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魔法使いと巨人の戦記 ~人型の敵を巨大ロボで全力でぶん殴るけど蹂躙される話~  作者: 火海坂猫
革命という名の茶番劇

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四話 使者

 果てしない荒野の中をユグドとヴェルグが並走していた。それ自体はもはや見慣れた光景で行動なのだが今回は目的が違う。

 それはいつものような前線の哨戒任務でも防衛もない…………総司令官直々の密命だった。


「宮城中尉は以前に私とした話を覚えておられますか?」

「以前というと食堂でした話ですよね」


 高島からの通信に哉嗚はそう答える。アスガルドでグエンが反乱を起こした直後にそれについての話を二人でした覚えがある。


「あの時私は和平について肯定的な意見を述べましたが…………正直言って今は困惑しています」

「それは僕もですよ」


 スヴァルトとアスガルドはこれまで不俱戴天ふぐたいてんの敵同士だった。ムスペルという共通の敵が生まれたにせよ共闘という可能性が模索されるのはもっと先のことだと思っていた…………それがいきなりあちらから休戦と同盟交渉の使者が派遣されると聞かされたのだから困惑もする。


「それに恐ろしくもあります…………何せ我々はたった二機でその使者を迎えに行くわけですから」


 哉嗚と高島に与えられた任務はアスガルド側の使者の送迎だ。当然相手側の素性も知らされており…………だからこそ高島は不安を覚えているのだろう。


「もちろんこの任務に私たち以外の適役がいないことも理解しておりますし、その為にヴェルグが強化されたことは理解しておりますが」


 任務に当たってユグド同様ヴェルグも改修型へと強化されている。見た目の変化こそあまりないがユグド改修型と同様の金属で装甲が強化されており、ミストルティン程の自由度はないものの兵装も何種かに変形可能なマルチプルウェポンとなっている。


「いや、気持ちはわかりますよ…………正直僕もまたやり合いたいとは思えませんし」


 戦略魔攻士第三位リーフ・ラシル。それが今回派遣されるアスガルド側の使者だ。その名前は哉嗚にとっても因縁深い…………しかし高島に返答した言葉の意味合いは少し異なる。哉嗚が戦いたくないのはその実力的な点ではなく心情的なものに近い。


 あの一戦でリーフ・ラシルという存在は、哉嗚にとってただ憎むだけの相手ではなくなっていた。


「あの女の話ですか」


 そこにユグドが口を挟む。


「あー、高島さんちょっと通信切りますね」

「了解です」


 苦笑したような哉嗚の声色で察したのか、高島は即座に受け入れる。


「ユグド、わかってると思うが…………」

「もちろんです哉嗚…………命令に反した行動はしません」

「信じるぞ」


 ユグドには以前リーフ・ラシルを殺そうとして暴走した前科がある。未だにその理由は教えてくれないしあの場も止まってくれたが…………彼女に良い感情を抱いていないのは変わっていないようだ。


「哉嗚、確かに私の最初の目的はリーフ・ラシルを殺すことでした」


 二人の始まりの日。リーフの名前を口にした哉嗚にユグドは反応し、彼女を殺すことを目的として二人は協力関係を構築した。


「確かに私は彼女に今も良い感情は持てません…………ですが、今は彼女を殺すことが目的ではなくなりました」

「じゃあ、今のユグドは何を目的にしてるんだ?」

「この戦争を終わらせることです」

「っ!」


 予想外の答えに哉嗚は思わず言葉に詰まる。


「私の望みは戦争が終わった後にこそ叶うのです、哉嗚」

「そうか」


 その望みが何なのかを哉嗚はあえて聞かなかった…………何となく教えてくれないような気がしたし、聞かない方がこの戦争を終わらせる楽しみになりそうだった。


「ユグド」


 だから代わりにその名を呼ぶ。


「俺の今の目的もこの戦争を終わらせることだ」


 アスガルドと、そしてムスペルとの戦争を。


「では哉嗚、それが新しい私達の目的ですね」

「ああ」


 頷き、哉嗚は唇を釣り上げる。


「二人でやってやろう」

「もちろんです、哉嗚」


 希望はまだない…………けれど確かにそこに決意だけは結ばれた。


                ◇


 指定された座標近くまで来ると荒野が途切れて森の先端が確認できる。思わず二機が足を止めてしまったのは目的地がその森の中にあるからだ。

 待ち合わせの相手が相手なだけに、その森の中に踏み込むのは怪物の胃袋に飛び込むような感覚を覚えた。


「行きましょうか」

「ええ」


 だが踏み込む他になく、哉嗚と高島は機体を森へと向ける。

 それから数分木々をかき分けて進むと急に空間が開けた…………まるでそこだけが樹木が成長することを許されなかったように草一本無い平地が円状に広がっている。


「…………リーフ・ラシル」


 そしてそれを成したであろう少女がその中心に佇んでいた。

 二人は警戒しながら機体を近づけるが、彼女に魔法を使うようなそぶりはない…………ただじっと二機の内ユグドの方だけを見ていた。


「こちらはスヴァルト軍所属の宮城哉嗚中尉と高島良治少尉です。あなたがアスガルドからの使者で間違いありませんね?」


 三十メートルほど手前で停止して哉嗚は外部スピーカーで呼びかける。


「間違いない。私はアスガルド軍戦略魔攻士第三位リーフ・ラシル…………スヴァルトとの講和交渉の為にやって来た」


 哉嗚の呼びかけに応じるようにリーフが言葉を返した。


「では予定通り私の方へ」

「お願いします」


 使者との会談はスヴァルト側の前線に急遽建設された施設で行われる。そこまでリーフを運ぶのは高島の方だとあらかじめ決めてあった…………その理由は明確で、いざという時にユグドが自由であるためだ。


