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魔法使いと巨人の戦記 ~人型の敵を巨大ロボで全力でぶん殴るけど蹂躙される話~  作者: 火海坂猫
革命という名の茶番劇

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五話 対話

 移動を始めてしばらくは哉嗚もリーフも無言だった。彼女を乗せてからユグドも一言も喋っていないがサポート自体はきちんと行っている…………これなら多少哉嗚が気を散らしても問題はないだろう。


「ええと、リーフって呼んでも大丈夫か?」

「構わない」


 巨人機の移動速度は高いがそれでも会談場所までは三、四時間ほどかかる。その間無言なのは単純につらいし、貴重な情報収集の機会でもある。会談場所についてしまえばその後のリーフの扱いは未知数だ…………聞けることなら今のうちに聞いておくべきだろう。


 呼び捨ての許可は円滑な会話の為の布石だったが、まさか食い気味に許可されるとは思わず哉嗚は少しばかり困惑した。


「それでそのリーフ、少し話をしたいんだけど」

「する」


 これまた食い気味に了承が得られた。前回壮絶な殺し合いをしたはずの後もそうだったが、なぜだか彼女は哉嗚に対して敵意を持っていないように感じる。

 話をするにはありがたいが、その理由がさっぱりわからないのでやっぱり哉嗚は困惑するしかない。


「それでまずは到着してからの話なんだけど」


 聞きたいことを聞く前にまずは話しておくべきことからと哉嗚は始めた。


「会談場所にはスヴァルトの軍が大量に配備されてる…………その全員がリーフに向けて敵意を向けると思う」


 会談は密かに行われることが理想だったが、それに反して会場には大人数による警備体制が敷かれている。その理由はよりにもよってスヴァルト軍の元帥である辻が自らを使者との会談相手に選んでしまったからだ。


 もちろん警備はリーフに手を出さないよう厳命されているが、彼女はアスガルドの戦略魔攻士第三位であり出撃の旅に大軍を葬って来た…………当然恨む人間も多い。実行に移さずとも敵意まで向けるなというのは不可能だろう。


「だけどリーフの方から絶対に手を出さないで欲しい。君が手を出さない限りは皆も手は出せない…………もしも間違いがあったら俺が間に入る」


 口にしながら哉嗚は複雑な心境に囚われていた。元は彼にとってもリーフ・ラシルという少女は憎むべき対象だった…………けれど前回の戦いでなぜだか毒気を抜かれてしまって今は憎む気持ちにはなれない。


 けれど好意的な感情を抱けるかといえば別であり…………彼女を護るようなことを口にするのはやはり複雑な気分だ。


「わかった」


 そんな哉嗚の気持ちをよそにあっさりリーフは頷く。


「自分を守る以外に力を使わない…………それでいい?」

「助かるけど…………いいのか?」


 思わず尋ねてしまう。リーフにしてみれば自分の命をまだ敵である彼に委ねるようなものであるはずなのだ。


「私が憎まれてるのは理解してる」


 もちろん哉嗚以外に憎まれようが彼女にとってはどうでもいい話ではあるが…………だからといったその心情を理解できないわけではない。

 自分は憎まれて当然のことをしていたし、それが簡単に解消されないことくらいちゃんとわかる。


「それに、守ってくれると言った」

「…………ああ」


 任務だし、何よりも彼女の力はグエン打倒には必要だ…………この戦争を終わらせるためになら憎しみだって抑える…………それは今は沈黙しているユグドと哉嗚が決意したことだ。


「ならそれでいい」


 そっけなくリーフは答える。だがその心情が跳び上がりたいくらい喜びに満ちていたことをもちろん哉嗚が気付くはずもなかった。


「…………」

「…………」


 話の区切りがついてしまいしばしの沈黙が続く。


「あー、ちょっと聞いていいか」

「うん」


 結局また躊躇いがちに哉嗚が口を開き、それに即座にリーフが頷いた。


「リーフは…………その、なんでアスガルド側に残ったんだ?」


 以前彼女と戦い追い詰めた際に哉嗚は降伏を勧めた。けれどリーフは長老会に掛けられた呪いを理由にそれを拒否した…………後から調べた限りではその呪いと横暴さもあって長老会という組織はアスガルドでは嫌われていたようだ。特権階級である上位の魔攻士には忠誠を誓う者もちゃんといたようだが、あの時のリーフの表情を見る限りでは彼女が長老会を好いていたようには見えない。


 それにグエン・ソールはあの時リーフを助けるために現れた。口論の果てにグエンはリーフを気絶させていたが、それも嫌っているというより手のかかる妹を相手しているという雰囲気だった…………これらの情報から考えるとリーフが彼ではなくアスガルドを選んだのは少し不思議に思える。


「…………」


 リーフは少し押し黙り考えを巡らす。理由など考えるまでもなく彼女の横に座る哉嗚という存在の為だ。けれどそれをいきなり伝えても戸惑わせるだけだということをリーフも理解している…………正確には以前にグエンからみっちり説明された。


 多くの人間はリーフのように単純明快な割り切りをしたりせず複雑なのだと。


「長老会は嫌いだった…………でも、今のグエンよりはマシ」


 なのであらかじめキゼルヌに相談して決めておいた理由を口にする。リーフは哉嗚の為であれば自分がどう思われようと構わないし、死ぬことだって躊躇いはない…………だがどうせなら生きて彼に好かれたいと思うくらいの欲はちゃんとある。


