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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
三人組高校に行く。編
97/161

天体観測の夜。その3。

挿絵(By みてみん)

 すっかり暗くなった。

 地学教室は二号機さんと神無(かむな)さんに任せて、とりあえず全員で屋上に移動することになった。

「夜食、鍋だって。楽しみだねー」

「バーナーでちまちまとお湯わかして、順番に食べるカップラーメンもいいものだがなー」

「先生、ドームの格納庫にあった小型の天体望遠鏡は自由に使っていいの?」

「ああ、あれを屋上に出すのは男子に任せよう。けっこう重いんだ。今年は男子生徒が多くて助かるよ」

 露穂子(ろほこ)さんと高梨(たかなし)さんは無言だし、チーム井原(いはら)先輩はヒソヒソ話だし、夜の廊下には同田貫(どうだぬき)三人組と長澤(ながさわ)先生の声だけだ。

 そこに、西織(にしおり)先生の良く通る声が響いたのである。


「ねえ、ポロみんさん。これなんだけど……」


(ポロみん?)

(ポロみん?)

(ポロみん?)

 そこにいたみんなが西織先生を見た。

 誰を呼んだのかわからなかったし、そもそもそれはなんなのだと。


 西織先生が手にしていたマグライトが音を立てて廊下に落ちた。


「ご、ごめんなさい……」

 西織先生の顔は真っ青だ。

 みなが西織先生に注目している中、ひとりだけ背中を見せたままの人がいる。

 まるで油のさしていないアンドロイドがギシギシと音を立てて動くかのように、ゆっくりと顔を向けてきたのは露穂子さんだ。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 涙目で西織先生が繰り返している。

 再びギシギシという音が聞こえてきそうな動きで、露穂子さんは体を元に戻した。


 落ちたマグライトは、幸い壊れていなかった。


 ちなみに、そのマグライトは光の収束性の高いもので、星を差すのに使うものだ。天体観望会に参加したことがある人なら見たことがあるだろう。

 昇降口のカギを開け屋上に出ると、そのマグライトを使った長澤先生の春の星座教室が始まった。


「ねえ、歌仙(かせん)くん。ちょっと」

 チーム井原のひとりが歌仙くんのジャージの裾を引っぱった。

 たしか松田という、この人も美術部の先輩だ。

 面倒くさいことになりそうだ。

「先輩方さ、春の星座知ってる?」

 そこに、鳴神(なるかみ)くんが声をかけてきた。

 松田さんはきょとんとしている。

「いいえ、知らない」

「だったらさ、ちゃんと先生の話を聞いておきなよ。基本的に天体観望って星座の名前で位置を示すんだ。あと、星座を覚えておけば、あとで彼氏や友達にかっこつけられるかもよ」

 やんわりと注意されているのは松田さんにもわかったようだ。

 ただ、ひっこみがつかない。

「先輩は何座?」

「し、獅子座」

「ラッキーじゃん。長澤先生がちょうど獅子座の話をしてる。そっちの先輩は? ああ、残念。射手座は夏の星座なんだ。冬の星座ならまだ残ってるんだけどな。ほら、先生の話を聞きにいこうよ。せんせー、この人、獅子座だって。もう一度話してやってくんない?」

 鳴神くんはたちまちチーム井原のふたりをとりこんで、そのまま連れていってしまった。ちらりと歌仙くんにウインクをおくって。

「あれで、彼女ができないっていつも愚痴ってんだから、不思議だよ」

 歌仙くんがつぶやくと、

「ええ、あなたよりかは、女の子の扱いがわかってるみたい」

 井原先輩の声が背中から聞こえてきた。

 すぐ後にいる。

 これは、ちょっとした緊張だ。

「天体観測会にまでおしかけてきて、しつこいとか思ってるんでしょう」

 思っているが、言えるわけがない。

 まだなにか言ってくるかと思ったが、井原先輩はそれ以上なにも言わなかった。しかし、そのまま背中にいる。

 少しイラっとした歌仙くんは、思わず言ってしまった。

「先輩、おれと話したことなんか、なかったじゃないですか」

「うん」

 あれ、そんな素直な返事をされると調子狂うんだけど。

「おれが先輩のことを知らなかったのが、腹立たしいだけなんでしょう?」

「うん」

 あ、また。

 ただ、今度は井原先輩が言葉を続けた。

「でも、そこから始めたっていいじゃない」

「……」

「ちょっとかわいいと思った一年生をからかうつもりだったのが、逆に恥をかかされちゃってくやしいとか。三〇歳のおばさんに負けそうだってのが許せないとか。そんなことから始めてもいいじゃない」

