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魔法使いと巨人の戦記 ~人型の敵を巨大ロボで全力でぶん殴るけど蹂躙される話~  作者: 火海坂猫
革命という名の茶番劇

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十四話 交流

 キゼルヌとの話し合いの結果敵の到着まで数日間は待機する必要があるとのことだったので、その間に哉嗚は隊の面々と交流を深めることにした。もちろん作戦前に顔合わせはしているがそれほど多くの時間が取れたわけでもない…………これから行われる戦いを考えれば互いの人となりを知っておくのは大事なことだろう。


「指導者との話し合いは終わりましたか?」


 そしてそんなことは高島含めた面々もわかっているのだろう。哉嗚が待機場所である広場に戻って来ると巨人機から降りたパイロット達はすでに集まって交流を深めていたようだ。

近づく哉嗚に気づくと直属の部下である高島がまず口を開いて尋ねる。


「ええ、現状の確認と当面の方針は決まりました」


 頷いて討伐軍の攻勢は恐らく一週間後であることと、それまでこの場で待機することが決まったことを告げる。


「予想はしていましたがやはりこの場で待機ですか」


 苦笑して高島は周囲を見回す。開けた平地には何もなく、その平地を取り囲むように巨大な木々が並んでいるのでどの方向を見ても景色は変わり映えしない。その空間から動く事すらできず一週間待機というのは普通に考えればうんざりするだろう。


「無用なトラブルを避けるためには仕方ないですよ」


 同盟を結んだとは言えそれはあくまで集団のトップ同士が決めたことに過ぎない。もちろん下の人間もスヴァルトの援軍が必要であることを理解しているだろうが、直接顔を合わせた時に責任のあるトップと違って感情を優先させる可能性はある。それを避ける為には結局のところキゼルヌの提案に従って住民たちと接触しないことしかない。


「まあ、自分はある意味ほっとしましたよ隊長」


 確かさかきといっただろうか。高島よりも少々若いパイロットが口を開き哉嗚へと話しかける。


「正直あの木の中の家を用意されても安心して眠れなかったでしょうから」

「それはわかる」


 梅木うめぎという頬に傷のある別のパイロットが同意するように頷く。


「人間誰しも理性で行動できる奴ばかりじゃない…………ここにいるアスガルドの人間の数を考えれば俺たちに家族の復讐をしてやろうと考える奴がそれなりにいてもおかしくはないだろうさ」


 事前の情報によればこの拠点には6千人のほどのアスガルド人が暮らしているらしい。それだけの人数がいれば哉嗚たちへの恨みを直接的に晴らそうと実行する人間だって少なくないだろう。


 もちろんここにいる大半は下級魔攻士やそれにすらなれない貧民と呼ばれる人々だ。しかし魔法の力を失ったスヴァルトの人間からしてみれば、それでも武器がなくては対抗できない脅威であるには違いない。


「その点を考えれば巨人機に寝泊まりした方が遥かに安全だな…………整備の連中は六機で囲むようにしておいてやればいいだろう」


 更に別の、深山みやまという褐色肌のパイロットがうんうんと頷く。巨人機は稼働させてさえ置けばAIによる自動制御がある。パイロットが眠っていても周囲の異常を感じれば自動で迎撃しつつパイロットを起こしてくれることだろう。


「まあ、コクピット破壊的に作られていますし、後は交代で外に出て体を動かすようにすればいいですね」


 残る一人のパイロットである深掘ふかぼりがそう提案する。彼は哉嗚を除けば最も若いパイロットであり年齢が近い。しかし筋肉質で背も高いのでまだ幼さの残って見える哉嗚と並ぶと兄と弟ほどの差があるように見えた。


