プロローグ~第1章
やっと主人公産まれました。
誕生
ブライトリング城
無事に赤ん坊を取り上げたヘレンは、助産婦に赤ん坊を預けながら
「元気な、女の子です。
身体を洗って、素早く処置をして!
もう一人いるの、双子だから、みんな焦らず迅速に対応してね。」
と言った瞬間、部屋の中の空気や、雰囲気が変わった。
何が変わったのかは判らない、だが確かに変わったのを感じた時、耳元から頬の辺りへと花の香りのような薫香が、そよ風の様に漂ってきた。
香りのする方向に思わず顔を向けてみたけれど、何の変哲もない室内の風景と、これから、産湯に浸かろうとする赤ん坊と、助産婦達の姿が見受けられた。
気を取り直し妊婦のマーガレットの方に向き直ると、開かれた膝の間にいたはずの自分の位置が違う。
開かれた膝から、約一間程ずれている事に気が付いた。
不思議に思いながらも、元の位置に戻ろうとした時ヘレンとマーガレットの間の空間、丁度、ヘレンの顔の高さから、鈍く白い光の靄が湧き初めた。
まず、ぼんやりと1メートル位の円形になり、その中心の光がゆっくりと強くなり、強くなった光の中に人の脚が見えた。
そして、その光りの中から脚がゆっくりと床に向かって降りていくにしたがい、膝から腰そして、胸から頭までが、はっきりと現れた。
そこには、薄く虹のような七色の光と純白のドレスを纏い聖母の様に深い優しさを感じさせる様に、和かく微笑む女性が降臨した。
部屋の中居た女医のヘレン、助産婦達、そして妊婦のマーガレットまでもが、何が起こったのか解らず、部屋の中の時が止まった様に呆然とする中、その女性が微笑みながら、優しく告げる。
「私は、天界に住まう、神龍です。
これからする話しは、部屋の外の男性陣にも私の念話を通して伝わります。
この国や、近隣の諸国の未来に関わる重大な事ですので、これから降臨する、女神フォルトゥーナの話を聞いて下さい。
そして、彼女の話の後、部屋の外の王族達とも、よく話し合って、この先の対応を決めて下さい。
マーガレットとアレックスには、辛い選択になるかも知れませんが、心して善き決断をする事を私は、望みます。」
微笑みを絶やさず話し始めた神龍も話し終わりのあたりでは、申し訳無さそうに少し目を伏せていたが、話し終わると、神龍の右手に光が集まり
軽く右手をひねりながら、ゆったりと掌を身体の横で上に向けると、鮮やかな光りの輪が現れた。
「権現せよ!」
と静かに神龍が光りの輪に語りかけると、その光輪の中から、
女神フォルトゥーナが現れた。
一同は、フォルトゥーナの降臨により発せられた神々しい神気にあてられ、次々と膝ま付き首を垂れた。
まるで、それを待っていたかの様に、フォルトゥーナは、静かに話し始めた。
「皆様、私は、人の運命を司る女神フォルトゥーナです。
先ずは、アレックスさんマーガレットさん、
新しい生命の誕生、心より祝福をします。
元気で健やかに育つ様に心ばかりの加護をさずけましょう。
さて、本題に入りますが、皆さん、300年前の白の魔王の事を覚えておいででしょうか?
今まさに、白の魔王が目覚めの時を迎えようとしています。」
皆は、その瞬間に、「まさかそんな事が!」と、言葉を発する事も出来ずに身体中から、血の気が引くのを覚えた。
「そこで、この世に一人の救い主を遣わす事にしました。
それは、アレックスさんマーガレットさん、貴方達の子供です。
先に産まれた、女の子ではなく、この後、産まれて来る、男の子です。
その子に、白の魔王に対抗できるだけの加護と守護や祝福を与えます。
しかし力を与えるだけでは、その力に振り回されてしまうかも、知れません。
それに、それだけの力は、産まれて直ぐに与えなければ、上手に制御が出来ないでしょう。
幼い頃より力と共にあり、成長と共に自然に力と馴染まなければ、膨大な力に振り回されて、第二の魔王と成るかも知れません。
ですから、神格のある者の手で、善き心、正しき眼、慈愛に満ちた魂を育てようと思います。
これ等の事を考えると、人の中で育てるのは、困難を極めるでしょう。
産まれたばかりの、赤ん坊を両親から引き離すのは、考えただけでも、心苦しいのですが、この世界の為に、私達に、その子を引き取らせては頂けないでしょうか?」
フォルトゥーナが、ここまで話し終えた時
「マーガレット、寂しいだろうが、幸いにも、産まれてくる子供は、双子で、うち一人は、ちゃんと手元で育てる事が出来る、ここは、この王国、そして、世界の為、女神様の言う通りにする事は、出来ないだろうか?