「……」

「あとであなたのことをいろいろ知って幻滅しちゃうとしても、今の私はあなたが気になってる。それだけ」

 やばいな。

 歌仙くんは思った。

 まずいよ。

 この井原先輩ってひと、おれ、すごく好みかもしれない……。


 闇の屋上をコソコソと動いている影は西織先生だ。

 そろそろと音を立てずに昇降口のドアを開けたところに、声が飛んできた。

「西織先生」

 露穂子さんだ。

 今度は西織先生が、ギシギシと音を立てるかのように振り返った。

「どこに行くつもりです。もう七時過ぎましたよ。ロックがかかって外には出られません。勝手に出たら警備会社案件ですよ」

「昨日飲みすぎて体調悪いから、地学室で横になろうかなーって……」

「あら、ウワバミと評判の西織先生もお年ですね。私が付き添いましょう」

「いりません……」

「そうおっしゃらず」

「いりません……」

 二人の姿は校舎の中に消えた。


 あれ、西織先生の姿がないなと探していたところだった。

 歌仙くんの携帯に着信があった。

 同時に鳴神くん千両くんのところにも電話があったようだ。

『因業ババアの一号機でございます』

「はあ」

『さきほど、面白い情報を手に入れました。あなたがたの学校生活に資するものと判断し、録音をお聞かせします。西織先生と長澤露穂子さんの会話です。くれぐれもよそに漏らさぬよう。聞いたら忘れますよう。では。同田貫組に栄光あれ』

「はあ」

「はあ」

「はあ」


「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません、もうドジ踏みません!」

 聞こえてきたのは西織先生の声だ。

「だって、露穂子ちゃん、ジャージで、私もジャージで、なんだかシュラバの夜の気分になったんだもん。わかるでしょ、ねえわかるでしょ!?」

「言い訳はいい」

 露穂子さんの声は、極限に冷たい。

「あなたにはしかるべき制裁が必要だ。私がこのボタンをクリックすれば、あなたのペンネームと本名と職場と今まで書いたBL本のタイトルリストがツイッターおよび某巨大掲示板、某画像掲示板にばらまかれる。それはなんども警告したはずだ……」

「やーめーてー、露穂子ちゃん、それだけはやめてーー」

「この反逆者。私が手取り足取り耽美の世界を教えてやったのに、その恩を忘れ、人前で私をペンネームと呼ぶなどと……」

「いやーー、お願い、私まだ無職になりたくないーー」

 なにをやっているのだ、この二人は……。

『先輩、先輩、ネットで面白い本見つけましたよ』

『ほう、さすがは無駄にネットワーク技術が強化されている後輩です。なにを見つけましたか。私にも見せなさい』

 なんか、変な声も混ざってきた。

『ペンネーム「スミレ・せぷてんばー」さん作。『女装地獄』』

「うぎゃああぁぁ!」

 この絶叫は、推定するに西織先生のものだろう。

「やめてーー! 読まないでーー! なんでそれだけで私の本だとわかっちゃうのよーー!」

『長澤露穂子さんのスクリプトを、ちょこっと解析しちゃいました』

『さすがです、後輩。西織先生、何を情けないこと言っているのです。あなたが創作し販売した、我が子とも言える作品ではないですか。おおお、後輩!後輩! この美少年、自分から「抱いてくれなきゃダメだよ」とか言い出しましたよ!』

「いやーー!」

『先輩、先輩、ペンネーム「ポロみん」さんの『キンタマとオレとは同期の桜』も過激ですよ!』

「ひいやゃあぁぁ!」

 この素っ頓狂な絶叫は長澤露穂子さんのものだろう。

『受け狙いですか、受け狙いですか!』

『「キサマのそのねじ曲がった根性、オレのこの精神棒で衝いてやる!」「ああっ! そんなものでオレが屈するとでも……あぁ、やめろぉっ!」「くく……たまらんぞ、その気丈な目……はたしていつまで持つかな!」』

「読まないでーー! やめてーー!」

『ネットの海は広大です、後輩……』

『ネットの海は広大ですね、先輩……』


 ほんと、なにをやってるんだろう、この人たち……。


 流れ星ひとつ。

 一号機さんは澄ました顔でお茶を飲んでいる。


■主人公編。

鳴神 陸。(なるかみ りく)

えっち星人。宙兵隊二等兵。艦長付。

三人組の一応のリーダー。ケンカ自慢。突っ走るアホ。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人。宙兵隊二等兵。副長付。

美形で芸術肌な、ミニ清麿さん。美術部。


千両 空。(せんりょう そら)

えっち星人。宙兵隊二等兵。機関長付。

小柄で空気を読まない毒舌の天然少年。


■学校編。

長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


高梨 春美。(たかなし はるみ)

地球人。高校一年生。天文部。ハルちゃん。

小柄でボブでちょんまげ付きなので、座敷わらしと言われてしまう。長澤先生が好き。


広田 智。(ひろた さとる)

地球人。高校一年生。美術部。サトル。

歌仙くんの友達。普通っぽいアホ。


井原 優子。(いはら ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。

板額先生と双璧の美女だが、歌仙くんらぶ。

 松田 詩織。

 中沢 弓子。

 井川さんの親友ふたり。


長澤 圭一郎。(ながさわ けいいちろう)

地球人。地学教師で天文部顧問。露穂子さんの兄。三〇歳。

飄々とした人。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本 瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


山本 一博。(やまもと かずひろ)

山本先生の夫。長澤先生の友人。この人も別の高校の物理教師。


■同田貫組周辺編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


同田貫 正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。同田貫組組長。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

長曽禰 ロボ子。(ながそね ろぼこ)

雪月改二号機。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公だが、番外編では性格が変わる。よりひどくなると表現してもいいかもしれない。番外編では「二号機さん」で統一。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


神無。(かむな)

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

二号機さんを「先輩」と呼び、二号機さんからは「後輩」と呼ばれる。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


板額。(はんがく)

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。護衛としてえっち星に渡ったので世界的な有名人。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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