文明にすら存在していなかったはずだ。


 自然と頭に浮かぶのは、薄緑の巨人機に納められたブラックボックス。


 あれと同じことをグエンを使ってやれば、彼を圧倒しかねないエネルギーを生み出すことは当然ながら出来るだろう…………だが違う、とグエンは感じる。あの薄緑の巨人機とリーフの生み出す魔力は同質のものだと感じたが、今目の前に迫り続けている光熱には自分と同質ものを感じない。


 それどころかまるで複数のエネルギーを混ぜ合わせたような…………とそこまで考えたところでグエンは察した。つまりはそういうことなのだと。


「はっ」


 グエンは笑うしかなかった。


「あいつ、文字通り俺に全てをぶつけて来たのか!」


 言葉にするのは簡単だがそれを物理的に再現できる人間はまずいない。だが魔攻士であるグエンには感覚でわかる。自身へぶつけられている光熱は文字通りにアスガルドとスヴァルトの全てを込めたものであろうと。


 魔法使いは感覚で魔力を操り魔法を使う。故にスヴァルトの兵器類から機械的に生み出される現象と違ってその魔法には魔攻士の感情が乗る。もちろんそんなものは普通に人間に感じられるものではないが、逆に普通でない同じ魔攻士なら感じる事は出来る。そしてそれは光熱のエネルギーとなっていても込めた際の感情がグエンには感じ取れた。


 憎悪、悲嘆、親愛、希望


 そこに込められているのはそういう想いだ。グエンへの憎しみとその行為ともたらす未来に対する悲嘆…………そして家族や友人にそんな思いをさせたくないという親愛と彼を討つ未来への希望。それこそすぐには数えきれないくらいの人々の想いがそこにはあった。


 だが光熱に含まれているのはそれだけではない。それだけではグエンに届かせるだけの力には足りない…………それを届かせているのは何の感情も込められていない無機質な力。機械的に生み出されたであろう魔力とは別物のエネルギー。しかしその力の大きさを考えればそれがスヴァルト中から搔き集められた科学文明の結集であることが想像できる。


 つまりはこの光熱はアスガルドとスヴァルトの全ての力の結集なのだ。


 他にこれ以上など存在しない正に全力だ。これで彼が倒せなかったのならばもはや仕方ないと諦めるしかない一撃なのだ。グエンには全てをやり尽くした辻が後は結果を淡々と待つのみと落ち着いている表情が容易に想像できた…………やれることを全てやり切ったのなら後は結果に託すだけなのだから。

 

 そこまで理解したなら後はグエンがどうするかだ。

 

 まず、耐えられるかどうかだけなら現状耐えている。微妙に威力が増減しているがここからよほど大きくなることがない限り魔力障壁はもつだろう…………問題はそれがいつまで続くかだ。


 アイズに削られた分や核爆発を耐えた分で流石に彼も消耗している。そこまで長い時間は個の強度の障壁を維持できそうになかった。 


 ただ、それは向こうも同じだろうとグエンは感じている。これに魔力を注いでいるであろうアスガルド国民にも限界はあるし、スヴァルトにしたって国にある全てのエネルギーを一点に集めるなんてことが長時間できるはずもない…………ギリギリまで耐えるだけでも相手が自滅する可能性は高かった。


 そして余力のある今なら別の選択肢だって選べる。爆発と違って光熱は一点に集中しているのだから魔力障壁を一時的に拡大して避ける余裕を作ればそれで済む。恐らくだがこんな莫大なエネルギーを扱う兵器の射線は発射中にそう簡単に変えられない。もちろん微調整は出来るだろうが彼であれば避け続ける事は可能な程度だろう。


「ま、やらないがな」


 できる、けれどやらない。その心はすでに決まっていた。それでもあえてそう口にしたのはこれまでの自分の力に対する自負があるからだ。


「納得してやるぜ、辻」


 アスガルドとスヴァルトが文字通りその力の全てを合わせ、それでいて誰一人戦場で死ぬことはないある意味理想的な炎の魔王の討伐法だ。これでグエンが死んだとてそれに疑念を抱く存在はいないだろう…………両国の力の全てを傾けて死なない個人がいるなどと流石に信じたくもないだろうから。


「それじゃあ、あとはうまくやれよ」


 誰にでもなく、思い浮かぶ全ての人間にそう告げてグエンは魔力障壁を解除した。


                ◇


「あ」


 モニターは圧倒的な量の閃光で埋め尽くされていて役には立たない…………ただ、哉嗚の勘はその場所に討つべき対象がいなくなったことを感じていた。即座にエネルギーの調整を緩やかに終息させる方向へと変化させる。


 しばらくして砲は収まり、モニターは一直線に大きく抉れた地面以外は何もなくなった荒野を映した。




 それから数秒か数分か、誰も何も口にせずにその光景を眺めていた。

「目標、消失しました」


 そしてしばらくして、ユグドが思い出したようにその事実を告げた。

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