お腹を痛めて産んでくれた、君には、辛い選択になるだろうが、この国の為と、大義名分の前に、産まれたばかりの 我が子を、差し出せと言う私を、人でなしと罵ってくれても構わない。
私は、父上が愛していたこの国を、守りたいのだ。
それに、この国は、これから、私が、弟の様に想っているマリウスを国内に迎えようとしている、だから……だから………………」
既に涙を流し、息も荒くアレックスは、言葉を発する事が出来なくなっている。
マーガレットは、 「あなた。」 と一言発した後、直ぐには、返事せず 少しうつ向いて、産まれたばかりの女の子の方を向き、次に愛おしそうに、これから、産まれようとする我が子がいる自分のお腹を撫でながら。
「可愛い私の、赤ちゃん。」
と呟くと、頬に一筋の涙が溢れた。
そして、しばらくフォルトゥーナと神龍を見詰め
「この子は、辛い目にあうのでしょうか?
お役目が終ったら、私達の許に帰って来てくれるのでしょうか?」
震える声で そう尋ねると
「大丈夫です。
貴方達の子供は、地上の神龍様が成人するまで責任を持って育てて下さいます。
そして、この子が才能に恵まれ ある程度 力の制御を覚え、健全に育てば、きっと成人する前に合間見える事も出来るでしょう。
そして、もし命が危険に晒される様な事があれば、神の摂理に反しますが、私が命を掛けてでも、この子を守りましょう。」
フォルトゥーナではなく、神龍が返事をした。
マーガレットは神龍の返事を聞くと、顔を上げて神龍を見詰めた。
絶えず微笑みをうかべる表情とは裏腹に、その瞳には決意ともいえる強い光やどっていた。
マーガレットは神龍の決意に気圧されたけれど、少し間をおいて、
「それでは、女神様、私の赤ちゃんを宜しくお願いします。」
マーガレットの言葉に 部屋の外では、男性陣の中では、
現王のマークがアレックスの正面にまわり。
「すまない。
儂達に出来る事が あれば何でも言ってくれ。
この国の、いや世界の為に、産まれたばかりの、我が校を差し出す そなたの為なら、儂に出来る事は、何でもさせてくれ。
アレックスよ、そなたの、この国を愛する心に、私は、何としてでも報いたいのだ!」
と現王の言葉を聞き、宰相のケインと王太子のマリウスが、左右からアレックスの肩を抱き
「「私達にも出来る事はないか?」」
と尋ねると、それまで、空気だった五人の王族達もアレックスの周りを取り囲んだ。
「ではマーク国王、これから、産まれる我が子の為に、良い名前を付けて頂けないだろうか?
我が子を見送る時に名前を呼んでやれないのは、親として心苦しいのでな。」
涙をこらえながら、震える声でアレックスは、国王に頼んだ。
「そんな事で良いのか?