「私はY-02ヴェルグのパイロット高島です。これよりコクピットを開けて機体を近づけますので搭乗していただきたい…………会談場所までお運びします」

「嫌」

「は?」


 その声ははっきりと聞こえたがゆえに、高島は間の抜けた声を返してしまった。


「失礼、もう一度お願いします」

「嫌だと言ったの」

「そ、それは会談を拒否するということでしょうか?」

「違う」


 首を振り、リーフはユグドを指さす。


「そっちに乗る」

「は!? ですが」


 戸惑うように高島は言葉に詰まった…………まさか正直にリーフを殺せる戦力を自由にさせておきたいとは口にできない。


「心配しなくても私はもう彼に負けている。勝敗の決まった無謀な賭けをするつもりはない…………それにそもそも私は講和の為の使者」

「それは、その通りですが…………」


 確かに哉嗚は彼女を下しているがそれはあくまでユグドの性能あってのもの。高島は哉嗚を信頼しているが、さすがにコクピットでリーフ・ラシルとやり合っても勝てると思うほど夢想家でもない。


「高島さん、受け入れましょう」

「宮城中尉」


 困り果てる高島に、当の哉嗚からの通信が入る。


「しかしよろしいのですか?」


 高島の確認には色々な意味が含まれている。現状の最大戦力である哉嗚を危険にさらすのものそうだが、そもそもユグドがリーフを嫌っていることは彼も知らされていた。前回の戦いでの暴走した旨も聞かされているし、そもそもユグドが受け入れるのかという話でもある。


「僕の印象でしかないですが彼女ははかりごとをするタイプじゃないです…………それにユグドも戦争を終わらせるためだと納得してくれました」

「不承不承です」


 無機質な声質の中にも嫌悪が見える様な声でユグドが口を挟む。


「了解です」


 不安はあるが哉嗚の決定ならばと高島は機体を下げた。その変わりにユグドがリーフに近づいてその腰を下げる…………その後コクピットが開くのが遅かったと感じられたのは気のせいではないだろう。


「上がれますか?」


 本来であれば機体の腕を伸ばすべきだが、ユグドは触れたくもないという雰囲気をしていたので哉嗚はそのままリーフに尋ねた…………それに万が一だがユグドが彼女を握り潰そうとしても困る。


「問題ない」


 答えると同時に足元から木が生えてリーフの身体が持ち上げられる。それは数秒と経たない内に彼女をコクピットの高さまで送り届けて、彼女と哉嗚の視線が合った。


「ええと、補助席が出してあるのでそちらに」

「そんな固い言葉じゃなくていい、私達は見知った間柄」

「…………それはそうですけど」


 イコール親しい間柄というわけではない。


「講和の第一歩」

「…………わかった」


 腑に落ちないが、ここで哉嗚が折れることで交渉が有利になる可能性はある。


「それじゃあ乗ってくれ…………もしかしたら機体のAIがうるさいかも知れないが気にしないでもらえると助かる」

「AI?」

「この巨人機に宿ってる意思みたいなもんだ」


 機会に詳しくない人間に伝えるならそんな感じだろう。


「確かに何かいるのは感じる」


 けれどまるで本当に誰かがいるようにリーフはコクピットを見回す。


「よろしく」

「…………」


 恐らくユグドに向けたであろうリーフにしかし声は返らなかった。


「あー、もしかしたら人見知りをしてるのかも」

「そうなの?」

「気難しい奴でね」


 多分、口を開いたら感情が止まらなくなるから黙ってるのだろうと哉嗚は思った。


「まあ、君を運ぶのには問題ないから座ってくれ」

「わかった」

「…………ちょっと待て」


 なぜだかわからないがリーフは補助席ではなく哉嗚の膝に座っていた。


「君が座るのはここじゃない、あっちだ」

「駄目なの?」

「操縦の邪魔になるから勘弁してくれ」


 本当はユグド任せでも問題ないのだがそういう事にしておく…………そもそもそうじゃないと肝心のユグドが何をするかわからない気がするのだ。


「仕方ない」


 何が仕方ないのか知らないが、リーフは大人しく補助席へと移る。それを確認して哉嗚はコクピットのハッチを閉じて高島へと通信を送った。


「出発しましょう」

「了解です…………問題はなさそうですか?」


 当然であろうその質問に、哉嗚は脇に備え付けられた補助席へ座るリーフの姿を見やる。興味深げにコクピットを見回しているものの、あまり落ち着かないのか委縮したように膝を抱えていた。


「多分、大丈夫です」


 その姿は、とても戦略魔攻士第三位には見えなかった。

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