「それほど仲が悪そうには見えなかったけど」

「グエンは質の悪い選民思想にかぶれた」


 突き放すようにリーフは答える。


「選民思想に?」


 元々アスガルド自体が魔法の実力こそを至上とする選民思想の強い国だ。そのうえで彼女がそれを口にするというのは意味合いが大きい。


「グエンは、国民のほとんどを粛正するつもり」

「!?」


 予想外の言葉に哉嗚の表情が固まる。


「そ、それは本当なのか?」

「現に今も力の無い人たちを前線に送り出してる」


 その話は哉嗚も聞いたことがあったし高島とも話したことがある。けれどそれは支配に従わない者たちへの見せしめに近いものだと思っていた…………それがまさか本気で自分が不要と思う人々を処分するつもりだったというのだろうか。


「だ、だけどそんなことをしたら国として成り立たないだろ」


 基本的に国力というのは国民の数に比例する。労働力が多いほど出来ることは増えるし、それだけ多くの国民を養えるという証明でもあるからだ。つまるところそれを粛正するというのは国力を大幅に損なうということに他ならない。


「大半のことは自分達だけで問題ないと考えてる」


 アスガルドとスヴァルトでは労働力の概念が違う。それこそ農業だけであればリーフ一人で国民全員分の食料だって賄えるのだ。


 これまでのアスガルドでは力のある者ほど特権として労働から解放されていた。そのため上位の魔攻士なら簡単に解決できることに力の無い貧民たちが酷使されるという大きな無駄が生じていた。ある意味グエンはその無駄を正しい形に戻したともいえる…………だがその代わりに不要となった無駄な物を処分しようというのは話が別だ。


「だからって」

「グエンにとって余計な国民は不穏分子」

「そんなはずないだろ」


 あれだけの力に下級の魔攻士未満の人間がいくら反抗しても無駄なはずだ。


「正確には、自分と同じような存在が生まれることを危惧している」


 リーフの付け足した言葉にそれならばわかると哉嗚は納得する。機会と違って魔法は才能が全てだ。話によれば血筋関係なく大きな才能を持って生まれることはあるようなので、それを危惧するのはある意味当然だ。


 長老会は呪いによってそれを抑制していたが、グエンは管理する数を減らすことで対応しようというのだろう。


「けどそれで他のやつらは納得するのか?」


 極端な話をすれば権力とは自分が好きに生きるために目指すものだ。その話が本当ならグエンの仲間は権力を得たのに小規模の集団の中で偉ぶることも出来ず労働することになる。普通に考えれば話が違うということにならないだろうか。


「だから奴隷を連れて来るって言ってた」

「奴隷…………?」


 哉嗚はすぐにピンと来なかったが、やがて思い至る。


「それは、俺たちの事か?」


 グエンのような強者が生まれる心配のない労働力…………スヴァルトの国民は当てはまる。


「技術は剝奪して単純な労働力にするって言ってた」

「そいつは素敵な考えだな」


 徹底して自身の脅威となる可能性は潰すつもりらしい。


「それでリーフはそんな考えには反対ってことでいいんだな?」

「…………そう口にしたら殺されかけた」

「それでムスペルから逃げ出したってことか」

「そう」


 こくりと頷きながらリーフは横目で哉嗚を見た…………哉嗚が絡む点についてははしょって話したがその表情には疑うような様子は無くて安堵する。


「アスガルドに残った理由は納得したけど…………リーフ自身にはスヴァルトに思う所はないのか?」


 グエンと決別した理由は分かったが、それでスヴァルトに対する印象が変わるわけでもないだろう。先程哉嗚はリーフに対する警備の人員の印象を口にしたが、それと同じ感情をアスガルドの人間も抱いているはずなのだ。


「特にない」


 リーフにあるのは哉嗚に対する感情だけで、スヴァルトという国にもそこの軍人に対しても思う所は無かった。


「その、本当に?」

「うん」


 信じられないというような哉嗚にリーフは頷く。


「その、戦争で家族や友達が死んだりしてないのか?」

「そんなの最初からいない」


 リーフは生まれてすぐにその力から親元を引き離され魔攻士として育てられた。両親の顔など見たこともないし今どうしているかの興味もない。友達も立場のせいか寄って来るのは媚びを売ろうとする連中ばかりで何の興味も湧かなかった。


「ええと、悪い」

「何が悪いの?」


 哉嗚にとっては聞いて悪く感じることだったが、当のリーフにとってはつらいとも感じていない話でしかなかった。


「…………いや、何でもない」


 それがおかしいとも気づけないような教育をされたのだと哉嗚は理解する。だからその行いの全てを許せるというわけでもないが、同情を覚えないと言えば噓だった。


「…………」

「…………」


 またしばしの沈黙。 


「哉嗚は」


 すると今度は躊躇いがちにリーフが彼の名前を呼ぶ。


「哉嗚の方は私をどう思っているの?」

「それは…………」


 尋ねられて哉嗚は返答に詰まる…………複雑なのだ。以前のように敵として憎んでいるかと言えば今は違うが、かといってそれが好意に変わったわけでもない。

 彼女のことは守ると請け負ったがそれも戦争を終わらせるための任務としての側面が大きい…………だが、以前のように敵対したいと思っていないのも確かだ。


「あー、仲良くしたいと思ってる」


 結論からするとそれが正しいように思えた…………今はまだ、けれど少しでもいい関係を築けるに越したことはないと思っている。


「そう」


 そっけなくリーフは頷く。


「それならいい」


 しかしその言葉はどこか弾んでいるように聞こえた。


 ガタン


「うわっ!?」


 その瞬間に機体が大きく揺れる。


「…………敵襲?」

「ええと、違う…………すまん、ちょっと操縦をミスった」


 もちろんそんなミスは犯していないがそう答えるしかなかった。


 機体のAIを不機嫌にしてしまったようだと、答えられるはずもないのだから。



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