そなたらしい頼みじゃが……」
そう言うと、少しの間 眼を瞑り
「よし、マリウスに世継ぎが出来たらと思っておった名前を授けよう。
エドワードと言う名前はどうじゃ?」
マークが、エドワードと名前を告げると、アレックスの頬に涙の筋が伝い
「良い名前を ありがとうございます。
マーガレットよ、その子の名前は
エドワードだ、国王のマーク国王が名付け親だ、よいな!」
「王様、ありがとうございます。」
マーガレットが哭きながらそうつげると。
「ハクタイセイ様、宜しいですか?」
フォルトゥーナの声に優しく微笑むハクタイセイは、マーガレットのそばに寄り
「マーガレットよ、そなたと、そなたの子供には、辛い運命を背負わせてしまったな。
せめてもの、私の気持ちだ。」
ハクタイセイは、自分の耳から、七色に輝く羽の耳飾りをはずしマーガレットの手に渡した。
「それは、私が幼い頃、私の翼に生えていた羽です。
貴方の家族に何か有った時、何かしら力になるでしょう。
では、フォルトゥーナよ、子供を取り上げますよ。」
ハクタイセイのその声に、女医のヘレンが我に返り、マーガレットの足元に近づこうとしたとき、ハクタイセイがマーガレットのお腹に顔を近付け
「坊や出ておいで。」
と、声を掛けると、マーガレットのお腹が、光に包まれ、その光が緩やかに上昇を始めハクタイセイの胸の高さまで上昇すると、ハクタイセイは、両手で、優しく包み込む様に抱きしめ、マーガレットの胸の上に、そっと降ろした。
そして、マーガレットの背中に手を回し上半身を起こして
「貴女の、子供エドワードだよ、マーガレット。
エドワードに お乳を飲ませてあげて下さいますか?
貴方とエドワードにとって、最初で最後の授乳になるので、お腹一杯飲ませてあげてね。
これから、しばらく会えないのは辛い事ですが、貴方のお乳を飲む事が、この子のこの世界での初めてのお仕事で、あなたにとっては、初めて産まれた子供と絆を結ぶ儀式なのです。
この子が、お腹一杯になったら、笑顔で送り出してあげて下さいね。」
優しくハクタイセイは、子供をあやす様に、マーガレットに囁いた。
やがて、お腹一杯になったエドワードは、母の乳房から口を離しフォルトゥーナへと手渡された。
「ではハクタイセイ様、お願いします。」
フォルトゥーナの声に、ハクタイセイは、お腹一杯になり、フォルトゥーナの胸に抱かれ寝息を発てるエドワードの額に軽く口付けをした。
その瞬間、ハクタイセイの身体の周りを覆っていた七色の光にエドワードも包まれ、ハクタイセイがエドワードの額から、唇を離すと、その光は、エドワードの身体の中に吸収される様に消えていった。
「今、この子に神龍の加護をあたえました。
外の方々、こちらの部屋に入って下さい。
別れの前に、この子の顔を見てあげてくださいね。」
フォルトゥーナの呼び声に部屋の外の王族が、恐る恐る、部屋に入り、フォルトゥーナとハクタイセイに深々と頭を下げて、フォルトゥーナの胸に抱かれたエドワードの顔を見詰めるなか、アレックスは、感極まって
「一度、私にもエドワードを抱かせて頂けないでしょうか?」
フォルトゥーナに尋ねると、優しく微笑んで
「貴方の子供ですよ。」
とアレックスに抱っこさせた。
少しの間、我が子と触れ合ったアレックスだったが、既に涙腺を崩壊させながら、
「これ以上は、別れが、辛くなります。」
とフォルトゥーナにエドワードを託すと
誰かが、
「お前、もう涙腺崩壊してるじゃねぇか!」
その軽口に、マーガレットと国王のマーク、宰相のケイン、王太子のマリウス、笑いながら、涙をながした。
「では、皆様の笑顔のうちに。」
ハクタイセイが言うと、フォルトゥーナとハクタイセイが鈍く光だし、段々光が強くなり二柱の女神が光の中に溶ける様に姿が見えなくなる最中、フォルトゥーナの胸に抱かれたエドワードの右腕がバイバイする様に動くのが、部屋に居た全ての眼に焼き付いた。
少し身体の調子悪いので、いつもなら、読み直して誤字、脱字など無いか調べるのですが今回は、きついので、もう寝ます。後日確認作業しますので、もしかしたら、かなり手直しが入るかもです。
それから名も無き王族の人々、少しだけ存在感でましたね。もしか、気が向いたら 後のストーリーに登場するかも知れないですね。
そうアレックスに軽口を叩いたひと(笑)
これから暫く主人公の、後の性格などに係わるエピソードを盛り込む予定の、幼年期へと物語は進んでいく予定ですが、上手く舵を切れるか、あまり自信がありませんが、頑張って行こうと思います。
最後になりましたが、ここまで読んで頂き誠に、
ありがとうございます。




