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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
三人組高校に行く。編
98/161

天体観測の夜。その4。

挿絵(By みてみん)

『人には、他人に知られたくない楽しみや秘密があるのです』

 一号機さんが言った。

『よいですか。この情報はあなたたちの胸三寸に納め、時々思い出してニヤニヤ笑う腹黒い楽しみだけにしておくのです。それでは、同田貫組に栄光あれ』

 そう言われても……。

 だいたい、そう思うなら聞かせないでください。インパクトすごかったものなあ……。

 歌仙(かせん)くんと千両(せんりょう)くんが抑えきれない笑いに苦しんでいるところに、鳴神(なるかみ)くんののんきな声が聞こえてきた。

「あ、お帰りなさい、スミレ先生」

 ――うおい、突っ走る馬鹿!

 ――やめて、突っ走る馬鹿!

 昇降口で西織(にしおり)先生が口をパクパクさせている。

「スミレ先生、なんともなかったの? そりゃよかったね、ポロ子さん」

 鳴神くん、今度は長澤(ながさわ)露穂子(ろほこ)さんに声をかけた。

 露穂子さんが髪を逆立てた。

「来い!」

「来て!」

 鬼の形相の二人に引きずられ、満面の笑顔の鳴神くんが校舎の中に消えていった。


 無茶しやがって……。


「手伝おうか」

 千両くんが声をかけた。

 高梨(たかなし)春美(はるみ)さんが、小さな体で望遠鏡を動かそうと苦労していたのだ。

 天文ドームの中には巨砲三〇センチ反射望遠鏡が鎮座しているが、それ以外にも小型の天体望遠鏡が何機か倉庫に納められている。高梨さんが動かそうとしていたのは六・五センチのコンパクトなセミアポ屈折望遠鏡だったが、それでも高梨さんには重すぎるようだ。

「……」

 聞こえているはずだが、高梨さんは返事をしない。

「先生からも言われたんだ。望遠鏡を屋上に出すのは男子に任せるって。ぼくがやるよ」

「いいの」

 やっと反応が聞けた。

 考えてみれば、これが彼女から聞けた初めての返事かもしれない。この頃、けっこうアプローチしているのだけど。

「これは私の望遠鏡なんだから」

 高梨さんが言った。

「えっ、そうなの?」

「……」

「へえ、自分の望遠鏡をここに置いていたのか。それって家でも見たくならない?」

「だーかーらー」

 なぜかわからないが、高梨さんがキレている。

「これはお兄ちゃんの高校時代の望遠鏡で、だから私ので、私のじゃないけど、私のもののようなもので、お兄ちゃんって先生よ、長澤先生。私も小さい頃からこの望遠鏡で星を見ていて、だからほら、ここに私のシール貼ってあるし、そうなの!」

