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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
三人組高校に行く。編
96/161

天体観測の夜。その2。

挿絵(By みてみん)

井原軍団。

「これなのか?」

「これなんだろうな」

 長曽禰(ながそね)家では、どん兵衛を睨みながら虎徹(こてつ)さんと宗近(むねちか)さんがうなっている。


「わあ。お弁当用意してきたんだけど、このカレーもすごく美味しそう」

 ジャージ姿の井原(いはら)優子(ゆうこ)先輩が席に着いた。

 西織(にしおり)先生と双璧をなす三年生の美女。

 長澤(ながさわ)先生は妹の露穂子(ろほこ)さんを見た。

 珍しく困惑した表情で露穂子さんは顔を横に振った。座敷わらし高梨(たかなし)さんは露穂子さんの背中に隠れ、今にも消えてしまいそうだ。

『美味しいですようっ。ここでは温めただけですが、半日コトコト煮こんできましたようっ』

「うふ、それはぜひ頂かないと」

 にっこりと井原先輩が微笑んだ。

「いや、ちょっと待ってくれ」

 長澤先生はメガネのブリッジをさかんに弄り、落ち着こうと努力している。

「君は三年二組の井原優子さんだね」

「はい、長澤先生」

「なぜ、君が、ここにいるのかな……?」

「同じ美術部の歌仙(かせん)くんもいます。私だけダメなのですか?」

「彼は保護者の同意書を提出している」

 井原先輩は足元に置いたバッグから同意書をとり出した。

 奪うようにそれを受け取り、長澤先生は書かれている電話番号を携帯に打ち込んだ。

「あ、恐れ入ります。天文部顧問をしております長澤と申します。実はおたくのお嬢さんが、ええ、はい――あ、はい。……ええ。……はあ。……はい、もちろんです。それでは失礼します」

 三人組と露穂子さん高梨さんが固唾を呑んで注目している中、長澤先生は電話を切った。

「彼女はたしかに保護者の許可を取っている」

 長澤先生が言った。

「だが、君のお母さんは、同級生二人といっしょだから許可したといったぞ!」

 増えている。

 井原先輩の両隣に、同じくジャージを着た女生徒がふたり増えている。そして増殖したふたりも手際よく同意書を掲げている。長澤先生が「イリュージョンかっ!」とあごを落とした。

「松田さんと中沢さんは、私の両親からとても信用されているお友達です」

 井原先輩が勝ち誇った笑顔で言った。

 そのつもりはないのかもしれないが、美人なのでそう見えてしまう。

 長澤先生は沈黙した。

 必死に考えているのだ。

 ちらりと、三人組というよりたぶん歌仙くんを見たのには、それが意味するニュアンスに歌仙くんはちょっとだけ傷ついた。

「わかった。もともとこの観測会は天文部主催で天文部に限るというわけじゃない。できれば金曜までに届け出て欲しかったけどね。ただ、こちらも――」

 長澤先生は携帯でまたどこかに電話した。

 背中を向けてしゃべり出した口調が、普段の長澤先生からは想像できないフランクなものなのだ。

「どうせおまえ暇だろ。来い。忘れんなよ。昨日、代行してやっただろ。化粧落としたって、知らねえよ。くれぐれも七時になる前に校舎に入れ。ここには雪月改(ゆきづき・かい)が作ってくれたうまそうなカレーがある」

 電話を切って、長澤先生がこちらを向いた。

「西織先生を呼んだ」

 今度は井原先輩が動揺する番だ。

「なぜですか、長澤先生!」

「予定外の女子生徒をお預かりしたんだ、こちらとしても万全を期したい。さて、冷めてはいけない。みんな席について。感謝して雪月改さんのカレーを頂こう。三人増えて、あとからもう一人来ますが、大丈夫ですか、雪月改さん」