「ええっと」


 一通りの意見を述べた彼らを哉嗚は少し意外そうに見やる。


「どうしましたか、宮城大尉?」

「いや、皆さんアスガルドを結構警戒しているんだなと思いまして」


 もちろん哉嗚だって全く警戒してないわけではない。しかし今回の作戦には政府への忠誠厚く、同時にアスガルドとの和平に賛成の者を集めたと聞いていた。


 だからなんというか、もう少し前向きな意見が出て来るものと思っていたのだ。


「ああ、そういうことですか」


 納得したように榊が頷く。


「確かに私はアスガルドとの和平には賛成ですが…………それは別に彼らが憎くないからではないですよ。心情では憎いですし殺せるなら殺してやりたいとすら考えています」


 だから警戒することを緩めないし信用もしないのだと榊は続ける。


「じゃあなんで」

「その感情以上に戦争という行為が愚かしいからですよ」


 はっきりと榊は口にする。


「大切な命を無為に散らし、互いの憎悪を掻き立て合う…………何の利益もない害だけの行為です」


 そしてそう彼は断言した。もちろん戦争を始めた当事者たちには正当な理由があったことだろう。アスガルドの側からすればそれは国から逃げ出した者たちへの刑罰としての戦争であり、スヴァルトはそれから身を守るための戦争だった。


 しかしその戦争は長く続いた末に膠着し、互いに消耗するだけの戦争となった。そんなものを続けるのは命と資源の浪費でしかないと榊は考えているようだった。


「だから私は和平には賛成です…………ですが彼らが憎いという感情を捨てることはできないので和平後は田舎に引き籠もりますよ。融和は次の世代に任せます」


 戦争は害しかないから和平には協力する。しかし自身の感情まで捨てることはできないから融和には協力せずその後は接触しない道を選択する…………なんというか合理的で無駄のない選択だと哉嗚は思った。


 そしてそれは皆同じような意見なのか反論することもなく黙して賛同を示していた。


「しかしこれは我々が軍人だからでしょうね。恐らくは一般市民のほうが反発は大きいことでしょう」


 軍人は私情を抑えて命令に従う訓練を受けているし、なによりも戦場の悲惨さを知っている。しかし市民はそんな訓練は当然受けていないし、戦場の悲惨さを知らずただ家族を殺されたという憎しみだけを抱えている。


「ムスペルの現状を知っても自業自得と断じて同情もしないでしょうな」


 深山が淡々と事実を連ねるように口にする。同情というのは当人にとってその対象がそれに値しない限り抱くことは無い。現状ではアスガルドの人々の大半はスヴァルトの市民にとってその対象にはならないだろう。


「その脅威が自身に降りかかるという危機感も無いでしょうし」


 それは長い膠着戦の続いた弊害だ。戦闘が起こるのは主に前線だけでありそこから離れた市民たちの生活圏内が脅かされることは無くなっていた。その結果軍人である家族の死に悲しみはしつつも、それが自分達への危機感には繋がることがなかった。


 故に今回の同盟を公開されればムスペルへの脅威よりもアスガルドへの嫌悪感の方が恐らく大きく感じられることだろう。


「上層部もその辺りは理解してるはずですけどね」


 だからこそ今回の援軍派遣は秘密裏に行われたのだ。しかし本格的に協力してムスペルへ対抗するとなればそれを明らかにしないわけにもいかないだろう。


「ムスペルの脅威を喧伝する、とか?」

「それを実感として感じられるのは我々軍人だけだと思いますがね」


 口だけで脅威を訴えられても実感は覚えない。現状でその脅威を図る物差しを持っているのは戦場に立ったことのある軍人だけだろう。


「いずれにせよ、です」


 少し傾きかけた話を打ち切るように高島が口を開く。


「まずはこの作戦を成功させることでしょう。今いくら先の話をしたところで作戦が失敗してこの拠点が壊滅したら同盟などもはやないようなものです」


 それこそ悪い意味で無用の心配となってしまうことだろう。


「ですよね、宮城大尉」

「え、ああ、はい」


 慌てて頷く。自身でも情けなくなるが、年上ばかりの部下たちというんはやはりやりづらかった。それでも何とか取り繕って口を開く。


「皆さんの意見は参考になりました。彼らとの今後がどうなるかはまだわかりませんが、まずは目の前の任務をしっかり果たしましょう」


 一応隊長っぽいセリフではあるが、年長者相手だと哉嗚は自分でもどこか声に重みが足りないなと感じられた。


「はは、ではまずたっぷりと英気を養うとしましょう」


 だがそれも大人の余裕ある態度で受け止められる。


「まずは待機ですからな。コクピットの中であれば気も落ち着きます…………おっと隊長の場合は外の方が落ち着くかもしれないですな」

「外ではあの戦略魔攻士に中ではユグドと隊長は女性に好かれますね」

「羨ましい限りですよ」

「…………なら代わってくれてもいいんですよ」


 こんな任務に選ばれるだけであって皆ユグドについてもよく知っている。哉嗚がコクピットに入れば落ち着くことなど出来ずその相手をしなくてはならない事をわかっているのだ。