 聞いていて、頭の中で「ぐらんぐらん」と派手な音を立ててなにかが転がっているような気分になったが、まあ、ここは千両くんも落ち着いて考えてみる。

「そうか、高梨さんのお気に入りの望遠鏡なんだ」

 すばらしいまとめです、千両くん。

「そうなの!」

「だから、他の人に触ってもらいたくなくて、自分で運ぼうとしてたんだ」

「……」

「違うの?」

「そう」

「違うんだ」

「違うの、そうなの、そう! これは私のなの!」

 千両くんが、にいっと笑った。

「運ぶくらいならいいだろ。高梨さんの好きな場所まで、ぼくが持っていってあげるよ。触っていいかな」

 千両くんが望遠鏡に触っても高梨さんは反応しなかった。

 大丈夫だと判断して千両くんは望遠鏡を持ち上げた。

 高梨さんは、ちょっと驚いたようだ。

「チビのくせに!」

「あのなー、高梨さんだってチビだろ。どこがいい?」

「私は背の高い人と結婚して、普通の身長の子を産むんだからいいの!」

 そう言い放つと、高梨さんは倉庫から飛び出してトトトと走っていった。そして屋上の端のほうまでいって立ち止まり、どんどんと足を踏みならしはじめた。

「ここよ! ここ! はやく!」

 千両くん、苦笑いをひとつこぼして望遠鏡を持って歩き出した。


「いやあ、よかったわー」

 げっそりとした顔の西織先生と長澤露穂子さんを従え、満足した笑顔で鳴神くんが帰ってきた。

「美女ふたりにステレオで罵られて、懇願され、泣かれてさ。堪能、堪能」

「鳴神、おまえがモテそうでモテない理由が、なんだかわかってきたぞ」

 歌仙くんが言った。

「そう?」

 鳴神くんが豪快に笑った。

「おい、ちょっと待て」

 長澤先生が、きつい方のトーンで声をかけてきた。

「あ、先生。そろそろ三〇センチ動かそうぜ」

「いつでも動かせる。とうに外の空気にも馴染ませてあるからな。それより鳴神くん。君、露穂子に罵られたというのか?」

「うん。理由は先生にもちょっと言えないけどさ」

 にっこにこしながら鳴神くんは答えたが、長澤先生の様子がおかしい。

「どうしたの、先生」

「なんでもない」

 なんでもない、というトーンではない口調で言って、長澤先生は背を向けた。

 鳴神くんと歌仙くんが顔を見合わせていると、

「長澤はシスコンだよ、重度の」

 屋上の床にへたり込んでいた西織先生が言った。

「やめてください」

 同じようにへたり込んで背中をくっつけていた露穂子さんが言った。

「だって、そうじゃん。しかも被虐趣味が混じった……」

「やーめーてー…」


 巨砲三〇センチが長澤先生の操作で動き始めた。

 はじめは義務のように接眼レンズを覗いていたチーム井原も、土星や木星が視野の中に入れられると歓声を上げて喜んだ。星雲星団の順番になるとさすがに興味のない人には中途半端な反応しか期待できないが、オリオン星雲を覗く井原先輩が頬を染めて表情を輝かせていたのは天文部にとっては嬉しい。

 一通り見たチーム井原が地学室に引き上げていくと、

「さて」

 と、長澤先生が改まった口調で言った。

「さっき、ぼくはちょっと不愉快になったのでどうしようかと思ったんだけどね。まあ、次にこの星を見る機会は冬になる。やはり今のうちに見せておきたい」

 望遠鏡を制御しているノートPCに、長澤先生が座標を入力した。

 動き出した望遠鏡が止まったのは、西の、もう沈みかけている方向だ。

「覗いてごらん。特に君たち男子三人だ」

 まず最初に覗いてみた鳴神くんは首をひねっている。

「中央だ。中央の星だよ」

「わかりません。散開星団って訳でもないみたいだし」

「中央の五等星。それがえっち星だ」


 あっ、と。

 三人は息を呑んだ。


「これだ」

 三〇センチ反射望遠鏡には八センチの屈折望遠鏡がサブ望遠鏡として載せられていて、それにはビデオカメラがつけられている。ノートPCに出力された星野画面の中の星のひとつを、長澤先生はボールペンの先で差した。

「正確には、えっち星がまわる恒星、だな。えっち星の太陽だ」

「わかんないや」

「こんなに小さいのか、うちんとこの星」

「しょうがないさ。太陽だって君たちの星から見れば、おなじくらいの小さな星だよ」

「そうか……これがおれたちの星か……」

 ドームの中に残っていた露穂子さんや高梨さん、西織先生はだまって見守っている。

 三人の中で最初に涙を落としたのが鳴神くんだったのは、意外なのか、それともむしろ彼らしいのか。歌仙くん、千両くんの目からも涙が落ちた。

 モニタに映るその星を見て、三人はただ涙を流している。

「帰りたい?」

 長澤先生が言った。

「帰る機会はあったんだ。でも、おれたち孤児院出身で、星にあまりいい思い出ないしさ。こっちでの生活の方が、おれたちでいられる気がしてさ。だから残った。よかったよ。こうして高校にも通えて、みんなとも楽しくやれて、ぜったいに今が幸せだ。でも……」