『二号機でいいですようっ。もちろんです。おかわりもたっぷりありますようっ』

『なんだか忘れられているみたいですけど、神無(かむな)さんもいますようっ。意地悪されると辛味調整用の一味徳用一袋ぶちまけちゃいますようっ。うふっ』

 全員で席に着き、合掌して「いただきます」。

 さすがの料理上手二号機さん。カレーは絶品だ。ほんとうにその味を楽しめた人は残念ながら少なかっただろうけど。

『夜食には鍋を用意しましたっ』

『お楽しみにっ!』


「どん兵衛うまいな」

「でもなんでかわからないが、すこし悲しいな」

 一方、さみしくカップうどんをすする虎徹さんと宗近さんである。


 夕食のあとは、長澤先生による今夜の星空の軽い講義だ。

「ねえ、西織先生来ると聞いても驚かないのね」

 隣に座った露穂子さんが、歌仙くんにささやいてきた。

「驚いているけど?」

 正直に言って、胸がときめいている歌仙くんなのだ。

 井原先輩が押し掛けてきたのにはちょっと引いたが、そのおかげなのか、今夜ひと晩西織先生といっしょなんだと思うと楽しみでしょうがない。

「お兄ちゃんが呼んだってことにだよ」

「ああ。昨日さ、うちの村で西織先生と山本先生が呑んでてさ。迎えに来たのが長澤先生ともうひとりの男の人だったんだ」

「へえ、そうだったんだ。たぶん、となりの高校で物理教えてる山本先生。山本先生の夫。大学時代にその四人でグループだったの」

「つまり」

 まあ、そういうことだろう。

「グループの中で、山本先生たちがつきあってて、長澤先生と西織先生もつきあっていたということ?」

 歌仙くんとしては少し胸がうずくが、大学生なんだし、そういうこともあるだろう。

「私もそう思ってたけど、すこし違うみたい」

 露穂子さんが言った。

「小学生だった私にはよくわかんない。山本先生たちが結婚したんだし、こっちもそのうちそうなるんだろうと思ってたんだけどな」

「あのさ、長澤さん」

 歌仙くんが言った。

「なんでそんな情報、おれに教えてくれるの?」

 露穂子さんがいつもの真顔を向けてきた。

 そして、にかっと笑った。

「あとで井原先輩にもさりげなく教えておく。四角関係として公開情報は共有するのがフェアでしょ?」

 楽しんでやがる。

 まあ、その情報はありがたい。

 そして、露穂子さんが把握しているかどうかわからないトップシークレットが歌仙くんにはある。あの居酒屋で西織先生本人が大声で言っていたことなのでトップシークレットとは言えないかもしれない。ここにいる二号機さんや神無さんも聞いたことだ。あの護衛アンドロイド板額(はんがく)さんも。

 だがそれは、西織先生が来ていると知って隠密偵察をしていた歌仙くんにとっては最大の収穫だった。宝物かもしれない。

 その情報があるから、西織先生と長澤先生の若い頃のことを聞いても冷静でいられる。


 だが歌仙くんは知らない。

 このあと、脳みそがとろけてしまいそうなトップシークレットが次々と彼らの前に並べられてしまうことを。


「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃ~ん」

 西織先生がやって来た。

 化粧を落としたというが、普通にきれいだと歌仙くんは思った。そしてそれが意味もなく嬉しくて、わけもなく自慢に思えた。彼女でもないのに。

 まるで女生徒のようにぴょんぴょん飛び上がって、飲み友達との再会の挨拶を二号機さん神無さんと交わし、西織先生は美味しそうにカレーを食べ始めた。

「悪いな」

 長澤先生が隣に座って打ち合わせをはじめた。

「まあ、そのうちまた代行やってもらう♪」

 親しげな二人を見るのは、やっぱり胸が痛いのだけれど。

 歌仙くんは気にしていることを隠しているつもりらしいが、これ以上なくわかりやすく表情にでている。

 それを見て、井原先輩が爪を噛んでいる。


「こりゃあ、面白くなりそうですなあ!」

 この上なくルンルンで口にしたのは、となりのビルの屋上に寝そべって狙撃銃を構える人間無骨(にんげんむこつ)さんだ。

『人間無骨さん』

 その横で、和服にショールを掛け一号機さんはお茶を飲んでいる。

「イエス、マァム」

『あの三人が悪さをしそうであれば、特にお嬢さんがたにご迷惑をかけそうであったならば、死なない程度に射殺してやってください。これはマスターのご意志でもあります』

「大尉も一号機さんも難しいことを要求なさいますな。イエス、マァム、ご期待に添えるよう努力いたしましょう」

 人間無骨さんは、そのまま気配を消した。

 一号機さんはお茶をすすって、ふうとため息をついた。


 春になり長くなった日も、ようやく暗さが増してきた。

 空では星が次々と輝きはじめ、夜は始まったばかりである。


■主人公編。

鳴神 陸。(なるかみ りく)

えっち星人。宙兵隊二等兵。艦長付。

三人組の一応のリーダー。ケンカ自慢。突っ走るアホ。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人。宙兵隊二等兵。副長付。

美形で芸術肌な、ミニ清麿さん。美術部。


千両 空。(せんりょう そら)

えっち星人。宙兵隊二等兵。機関長付。

小柄で空気を読まない毒舌の天然少年。


■学校編。

長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


高梨 春美。(たかなし はるみ)

地球人。高校一年生。天文部。ハルちゃん。

小柄でボブでちょんまげ付きなので、座敷わらしと言われてしまう。長澤先生が好き。


広田 智。(ひろた さとる)

地球人。高校一年生。美術部。サトル。

歌仙くんの友達。普通っぽいアホ。


井原 優子。(いはら ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。

板額先生と双璧の美女だが、歌仙くんらぶ。

 松田 詩織。

 中沢 弓子。

 井川さんの親友ふたり。


長澤 圭一郎。(ながさわ けいいちろう)

地球人。地学教師で天文部顧問。露穂子さんの兄。三〇歳。

飄々とした人。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本 瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


山本 一博。(やまもと かずひろ)

山本先生の夫。長澤先生の友人。この人も別の高校の物理教師。


■同田貫組周辺編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


同田貫 正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。同田貫組組長。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

長曽禰 ロボ子。(ながそね ろぼこ)

雪月改二号機。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公だが、番外編では性格が変わる。よりひどくなると表現してもいいかもしれない。番外編では「二号機さん」で統一。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


神無。(かむな)

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


板額。(はんがく)

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。護衛としてえっち星に渡ったので世界的な有名人。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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