「まさか、我々に馬に蹴られる趣味はありませんよ」

「ユグドだけならともかくあの戦略魔攻士など私達の手には余ります」

「…………俺だって余りますよ」


 それなのに辻司令から押し付けられていたのだ。


「その割には随分と好かれているように見えましたが」


 深堀が素直な感想を口にする。彼から見てリーフは完全に哉嗚を信用しており、とても少し前まで敵同士だったようには見えない。


「こう、戦いの中で口説いたりされたのですか?」

「そんなことするわけないでしょう」


 漫画やドラマじゃあるまいしと哉嗚は否定する。


「俺と彼女は普通に戦っただけで…………どうしてあんなに好意を持たれてるのか理由を知りたいのは俺の方です」


 再会した時から好意を持たれているようだったがその理由はさっぱりわからない。本当に哉嗚からしてみれば彼女とは命を懸けて殺し合っただけなのだ…………それで怪我もさせているし好かれる理由がわからない。


「魔法の強さが全ての国ですし、彼女に勝ったからではないですか?」

「別に魔法を使って勝ったわけじゃないですし、巨人機で勝ってOKなら今頃スヴァルトにはアスガルドからの求婚者で列ができてますよ」

「そこは、これまでは呪いがあったからとか…………ないですな」


 自分で口にして深山が否定する。


「まあ、理由はともかく隊長にはぜひ彼女の好意を受けて止めてその手綱を握っていて欲しいところだな。正直に言えばその方が我々も安心できる」


 梅木がそう口にすると高島も含めた皆が同意の様相を見せる。いくら同盟を結んで見方となったと言っても戦略魔攻士の力は大きすぎる。その首に鎖はいくつも巻いてあった方が安心できるという事なのだろう。


「その、気持ちはわかりますが…………俺、同棲してる彼女がいるんですけど」


 思わずユグドにも隠している事実を口にする。考えてみればこれまで当人である晴香を除けば相談できる相手がいなかったせいもあるだろう。


「それは…………ここだけの話にしておいた方がいいですな」


 深山がしばし間を置いてからそう口にした。


「ええ、作戦は必ず成功するものではないですが…………その理由が痴情のもつれというのは報告書にも記せません」


 同意するように榊がそれに続く。


「少なくとも同盟関係が続いている間は、その関係を崩すような事実は明らかにするべきではないと自分も思います」

「…………それ、問題を先送りにしてるだけじゃないですかね?」


 さらに同調する意見を述べる深堀に思わず哉嗚は口にし、残る高島と梅木に視線を向ける。


「大人として何かアドバイスとかは」

「男女の関係には誠意が必要であると私は思います」

「俺も同意見だな」

「…………誠意的に事実を述べると問題になるかもって話じゃないんですか?」


 哉嗚がつっこむと二人は目を逸らした…………まるで役に立たない。


「いずれにせよこれは宮城大尉以外にはできぬことですので」


 ごまかすように高島がそう口にし、他の四人へと視線を一周させる。


「「「「「頑張ってください!」」」」」


 そして一斉に口をそろえて哉嗚へと何の役にも立たないエールが送られた。


「…………」

「と、噂をすれば件の人物の来訪の用ですね」


 文句の一つでも言うべきかと迷う哉嗚をよそに他方を見た高島がそう口にする。


「では、我々は待機任務に就きますので」

「あ」


 そして素早く五人は自身の機体へと散っていく。


「哉嗚」


 そしてリーフがその場にやって来て、哉嗚はその対応に苦慮するのだった。

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