 涙を拭って、鳴神くんは笑顔を見せた。

「なんだか、来るもんだね。あらためて自分の星見るとさ」

「よくわからないけど、もっと頑張らなきゃって思った」

 千両くんが言った。

「うん、おれもだ。おれもそう思った。ありがとう、先生。見せてくれて」

 歌仙くんも言った。

「それじゃ、夜食の時間まで、自由時間だ。ドームにはぼくがいる。リクエストにも応えてあげる。気ままに星を見たいなら、双眼鏡や倉庫から出した望遠鏡を自由に使ってくれ。三年生の美人さんたちと仲良しになりたいなら、地学室だ」

 長澤先生が言った。

 鳴神くんや千両くんはまだドームに残るようだ。

 歌仙くんだけドームの外に出た。


 そこに井原先輩がひとりで立っていた。


「地学室に行ったんじゃなかったんですか?」

「アンドロイドたちとトランプしてる、二人は」

「今の話、聞かれちゃったですね」

「うん、でもうわさには聞いていたから。あなたたちは宇宙人だって」

 歌仙くん、少し意地悪を起こして井原先輩の言葉を使って聞いてみた。

「幻滅した?」

「ううん」

 井原先輩が首を振った。

「とっても神秘的。でも、ごめんね、ちっともそう見えない」

「おれたちもときどき忘れます」

 歌仙くんの言葉に、井原先輩は今までの美人さんな笑顔とは違う、ちょっと子供っぽい笑顔を浮かべた。


 ああやばい。

 この人、ホントにむちゃくちゃ魅力的だ。


 歌仙くん、自分の惚れっぽさに呆れてしまうのだった。


■主人公編。

鳴神 陸。(なるかみ りく)

えっち星人。宙兵隊二等兵。艦長付。

三人組の一応のリーダー。ケンカ自慢。突っ走るアホ。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人。宙兵隊二等兵。副長付。

美形で芸術肌な、ミニ清麿さん。美術部。


千両 空。(せんりょう そら)

えっち星人。宙兵隊二等兵。機関長付。

小柄で空気を読まない毒舌の天然少年。


■学校編。

長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


高梨 春美。(たかなし はるみ)

地球人。高校一年生。天文部。ハルちゃん。

小柄でボブでちょんまげ付きなので、座敷わらしと言われてしまう。長澤先生が好き。


広田 智。(ひろた さとる)

地球人。高校一年生。美術部。サトル。

歌仙くんの友達。普通っぽいアホ。


井原 優子。(いはら ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。

板額先生と双璧の美女だが、歌仙くんらぶ。

 松田 詩織。

 中沢 弓子。

 井川さんの親友ふたり。


長澤 圭一郎。(ながさわ けいいちろう)

地球人。地学教師で天文部顧問。露穂子さんの兄。三〇歳。

飄々とした人。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本 瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


山本 一博。(やまもと かずひろ)

山本先生の夫。長澤先生の友人。この人も別の高校の物理教師。


■同田貫組周辺編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


同田貫 正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。同田貫組組長。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

長曽禰 ロボ子。(ながそね ろぼこ)

雪月改二号機。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公だが、番外編では性格が変わる。よりひどくなると表現してもいいかもしれない。番外編では、露穂子さんがいるため「二号機さん」で統一。


一号機さん。

雪月改一号機。マスターは同田貫正国。マスターからは弥生さんと呼ばれる。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。和服が似合う。通称因業ババア。


神無。(かむな)

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

二号機さんを「先輩」と呼び、二号機さんからは「後輩」と呼ばれる。雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


板額。(はんがく)

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。護衛としてえっち星に渡ったので世界的な有名人。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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